米の品質制御(イネ種子の発達・登熟)における細胞内自食作用(オートファジー)の役割を発見

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悪環境下における穀物の品質・収量向上技術の開発に向けた一歩

2020-01-23 東京理科大学

東京理科大学 理工学部 応用生物科学科・朽津 和幸 教授、公立諏訪東京理科大学 工学部・来須 孝光 准教授、ならびに、新潟大学、産業技術総合研究所、国立遺伝学研究所、秋田県立大学、京都府立大学、国立環境研究所の共同研究グループは、『イネ種子の発達・登熟に、細胞内分解システムであるオートファジーの存在が不可欠であること』を発見しました。

  • この論文は、Springer Nature社が発行する国際科学誌Scientific Reportsオンライン版に、12月6日に掲載されました。
  • 本研究の一部は、科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)・新学術領域研究「オートファジーの集学的研究:分子基盤から疾患まで」<研究代表者:朽津和幸>、基盤研究(C)、旭硝子財団助成研究<研究代表者:来須孝光>、国立遺伝学研究所共同研究 NIG-JOINT<研究代表者:朽津和幸>などの援助により行われました。

【概要】

イネは我が国の主食であると同時に、世界的にも最も重要な作物の一つであり、日本を含めたアジア地域を初めとして、世界の食料問題において、極めて重要な位置を占めています。そのため、米の収量や品質に直接結びつく、イネの種子形成・登熟過程の研究は、品種改良(育種)の基盤と同時に、食糧・環境・エネルギー問題解決の基礎としても、活発に研究が進められています。一方、環境ストレスは、穀物の収量・品質低下の原因となっており、特に地球温暖化・気候変動に伴う夏期の高温による米の品質低下は、大きな社会問題となっています。しかし、イネを初めとする植物の種子形成のメカニズムは複雑で、未解明の部分が多く残されています。

オートファジー(細胞内自食作用)は、真核細胞に普遍的な細胞の中の分解・栄養リサイクルシステムです。その分子メカニズムを解明された大隅良典教授が2016年のノーベル医学・生理学賞を受賞されたように、その実行機構や哺乳動物・微生物における役割や病気との関連が精力的に解明され、医学・薬学分野を中心に、世界中で最も注目を集めている生物の研究領域の一つとなっています。哺乳動物を始めとする種々の生物において、オートファジー能が欠損すると、ライフサイクルのさまざまな段階で大きな影響が見られ、多くの場合死に至ることが報告されています。すなわち、動物などでは、オートファジーは、発生、生殖、感染免疫・ストレスに対する応答等に重要な役割を果たしています。東京理科大学の朽津 和幸 教授らの研究グループはこれまでに、イネの花粉形成や葉緑体の再利用過程などにおけるオートファジーの重要性を明らかにして来ましたが、植物のライフサイクルの最終段階である種子形成・登熟との関連は不明でした。

イネを用いた今回の研究の過程で、研究グループは、オートファジー能を欠損したイネの変異体において、稔実種子が、澱粉蓄積異常により白濁する、すなわち品質が低下したくず米と同様の状態になることを発見しました。種子の形成・登熟には、受精の後、胚発生、胚乳(註1)形成、糊紛層(アリューロン層)の分化、胚乳への澱粉蓄積などの多様なステップが必要です。今回の研究により、オートファジー欠損変異体では、種子が小さくなり、胚乳における糖や澱粉の代謝に異常が生じ、胚乳の発達や登熟過程が異常となる、すなわちオートファジーが種子登熟における代謝の制御に重要な役割を果たすことが明らかになりました。今回の成果は、植物におけるオートファジーの全く新しい役割を提唱すると共に、将来的にオートファジーを制御することにより、米の品質低下防止技術の開発に繋がる可能性も示唆しています。環境にやさしい農業への道を開き、食糧・環境・エネルギー問題の解決への第一歩となることが期待されます。

【成果とポイント】

オートファジーとは、細胞質の中に内膜系(オートファゴソーム)が形成され、液胞やリソソームと融合することにより、細胞内小器官や成分(タンパク質、脂質など)が分解される、細胞の中における分解・栄養リサイクル機構です。近年、多くの真核生物において、発生や分化の様々な段階で重要な役割を果たすことが報告されていますが、植物の種子形成におけるオートファジーの役割は未解明でした。

今回、研究グループは、オートファジー欠損イネの種子(米粒)が白濁することを見出し(添付図A)、その完熟種子を走査型電子顕微鏡・電子線マイクロアナライザーなどを用いて詳細に解析した結果、白濁の原因は、澱粉粒に空隙や小孔が生じ、微細化するためであることを明らかにしました(同B)。糖や澱粉の成分分析の結果、オートファジー欠損株の胚乳において、野生型株と比べて澱粉の量が減少し、澱粉分解により生じるマルトースなどの可溶性糖が増加していました。また種子の中の各種タンパク質の量をプロテオーム解析により網羅的に調べたところ、澱粉合成に関与する酵素群の量が低下し、澱粉分解に関与するアミラーゼ(註2)群や、熱ショックタンパク質(HSP)のような分子シャペロン群、酸化ストレス・高温ストレス応答関連因子が増加していました。実際、オートファジー欠損イネの種子では、アミラーゼ群の発現と活性が高まっていました(同C, D)。こうした研究により、イネの胚乳の発達過程で、糖や澱粉の代謝の制御にオートファジーが重要な役割を果たすことが明らかとなりました。

【今後の展開】

オートファジーは、ストレスに対する細胞内の適応において重要な、糖質・タンパク質・脂質など生体分子のリサイクルに関与しており、イネのバイオマスとも密接に関連することも明らかになっています。近年、高温などの環境ストレスによる植物種子の収量や品質の低下が大きな社会問題となり、地球環境・気候変動によりさらなる深刻化が懸念されています。こうした問題の背景には、植物体内におけるエネルギーや栄養のリサイクル機構の不全が原因となっている可能性があります。本研究で得られた知見は、高温ストレスとオートファジーとの関連を示唆しています。本研究を基礎として、植物におけるオートファジーの役割をさらに解明すると共に、植物のオートファジー活性を制御する技術を開発することにより、環境ストレスによる作物の収量や品質の低下を防止し、食糧・環境・エネルギー問題を解決する一助となることが期待されます。

註1:胚乳(はいにゅう)…植物の種子を構成する組織の一つで、イネなどでは発芽に際して胚の成長に必要な養分を供給する。外表面を糊紛層(アリューロン層)に包まれ、内部は澱粉貯蔵細胞の柔組織となっている。糊紛層には、脂肪やアミラーゼに代表される酵素が蓄積される。内部の柔組織は、すべて澱粉貯蔵組織である。この澱粉組織の成分であるアミロースとアミロペクチンの割合により、うるち米や、もち米などの米の性質が変わる。一般的に白米とは、胚乳組織の外装部の糊紛層を除去したものであり、糊紛層より外側の部分が糠(ぬか)と呼ばれる。

註2:アミラーゼ…澱粉分解に関与する酵素。穀類種子では、胚盤上皮細胞および糊紛層細胞においてアミラーゼが合成され、澱粉貯蔵組織である胚乳に分泌され、澱粉分解過程で中心的な役割を果たす。

【図】

「米の品質制御(イネ種子の発達・登熟)における細胞内自食作用(オートファジー)の役割を発見」~悪環境下における穀物の品質・収量向上技術の開発に向けた一歩~

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