電気自動車の完全普及によるCO2排出量削減の効果を解明

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パリ協定の気候目標達成には社会全体での取り組みが必須

2020-03-10   京都大学

藤森真一郎 工学研究科准教授、張潤森 広島大学助教らの研究グループは、将来の電気自動車の導入とそれによるCO2排出量削減の効果を明らかにしました。

現在の電気自動車の急速な普及によって、将来の自動車由来のCO2排出量は大きく変わることが予想されます。2015年のパリ協定では、国際社会は全球平均気温の上昇を2℃以下に抑え、温室効果ガスの排出を今世紀後半に実質ゼロまで下げるという気候安定化目標を掲げました。しかし、それに電気自動車がどのように貢献できるのかという問題はこれまで明らかとなっていませんでした。

本研究では、電気自動車の導入状況と交通部門以外の排出削減努力の進展度合いによって6通りのシナリオを設定し、コンピューターシミュレーションを行いました。その結果、電気自動車の導入により、エネルギー消費量は減少することがわかりましたが、発電システムが火力発電に依存する現状のままでは将来のCO2排出量はほとんど変わらず、全体としては正味で増加してしまうことがわかりました。さらに、仮に発電システムに再生可能エネルギーを大規模に導入したと仮定しても、2割程度のCO2削減にとどまりました。この結果は、パリ協定の2℃目標を達成するためには、交通という単一セクターの限定的な取り組みだけでは難しく、家庭・産業・交通といったエネルギー需要全体と共に、発電を含むエネルギー供給の脱化石燃料化といった社会全体での取り組みが必要であることを示唆しています。

本研究成果は、2020年2月19日に、国際学術誌「Environmental Research Letter」のオンライン版に掲載されました。

電気自動車の完全普及によるCO2排出量削減の効果を解明

図:本研究のイメージ図

詳しい研究内容について

電気自動車の完全普及による CO2排出量削減の効果を解明
―パリ協定の気候目標達成には社会全体での取り組みが必須―

概要
京都大学大学院工学研究科 藤森真一郎 准教授と広島大学大学院国際協力研究科 張潤森(Runsen Zhang)助教らの気候変動に関する研究グループが中心となり、将来の電気自動車の導入とそれによる CO2 排出量削減の効果を明らかにしました。
現在電気自動車が急速に普及してきており、それによって将来の自動車由来の CO2 排出量は大きく変わることが予想されます。2015 年のパリ協定では、国際社会は全球平均気温の上昇を 2℃以下に抑え、温室効果ガスの排出を今世紀後半に実質ゼロまで下げるという気候安定化目標を掲げました。しかし、それに電気自動車がどのように貢献できるのかという問題はこれまで明らかとなっていませんでした。
本研究では、電気自動車の導入状況と交通部門以外の排出削減努力の進展度合いによって 6 通りのシナリオを設定し、コンピューターシミュレーションを行いました。その結果、電気自動車の導入により、エネルギー消費量は減少することがわかりましたが、発電システムが火力発電に依存する現状のままでは将来の CO2 排出量はほとんど変わらず、全体としては正味で増加してしまうことがわかりました。さらに、仮に発電システムに再生可能エネルギーを大規模に導入したと仮定しても、2 割程度の CO2削減にとどまりました。この結果は、パリ協定の 2℃目標を達成するためには、交通という単一セクターの限定的な取り組みだけでは難しく、家庭 産業 交通といったエネルギー需要全体と共に、発電などのエネルギー供給が脱化石燃料化していなくてはならず、社会全体での取り組みが必要であることを示唆しています。
本研究成果は、2020 年 2 月 19 日に国際学術誌「Environmental Research Letter」のオンライン版に掲載されました。

ポイント
● 電気自動車の導入により交通部門由来のエネルギー消費量は大きく減少し、自動車由来の直接 CO2 排出量も抑制されるが、現状の日本のように発電システムが火力発電に依存する場合、人間社会全体からの排出量は逆に増加してしまう。
● 自動車をすべて電気自動車にして、発電システムを再生可能エネルギーに置き換えることで、CO2排出量は2 割程度削減することができる。
● 自動車の電化だけではパリ協定の 2℃目標には程遠く、目標達成のためには家庭 産業 交通のエネルギー需要、発電を含むエネルギー供給が総動員で脱化石燃料化する必要がある。

1.背景
2015 年に採択されたパリ協定は、産業革命前から今世紀末までの地球の平均気温の上昇を 2℃より十分低く保つとともに、1.5℃以下に抑えるような努力をすることで合意しました。この気候変動の抑制に求められる温室効果ガス(GHG)排出の大幅な削減には、様々な主体が関わることが求められるとされています。
一方、近年電気自動車が急速に普及してきました。日本では依然としてその導入量は既存のガソリン車やハイブリッド車と比べると微々たるものですが、今後については様々な技術革新に伴って様相が変わる可能性が十分にあります。先日英国で電気自動車以外の販売を 2035 年には禁止するという政策が発表されましたが、こういった動きはもしかすると様々な国で加速するかもしれません。電気自動車は大気環境面から見ると大気汚染物質、温室効果ガスが直接排出されず、クリーンな自動車とされています。
では、仮に将来電気自動車が完全普及したら、温室効果ガスはどうなるのでしょうか?本研究はこの問いに答えました。単純に既存のガソリン車が電気自動車に置き換わった場合、エネルギー効率は上がりますが、発電の状況次第でシステム全体の排出量がどうなるかは未知数です。

2.研究手法
本研究では、統合評価モデルと呼ばれるコンピューターシミュレーションモデルを用いて、将来の見通しを推計しました。このモデルは将来の人口や GDP、エネルギー技術の進展度合い、再生可能エネルギーの費用、食料の選好、土地利用政策など様々な GHG 排出に関連する社会経済条件を入力として、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、土地利用、大気汚染物質排出量、GHG 排出削減に伴う経済影響などを出力するモデルです。
本研究では以下の 6 つのシナリオを定量化しました。これらのシナリオは、電気自動車が 2050 年で大量導入されているか否か、交通部門以外の排出削減努力がどのように進んでいるか、という 2 つの考え方から構成されています。後者についてはさらに、1)排出削減が進まない現状の延長、2)大規模な排出削減が経済システム全体で進む、3)発電部門のみで排出削減が進み再生可能エネルギーが積極的に導入される、という 3 つの場合を想定しています。

3.結果
上記のシナリオでシミュレーションを行った結果、本研究では次のことが明らかになりました。
(1) 電気自動車の導入により交通部門のエネルギー消費量は下がる(下図左)。
(2) 電気自動車の導入により自動車由来の直接 CO2 排出量も抑制されるが、発電システムが火力発電に依存する現状では、人間社会全体からの排出量は逆に増加してしまう(下図右①と④の比較)。
(3) 自動車をすべて電気自動車にして、発電システムを再生可能エネルギーに置き換えることで、CO2排出量は 2 割程度削減することができる(下図右①、⑥の比較)。
(4) 自動車関連の対策だけではパリ協定の 2℃目標には程遠く、目標達成のためには家庭 産業 交通といったエネルギー需要側全体と発電を含むエネルギー供給側が総動員で脱化石燃料化しなくていけない( 下図右②、⑤に相当)。

5.今後の展望や課題
今回は電気自動車の再生可能エネルギーの時間変動性を抑える蓄電池としての能力を単純化して費用として扱いましたが、再生可能エネルギーが大量に導入されたときにはその単純な仮定が通用しなくなる可能性があります。今後はそういった電気自動車の複合的な役割をより詳細な解析が求められます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は:科研費若手 B、京都大学の京都大学リサーチ ディベロップメントプログラム【いしずえ】の支援を受けて実施されました。

<研究者のコメント>
この数年技術革新や気候変動に対する社会の姿勢は大きく変化してきているように見えます。IT、自動車、エネルギーシステムなど人々の生活と直結してかつ環境問題に影響力のある事象が大きく変わっていく中で真に必要な情報は何か、人々がよりよい社会で生きていけるようにどうしたらいいか、という問いに応えていきたいと思っています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:The role of transport electrification in global climate change mitigation scenarios(地球温暖化抑制における電気自動車の役割)
著 者:Runsen Zhang and Shinichiro Fujimori
掲 載 誌:Environmental Research Letters
DOI:https://doi.org/10.1088/1748-9326/ab6658

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