テラヘルツ帯における反強磁性体磁化ダイナミクスによるスピン流変換を実証

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テラヘルツスピントロニクスへ筋道

2020-03-02   京都大学

森山貴広 化学研究所准教授、小野輝男 同教授らの研究グループは、林兼輔 岐阜大学博士課程学生、山田啓介 同助教、嶋睦宏 同教授、大矢豊 同教授、Yaroslav Tserkovnyak カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授らの研究グループと共同で、テラヘルツ帯の反強磁性共鳴によるスピンポンピング効果(磁化ダイナミクスからスピン流への変換現象)を実証しました。

これまでスピンポンピング効果は、強磁性体におけるギガヘルツ帯の磁化ダイナミクスに付随して観測されていましたが、2桁以上周波数が高いテラヘルツ帯の磁化ダイナミクスを有する反強磁性体では観測されていませんでした。本研究では、反強磁性体である酸化ニッケル中に重金属(HM、白金PtやパラジウムPd)粒子を様々な割合で分散させたグラニュラー構造物質((NiO)1-xHMx)のテラヘルツ透過吸収測定を行い、その共鳴スペクトル線幅の変化からスピンポンピング効果を実証し、その多寡を見積もりました。

本研究成果は、テラヘルツ帯においても、磁化ダイナミクスからスピン流への変換現象を利用できることを示唆するものです。今後、反強磁性体を利用した、テラヘルツ帯で動作可能なスピントロニクスデバイスへの応用が期待されます。

本研究成果は、2020年2月5日に、国際学術誌「Physical Review B:Rapid Communications」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.101.060402

Takahiro Moriyama, Kensuke Hayashi, Keisuke Yamada, Mutsuhiro Shima, Yutaka Ohya, Yaroslav Tserkovnyak, and Teruo Ono (2020). Enhanced antiferromagnetic resonance linewidth in NiO/Pt and NiO/Pd. Physical Review B, 101(6):060402.

詳しい研究内容について

テラヘルツ帯における反強磁性体磁化ダイナミクスによるスピン流変換を実証
テラヘルツスピントロニクスへ筋道―

概要
テラヘルツ光 ・電磁波の利用は将来の大容量通信やセンシング技術を担う重要技術として、注目を浴びています。京都大学化学研究所の森山貴広・准教授、小野輝男・同教授らの研究グループは、岐阜大学工学部の林兼輔・博士課程学生、山田啓介・同助教、嶋睦宏・同教授、大矢豊・同教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校物理学科のYaroslav・Tserkovnyak教授らの研究グループと共同で、テラヘルツ帯の反強磁性共鳴注 1によるスピンポンピング効果注2(磁化ダイナミクスからスピン流への変換現象)を世界に先駆けて実証しました。
これまでスピンポンピング効果は、強磁性体におけるギガヘルツ帯の磁化ダイナミクスに付随して観測されていましたが、2桁以上周波数が高いテラヘルツ帯の磁化ダイナミクスを有する反強磁性体では観測されていませんでした。本研究では、反強磁性体である酸化ニッケル中に重金属(HM、白金PtやパラジウムPd)粒子を様々な割合で分散させたグラニュラー構造物質((NiO)1-xHMx)のテラヘルツ透過吸収測定注 3を行い、その共鳴スペクトル線幅の変化からスピンポンピング効果を実証し、その多寡を見積もりました。本成果は、テラヘルツ帯においても、磁化ダイナミクスからスピン流への変換現象を利用できることを示唆するものです。今後、反強磁性体を利用した、テラヘルツ帯で動作可能なスピントロニクスデバイスへの応用が期待されます。
本研究成果は、2020年2月4日(現地時間、日本時間2月5日)に米国の科学誌 「Physical Review B: RapidCommunications」にオンライン公開されました。


1. 背景
テラヘルツ光 ・電磁波の利用は将来の大容量通信やセンシング技術を担う重要技術として,近年注目を浴びています。特に、ポスト5Gにおける通信周波数はテラヘルツ帯域が想定されており、これらの周波数帯に対応するデバイスの開発 ・創製が早急に望まれています。ギガヘルツ帯に共鳴周波数を持つ強磁性体は従来のマイクロ波デバイスに多用されています。しかしながら、テラヘルツ帯においてはほとんど応答しないため、これらのデバイス応用には強磁性体は不向きです。一方で、反強磁性体における磁気共鳴(・反強磁性共鳴)周波数は交換結合注 4に起因する交換磁場に比例するため、強磁性体に比べて圧倒的に高くなり、テラヘルツ帯に至ることが知られています(図1)。また、近年様々なテラヘルツ材料が提案されていますが、反強磁性体を利用するメリットとしてスピントロニクス注 5との親和性が挙げられます。反強磁性体に内在するスピン自由度とテラヘルツ光との相互作用を利用することで、新規な・“テラヘルツ“スピントロニクスデバイスへと展開できる可能性を秘めています。このような魅力的な可能性があるにも関わらず、テラヘルツスピントロニクスを見据えた反強磁性ダイナミクスの実験的研究はほとんどありませんでした。


図1:(a)強磁性磁化ダイナミクスと(b)反強磁性磁化ダイナミクスの概念図

2. 研究手法・成果
本研究では、1テラヘルツ(・THz)付近に共鳴周波数を有する反強磁性体 ・酸化ニッケル(NiO)に着目し、反強磁性磁化ダイナミクスからスピン流への変換現象(スピンポンピング効果)について調査しました。まず、酸化ニッケル中に重金属(HM、白金PtやパラジウムPd)粒子を様々な割合で分散させたグラニュラー構造物質((NiO)1-xHMx)を焼結法により作製しました。これらの試料に対して、図2(a)に示したようなテラヘルツ透過吸収測定を周波数を変化させて行いました。この試料系におけるスピンポンピング効果の理論概念図を図2(b)に示します。NiOの反強磁性磁化ダイナミクスにより、スピン流(・clip_image006)が生成され、重金属粒子(・Pt,・ Pd)に注入されて、重金属中にスピン蓄積が起こります。これらの重金属はスピン軌道相互作用注 6が強いためclip_image008のほとんどは散逸し、残った僅かなスピン蓄積によりスピン流の逆流(・clip_image010)が起こります。反強磁性磁化ダイナミクスのダンピング定数注 7は、スピン流の絶対値(clip_image012)とその逆流の絶対値(clip_image014)の差、すなわち重金属でのスピン散逸の大きさに比例して増加することが理論的に知られています。つまり、グラニュラー物質中の重金属の割合を増加させてスピン散逸が増加するに従い、NiOの磁化ダイナミクスのダンピング定数は大きくなることが予想できます。


図2:(a)テラヘルツ分光の模式図(b)反強磁性磁化ダイナミクスによるスピンポンピング効果の理論概念図

一般に、反強磁性磁化ダイナミクスのダンピング定数は、反強磁性共鳴のスペクトル線幅から見積もることができます。テラヘルツ透過吸収測定から得られた(NiO)1-xPtxの共鳴スペクトルを図3に示します。ちょうど 1THzにNiOの反強磁性共鳴による吸収ピークを観測しました(図3(a))。また、共鳴周波数はPtの組成比xに因らず一定であるのに対して、共鳴スペクトル線幅はxの増加に従って大きくなっていることが分かりました(図3(b))。これは、スピンポンピング効果の理論予想と一致しており、確かにテラヘルツ帯の反強磁性スピンダイナミクスにおいてもスピンポンピング効果が起こることを実証した結果です。さらに、図3(b)に示したスペクトル線幅およびダンピング定数のx依存性から、スピンポンピング効果の多寡を決定するパラメータであるスピンミキシングコンダクタンスを求めたところ、PtとPdそれぞれにおいて12nm−2および・5nm−2という値が得られました。これらは、強磁性体におけるスピンポンピング効果と同程度の大きな値です。
本成果は、反強磁性共鳴を利用したテラヘルツ帯におけるスピンポンピング効果(磁化ダイナミクスからスピン流への変換現象)を世界に先駆けて実証したものであり、反強磁性磁化ダイナミクスとスピン自由度の相互作用の一端を明らかにしました。

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