気候変動に伴う波浪の将来変化予測に成功~地球温暖化の沿岸域への影響を定量化~

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2019-08-26 京都大学

森信人 防災研究所教授、志村智也 同特定助教、Adrean Webb 同特定研究員、Kamranzad Bahareh 白眉センター特定助教らの研究グループは、世界21機関の研究グループ(米国:USGS、オーストラリア:CSIRO、カナダ:環境・気候変動省、英国:国立海洋センター他)と共同で、世界の海岸線の約50%が、21世紀末に波浪特性変化のリスクにさらされていることを明らかにしました。
現在のままの経済活動を継続する将来の気候シナリオでは、平均的な波高がプラスマイナス10%の幅で増加もしくは減少することがわかりました。特に日本周辺は将来変化が大きく、平均的な波高が10%、周期が5%前後減少することが予測されました。
気候変動の影響の中で、日本の沿岸域における自然災害への影響として重要なのは、海面上昇に加えて高潮および波浪の変化予測です。波浪の将来変化については、海岸の防波堤の設計、砂浜やサンゴなどの生態系に影響を与えますが、温暖化の影響を考慮した定量的な将来予測はこれまでできていませんでした。
本研究成果は、地球温暖化に伴う日本の沿岸域の脆弱性の将来変化や適応策、特に砂浜の変化や海洋生態系への研究展開が期待されます。
本研究成果は、2019年8月20日に、国際学術誌「Nature Climate Change」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41558-019-0542-5

Joao Morim, Mark Hemer, Xiaolan L. Wang, Nick Cartwright, Claire Trenham, Alvaro Semedo, Ian Young, Lucy Bricheno, Paula Camus, Mercè Casas-Prat, Li Erikson, Lorenzo Mentaschi, Nobuhito Mori, Tomoya Shimura, Ben Timmermans, Ole Aarnes, Øyvind Breivik, Arno Behrens, Mikhail Dobrynin, Melisa Menendez, Joanna Staneva, Michael Wehner, Judith Wolf, Bahareh Kamranzad, Adrean Webb, Justin Stopa & Fernando Andutta (2019). Robustness and uncertainties in global multivariate wind-wave climate projections. Nature Climate Change.

詳しい研究内容について

気候変動に伴う波浪の将来変化予測に成功
―地球温暖化の沿岸域への影響を定量化―

概要
京都大学防災研究所 森信人 教授、志村智也 同特定助教、Adrean Webb 同特定研究員、Kamranzad Bahareh 同特定助教(研究当時、現:白眉センター・総合生存学館)は、文部科学省「統合的気候モデル高度化研究プ ログラム」等において、世界 21 機関の研究グループ(米国:USGS、オーストラリア:CSIRO、カナダ:環境・ 気候変動省、英国:国立海洋センター他)と共同研究を行い、世界の海岸線の約 50%が、21 世紀末に波浪特 性変化のリスクにさらされていることを明らかにしました。現在のままの経済活動を継続する将来の気候シナ リオでは、平均的な波高が±10%の幅で増加もしくは減少することがわかりました。特に日本周辺は将来変化 が大きく、平均的な波高が 10%、周期が 5%前後減少することが予測されました。
気候変動の影響の中で、我が国の沿岸域における自然災害への影響として重要なのは、海面上昇に加えて高 潮および波浪の変化予測です。波浪の将来変化については、海岸の防波堤の設計、砂浜やサンゴなどの生態系 に影響を与えますが、温暖化の影響を考慮した定量的な将来予測はこれまでできていませんでした。
本成果は、地球温暖化に伴う我が国の沿岸域の脆弱性の将来変化や適応策、特に砂浜の変化や海洋生態系へ の研究展開が期待されます。
本研究成果は、2019 年 8 月 20 日に、英国の国際学術誌「「Nature「Climate「Change」にオンライン掲載され ました。

1.背景
温室効果ガス濃度増加がもたらす気候の長期変化である地球温暖化は、気温上昇や海面上昇だけでなく地球 環境に様々な影響を与えることが予測されています。現在予想されている将来の温かい気候条件では、平均海 面が約 40~80cm 程度上昇することや、台風「・熱帯低気圧「(以下台風)発達に重要な海洋の海面温度の上昇や 大気の安定度の変化が予想され、我が国に来襲する台風の強度や発生頻度にも影響を与えることが考えられて います。気候変動の影響の中で、我が国の沿岸域における自然災害への影響として重要なのは、海面上昇に加 えて高潮および高波という災害強度の変化予測であり、これらの災害強度の将来変化を予測し、沿岸域の脆弱 性の将来変化や適応策を考える必要があります。
波浪の将来変化については、 Sea「Level「Extreme として IPCC 注 1第 5 次評価報告書「(2013 年)でまとめら れています。第 5 次評価報告書では、北半球中緯度における平均的な波高の減少や南半球中高緯度における平 均的な波高の増加が予測されていますが、わずか 4 つの予測結果をまとめたもので、予測の不確実性の評価、 温暖化シナリオ毎の評価まで至っていませんでした。波高、波向の変化、暴波浪の強さや来襲頻度等の沿岸外 力特性の将来変化は、海岸の防波堤の設計や砂浜、またサンゴなどの生態系に影響を与えますが、温暖化の影 響を考慮した定量的な将来予測はこれまでできていませんでした。


図 1:波浪の将来予測とその応用先

2.研究手法・成果
本成果では、各国で行われた全球気候モデル GCM の大気場を外力として、各研究機関で波浪モデル注 2を長 期積分し、現在気候条件、将来気候条件における長期の波浪計算を実施しました「(図 1)。将来気候条件には、 RCP4.5 注 3および RCP8.5 シナリオ注 4を用いて、温室効果ガス濃度による波浪将来変化を大規模にアンサンブ ル評価注 5 しました。モデルアンサンブル数は、RCP4.5 で 72、RCP8.5 で 74 であり、これにより将来の平均 的変化とその不確実性(ばらつき)が評価できるようになりました。
本成果では、世界の海岸線の約 50%が 21 世紀末に波浪特性変化のリスクにさらされていることがわかりま した(図 2)。これらの将来変化は温室効果ガスの排出シナリオに大きく依存します。21 世紀末までの地上平 均気温を 2 度以下とするパリ協定の目標が守られていれば、波浪の将来変化の度合いが現在気候の自然変動の 大きさを超えることはほとんどありません。しかし、現在通りの経済活動を継続する将来の気候シナリオ (RCP8.5 注 4)では、世界の海岸の 50%に渡り、波高、周期の増減や波向の変化などの波浪変化が生じる可能 性がわかりました。これらの変化は海域によって異なり、波高が±10%、周期が±5%幅、波向の変化が最大 17 度の幅で増加もしくは減少することがわかりました。特に日本周辺は将来変化が大きく、波高と周期が 10% および 5%前後減少することが予測されました。
これらの全球の波浪の将来変化予測の不確実性の支配的な要因についても分散分析注 6 により定量化しまし た。全球の波高の将来変化については、気候モデルに起因する不確実性が約 30%、温暖化シナリオの不確実 性と波浪モデルに起因する不確実性がそれぞれ約 20%存在し、これら 3 つの相互作用による不確実性が約 30% であることがわかりました「(図 3)。将来予測の不確実性は海域により異なり、日本周辺では他の海域と比較し て温暖化シナリオに依存する不確実性が高いことがわかりました。
波浪の長期的な変化は、海面上昇の将来の影響をさらに悪化させる可能性があり、本成果は気候変動による 沿岸域の脆弱性評価や適応コストを見積もるために重要な予測と考えています。


図 2:波浪(平均的な波高)の将来予測結果。 斜線は予測確度が高い海域を表している


図 3:波浪の将来予測の不確実性

3.波及効果、今後の予定
IPCC のこれまでの報告書では海面上昇について多く議論が行われてきています。しかし気候変動の影響の 中で、我が国の沿岸域における自然災害への影響として加えて重要なのは、高潮および波浪の災害強度の変化 であり、本研究では平均的な波浪についての不確実性を考慮した将来予測を定量的に行いました。本成果は、 地球温暖化に伴う我が国の沿岸域の脆弱性の将来変化や適応策、特に砂浜の変化や海洋生態系への研究展開が 期待されます。
平均的な波浪特性の変化に加えて、防災の観点から重要になる 10~100 年に一度の確率で発生する高波や 高潮の波浪特性の変化については、例えば波高が大きくするとの懸念があり、今後はこれらの将来変化予測を 実施し、我が国の沿岸域の脆弱性の将来変化や適応策へつながる研究を実施する予定です。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、文部科学省統合的気候モデル高度化研究プログラム・テーマ D「統合的ハザード予測」、科学研 究費補助金 19H00782 および 19K15099、世界気象機関「(WMO)「Coordinated「Ocean「Wave「Climate「Project」 の支援を受けて実施しました。

「用語説明」
注 1)IPCC:気候変動に関する政府間パネル
注 2)波浪モデル:海の波(波浪)のエネルギーの変化を解く数値モデル
注 3)RCP4.5 シナリオ:放射強制力(地球温暖化を引き起こす効果)が中位で安定化するシナリオ
注 4)RCP8.5 シナリオ「:放射強制力の高位参照シナリオ「(2100 年における温室効果ガス排出量が最大となる)
注 5)アンサンブル評価:多数の予測結果を用いて平均およびそのばらつきを推定する評価方法
注 6)分散分析「:変動要因を誤差変動と各要因および交互作用に分解することで各要因の効果を判定する解析

<研究者のコメント>
地球温暖化の沿岸域への影響について、海面上昇に加えて重要な波浪の将来変化を世界の研究者とともに定 量的に予測できました。結果のとりまとめに数年かかりましたが、不確実性の内訳まで評価できた国際的にも 大きな進展となる成果になりました。我が国では 2018 年 12 月に気候変動適応法が施行されました。気候変 動の影響による被害の回避「・軽減対策「(適応策)は我が国にとっても重要な課題です。今後、良い成果を出し 続けたいと思います。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Robustness and uncertainties in global multivariate wind-wave climate projections (地球温暖化に伴う波浪将来予測とその不確実性評価)
著 者:Morin, J., M. Hemer L.W. Xiaolan, N. Cartwright1, C. Trenham, A. Semedo, I. Young, L. Bricheno,  P. Camus, M. Casas-Prat,  L.  Erikson,  L. Mentaschi,  N, Mori, T.  Shimura,  B.  Timmerman,  O.  Aarnes, Ø. Breivik, A. Behrens, M. Dobrynin, M. Menendez, J. Staneva, M. Wehner, J. Wolf, B.  Kamranzad, A. Webb, J. Stopa
赤文字:所属 京都大学防災研究所
掲 載 誌:Nature「Climate「Change, DOI:10.1038/s41558-019-0542-5

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