超軽量風速計でドローンによる風速計測を実現 ~安全飛行と気象観測に貢献~

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2022-11-14 国立極地研究所

国立極地研究所の猪上淳准教授、北見工業大学の佐藤和敏助教の研究チームは、汎用小型ドローンを用いて、上空の風速と風向を正確に計測するシステムの開発に成功しました(図1)。これまで多く用いられてきた超音波風速計の代わりに、汎用小型ドローンにも取り付けられる超軽量の熱式風速センサーを採用し、また、屋内での飛行実験を行って、ドローン動作が計測値に与える影響を除くための補正式を導出しました。ドローンの安全運用や、気象観測への貢献が期待されます。

図1:本成果の概要

無人回転翼機(ドローン)を安全に運用するには、飛行中の風速の把握が極めて重要です。しかし、超音波風速計などに代表される50〜100gの小型風速計でも、専用のデータ収録装置や電池などを含めると、小型ドローンに搭載するには重すぎるシステムとなり、本来のミッションを遂行できなくなる恐れがあります。一方で、機体の飛行情報から風速を計算する手法もありますが、物流などに使われる機体では往路と復路で機体重量が大きく変化するため、定量的な風速値をリアルタイムで取得するには困難な場合があります。
ドローンによる上空の風速計測は気象観測の分野でも期待されています。現在、上空の風速計測に多く用いられているゾンデ観測では、バルーンや計測器が使い捨てになるのに対し、ドローンは何度も使うことができ、高頻度の観測を低コストで実施できるという利点があります。しかしながら、ドローンによる風速計測では機体の昇降やプロペラの回転の影響で計測値に誤差が生じてしまうという問題点がありました。

そこで、本研究チームは、超軽量の熱式風速センサー(1g)を採用することで、汎用小型ドローン(DJI Mavic2)でも風速計測を可能にしました(図2)。さらに、飛行中に想定される風速の誤差を検出するため、屋内での気流の可視化実験を実施し(図3、4、動画1、2)、その結果を用いて風速の補正式を導出しました。

図2:(a)使用した超小型風速センサー、(b)風速計をドローンに搭載した状態。気象センサーやエアロゾルセンサーも搭載して観測。

図3:北見工業大学体育館で実施したホバリング中のドローン周辺の気流の可視化実験の様子。

図4:解析例:(a)解析に用いた画像、(b)解析された風速

動画1:可視化実験の様子(撮影:北見工業大学・佐藤和敏)

動画2:可視化解析に用いた動画(撮影協力:新日本空調株式会社)

次に、屋外、特にドローンでの観測が期待される海上での風速計測が可能かどうかを検証するため、2022年2月、オホーツク海で実施された海上保安庁巡視船「そうや」の航海で、ドローンで高度500mまでの風速の鉛直分布を観測しました(図5、動画3)。補正後の風速データを確認したところ、船上に設置した検定済みの超音波風速計(高度14m)の値に対し±1.2m/sの精度で観測できていたことが分かりました。

図5:(a)海上保安庁巡視船「そうや」の航路図、(b)「そうや」外観、(c)船上風速計。

動画3:海上保安庁巡視船「そうや」でのドローン観測の様子(撮影:北海道大学大学院環境科学院・押野祐大)

さらに、このセンサーを2つ使用することで、風向も算出する改良を行いました。また、飛行中の風速値を地上でリアルタイムに監視できる通信装置を搭載しました。2022年9月に国内で行われた南極観測船「しらせ」の訓練航海で、本観測システムの試験を実施し、洋上で高度1000mまでの風速計測に成功しました。気温等の高精度気象観測(文献1)も同時に実施可能なこの観測システムは、2022年11月から始まる第64次南極地域観測隊で活用される予定です(注1)。ドローンによる気象観測は、気象の数値予報分野への貢献も期待されており(注2)、今後さらに発展すると考えられています。

この成果の一部は、2022年10月3日付のDrones誌に掲載されました。

注1:
南極地域観測第Ⅹ期6か年計画では、重点研究観測課題「南大洋上の雲形成メカニズムの解明と大気循環の予測可能性の向上」において、ドローンを用いた気象・エアロゾル観測を実施する。
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/science-plan10/juuten05.html

注2:
数値予報への観測データの提供を想定した活動として、世界気象機関が主導する無人航空機による気象観測の国際キャンペーンが2024年3月〜8月に予定されている。
https://community.wmo.int/uas-demonstration

文献

文献1:
国立極地研究所、北見工業大学プレスリリース「安価なドローンで高精度気象観測を実現~極域の持続可能な観測網の構築へ向けて~」(2022年1月24日)
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20220124.html

発表論文

掲載誌:Drones
タイトル:Wind Speed Measurement by an Inexpensive and Lightweight Thermal Anemometer on a Small UAV
著者:
猪上 淳(国立極地研究所 気水圏研究グループ 准教授 兼 国際北極環境研究センター 准教授 / 総合研究大学院大学 複合科学研究科 極域科学専攻 併任准教授)
佐藤 和敏(北見工業大学 工学部 助教(地域と歩む防災研究センター 突発災害調査研究部門 所属))
URL:https://www.mdpi.com/2504-446X/6/10/289
DOI:https://doi.org/10.3390/drones6100289
論文出版日:2022年10月3日

発表論文

本研究は、北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)(JPMXD1420318865)、情報・システム研究機構戦略的研究プロジェクトの助成を受けて実施されました。

お問い合わせ先

(研究内容について)
国立極地研究所 気水圏研究グループ 准教授 猪上 淳(いのうえ じゅん)

(報道について)
国立極地研究所 広報室

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