極性超伝導体における巨大整流特性の発見 ~超伝導整流性の起源解明に新たな一歩~

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2020-03-30 東京大学

1.発表者:
板橋 勇輝(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 博士課程 1 年)
井手上 敏也(東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 助教/JST さきがけ研究者)
清水 直(研究当時:理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム 研究員/現:電力中央研究所 主任研究員)
斎藤 優(カリフォルニア大学サンタバーバラ校 研究員)
大内 拓(東北大学金属材料研究所 博士課程 3 年)
野島 勉(東北大学金属材料研究所 准教授)
岩佐 義宏(東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター/物理工学専攻 教授/理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発デバイス研究チーム チームリーダー)

2.発表のポイント:
◆空間反転対称性の破れた極性構造(注 1)を持つ 2 次元超伝導体において、強大な整流特性(注 2)を発見。
◆微視的機構を解明し、2 種類の異なる起源の超伝導整流特性が存在することを発見。
◆本研究成果が、極性構造を有する 2 次元電子系の新機能を開拓すると同時に、空間反転対称性の破れた超伝導体における新奇輸送特性の新たな知見となることに期待。

3.発表概要:
東京大学大学院工学系研究科の板橋勇輝大学院生、同研究科物理工学専攻の井手上敏也助教、岩佐義宏教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター創発デバイス研究チーム チームリーダー兼任)らの研究グループは、理化学研究所や東北大学金属材料科学研究所のグループと共同で、電気二重層トランジスタ(EDLT)構造(注 3)による界面電場によって極性構造を持つ 2 次元超伝導体であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)が、磁場を印加した状況下で巨大な整流特性を示すことを発見した。
空間反転対称性の破れた物質において実現する、半導体 p-n 接合を必要としない物質固有の整流特性は、これまで常伝導体と超伝導体においてそれぞれ個別に報告されてきたが、本研究で初めて同一の物質における常伝導状態および超伝導状態での整流性の観測に成功し、超伝導状態において整流作用が常伝導状態の 1,000,000 倍増大することを発見した。さらに、超伝導整流特性の詳細な温度依存性を調べ、2 種類の異なる起源の超伝導整流特性が存在していることを明らかにした。
本研究成果は、界面において空間反転対称性の破れた極性構造を有する 2 次元電子系の新たな機能性の開拓を推進するだけではなく、一般の空間反転対称性の破れた超伝導体における新規輸送現象の新たな知見となるものと期待される。
本研究成果は、米国科学雑誌『Science Advances』(3 月 27 日アメリカ東部夏時間)に掲載される。

4.発表内容:
①背景
空間反転対称性の破れた超伝導体は、従来の超伝導体とは異なる電荷・スピン物性を示すことから、新奇量子輸送現象の舞台として興味が持たれている。特に最近、超伝導状態において、結晶の空間反転対称性の破れを反映した物質固有の整流特性が実現し得ることが発見され、特徴的な機能性・量子輸送現象の 1 つとして注目を集め始めた。しかしながら、超伝導整流特性の起源にはいくつかの理論的提案があるものの、まだ実験例も少なく、その詳細は不明であった。また、結晶の対称性を反映した整流特性は、これまで常伝導状態と超伝導状態において別個に報告がなされてきており、整流特性の機構や大きさを、常伝導相と超伝導相の両方で包括的・定量的に比較・議論した例はなかった。

②研究内容
本研究では、電気二重層トランジスタ(EDLT)構造によって SrTiO3表面に極性構造を持つ 2 次元電界誘起超伝導を実現し(図 1A、図 2A)、空間反転対称性の破れに起因する整流特性を測定した(図 1B)。その結果、常伝導状態および超伝導状態の両方において明瞭な整流特性を観測すると同時に、超伝導状態における整流特性の大きさが常伝導状態のときと比べて1,000,000 倍に巨大化されることを発見した(図 2B)。さらに、整流特性の温度依存性を詳細に調べ、電荷揺らぎと超伝導ボルテックスの運動という 2 種類の異なる発現機構による整流特性が存在することを発見し、それぞれが温度に応じて移り変わることを明らかにした。
このように、超伝導整流特性は空間反転対称性の破れた物質における特徴的電子状態や超伝導ボルテックスの運動を詳細に反映した現象であると言うことができ、物質中の電子・磁気状態を調べる上で良いプローブになり得ることが示唆された。

③今後の展望
本研究では、空間反転対称性の破れた超伝導体の 1 つである、2 次元電界誘起超伝導体SrTiO3において、極性構造に起因する整流特性を観測し、巨大な超伝導整流特性を発見すると同時に、2 種類の異なる微視的な機構を明らかにした。このような整流特性は、空間反転対称性が破れた超伝導体に普遍的な現象であると考えられ、今後さまざまな空間反転対称性の破れた超伝導体における実証と機構解明が進むと期待される。
また、本研究成果は、界面において空間反転対称性の破れた極性構造を有する 2 次元電子系の新たな機能性の開拓を推進するだけではなく、一般の空間反転対称性の破れた超伝導体における新規輸送現象の新たな知見となるものと期待される。

5.発表雑誌:
雑誌名:「Science Advances」(オンライン版:3 月 27 日)
論文タイトル:Nonreciprocal transport in gate-induced polar superconductor SrTiO3
著者:Y. M. Itahashi, T. Ideue, Y. Saito, S. Shimizu, T. Ouchi, T. Nojima, Y. Iwasa

6.注意事項:
日本時間 3 月 28 日(土)午前 3 時(アメリカ東部夏時間:: 3 月 27 日 (金) 午後 2 時)以前の公表は禁じられています。

7.問い合わせ先:
東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター
助教 井手上 敏也(いでうえ としや)

東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター
教授 岩佐 義宏(いわさ よしひろ)

8.用語解説:
注 1: 極性構造
電場の印加や分子・結晶構造に起因して、分子や結晶内に電気的な偏りが生じている構造。

注 2: 整流特性
電流を正方向に流す場合と負方向へ流す場合で電気伝導特性が異なる現象。p 型半導体と n 型半導体を接合した ダイオード素子で実現することがよく知られているが、近年そのような半導体 p-n 接合が無くとも、空間反転対称性の破れた結晶において物質固有の整流特性が生じることが明らかとなり、さまざまな物質での実証や機構解明が進んできている。

注 3: 電気二重層トランジスタ(EDLT)構造
印加した電場によって電流の流れ易さを調節できる電界効果トランジスタ(FET)の絶縁層をイオン液体と呼ばれる、分子量の大きな塩(えん)で構成される液体に置き換えたトランジスタ(図 1A 参照)。イオンの半径程度という非常に小さい距離に電圧がかかるため、高電場が印加され、通常の FET と比べて 10 倍以上の高キャリアを界面に誘起することが可能である。

9.添付資料:

図1. SrTiO3-EDLT の模式図(A)及び整流特性の模式図(B)


図2. SrTiO3-EDLT の超伝導転移(A) 及び超伝導相と常伝導相における整流特性(B)

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