ペロブスカイト半導体の発光量子効率計測に成功

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2019-08-07  京都大学

金光義彦 化学研究所教授、小島一信 東北大学准教授、秩父重英 同教授、池村賢一郎 浜松ホトニクス株式会社エンジニア、松森航平 千葉大学学部生、山田泰裕 同准教授らの研究グループは、ハライド系有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体(CH3NH3PbBr3)の発光量子効率計測に成功しました。
照明や通信、太陽光発電などの光応用分野においては、電気・光エネルギーを相互に変換する発光ダイオード(LED)やレーザダイオード、太陽電池の高効率化が不可欠です。現在、これらのデバイスは用途に応じて様々な半導体材料を用いて製造されています。半導体材料の一つであるハロゲン化金属ペロブスカイトは結晶欠陥が生じにくい性質を持っており、高効率な太陽電池材料として知られています。また、欠陥が少ないという性質は光を電気に変える太陽電池の逆、つまり電気を光に変える発光素子としても魅力的で、ペロブスカイト半導体を用いたLEDの開発も進んでいます。光と電気を相互に変換する際、材料の性能を表す物理量の一つに内部量子効率(IQE)がありますが、一般的に直接計測が困難であるという問題がありました。
そこで本研究グループは、励起された結晶の発光のうち、不透明領域の波長の光(緑色)が結晶の上方にのみ放射される性質を利用して、ペロブスカイト半導体のIQEを実験的に計測することに成功しました。その結果、IQEは少なくとも62.5%に達することを見出し、さらに、メチルアンモニウム(CH3NH3)イオンの過不足によってIQEが大きく変動することを見出しました。
本研究成果は、ペロブスカイト半導体を用いた太陽電池やLEDの開発および機能向上に役立つほか、半導体発光冷却素子のようなユニークな応用にもつながると期待されます。
本研究成果は、2019年7月31日に、国際学術誌「APL materials」のオンライン版に掲載され、「Editor’s Pick」に選ばれました。

ペロブスカイト半導体の発光量子効率計測に成功

図:点状に励起された結晶が発光する様子を撮影した図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1063/1.5110652

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/243259

K. Kojima, K. Ikemura, K. Matsumori, Y. Yamada, Y. Kanemitsu, and S. F. Chichibu (2019). Internal quantum efficiency of radiation in a bulk CH3NH3PbBr3 perovskite crystal quantified by using the omnidirectional photoluminescence spectroscopy. APL Materials, 7(7):071116.

詳しい研究内容について

ペロブスカイト半導体の発光量子効率計測に成功
-太陽電池の材料はよく光る!?-

【発表のポイント】
● ハライド系有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体*1 の発光量子効率*2 を 全方位フォトルミネセンス法*3 にて計測。
● 発光効率の低下要因が、有機カチオン*4 の抜け(A サイト*5 の空孔)にあることを 特定。
● 太陽電池や発光ダイオードの高性能化はもちろん、発光冷却素子*6 実現に向け て計測技術が進化。

【概要】
京都大学化学研究所の金光 義彦 教授、東北大学多元物質科学研究所 小島 一信 准教授、秩父 重英 教授、浜松ホトニクス株式会社 池村 賢一郎 氏、千葉大 学大学院融合理工学府 松森 航平 氏、同大学大学院理学研究院 山田 泰裕 准 教授らの研究グループは、ハライド系有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体 (CH3NH3PbBr3)の発光量子効率計測に成功しました。
照明や通信、太陽光発電などの光応用分野においては、電気・光エネルギーを相 互に変換する発光ダイオード(LED)やレーザダイオード、太陽電池の高効率化が不 可欠です。現在、これらのデバイスは用途に応じて様々な半導体材料を用いて製造さ れています。半導体材料の一つであるハロゲン化金属ペロブスカイトは結晶欠陥*7が 生じにくい性質を持っており、高効率な太陽電池材料として知られています。一方、欠 陥が少ないという性質は光を電気に変える太陽電池の逆、つまり電気を光に変える発 光素子としても魅力的で、ペロブスカイト半導体を用いたLEDの開発も進んでいます。 光と電気を相互に変換する際、材料の性能を表す物理量の一つに内部量子効率 (IQE)*8がありますが、一般的に直接計測が難しいという問題がありました。
そこで小島准教授らは、励起された結晶の発光のうち、不透明領域の波長の光(緑 色)が結晶の上方にのみ放射される性質を利用して、ペロブスカイト半導体のIQEを実 験的に計測することに成功しました。その結果、IQEは少なくとも62.5%に達することを 見出し、さらに、メチルアンモニウム(CH3NH3)イオンの過不足によってIQEが大きく変 動することを見出しました。本研究の成果は、ペロブスカイト半導体を用いた太陽電池 やLEDの開発および機能向上に役立つほか、半導体発光冷却素子のようなユニーク な応用にもつながると期待されます。
本研究の一部は、物質・デバイス領域共同研究拠点、科研費(若手研究(A)、基盤 研究(B)、新学術領域研究「特異構造の結晶科学」)、および科学技術振興機構戦略 ペロブスカイト半導体の発光量子効率計測に成功 -太陽電池の材料はよく光る!?- 的創造研究推進事業 CRESTの助成を受けています。
本研究成果は、米国物理協会(AIP)の科学誌「APL materials」誌の「Editor’s Pick」 に選ばれ、2019年7月31日(北米時間)にオンライン公開されました。


【参考画像】点状に励起*9 された結晶が発光する様子を撮影した図。 (a)色を選別するフィルタを用いない場合、(b)橙色(結晶を透過できる波長)の光だ けを通すフィルタを用いた場合、(c)緑色(結晶に吸収される波長)の光だけを通す フィルタを用いた場合。

【詳細な説明】
1.背景
ハロゲン化金属ペロブスカイト半導体は、太陽電池材料として近年高い注目を集め ている新しい半導体です。2009年の最初の報告から10年で、ペロブスカイト太陽電池 の光・電力変換効率は24.2%に到達し、これは一般に普及しているシリコン太陽電池 (26.6%)に肉薄する高い値です。ペロブスカイト半導体には、結晶欠陥の生成や不純 物の混入が起こりにくい、あるいはそれらがデバイス特性の低下につながりにくいとい う性質を持っており、これがペロブスカイト太陽電池の高い効率につながっていると考 えられています。したがって、ペロブスカイト半導体は太陽電池に限らず発光ダイオー ドやレーザダイオード、光検出器など様々な光デバイスへの応用が期待されています。
このようなペロブスカイト半導体を用いたデバイス開発や基礎研究の展開のために は、さらなる高品質化が必要であるとともに、材料の品質を左右する要因の特定や定 量といった評価が不可欠です。結晶の品質を表す指標の一つである発光内部量子効 率(Internal Quantum Efficiency: IQE)は、ペロブスカイト半導体に残留するわずかな 欠陥に敏感であり、さらには発光デバイスの最高性能を決める物理量でもあるため極 めて重要です。しかしIQEは一般的に、直接計測が難しいことが知られおり、ほとんど の場合は数理モデルを仮定した解析によってその値の推定が試みられてきました。
そ こ で 小 島 准 教 授 ら は 、 全 方 位 フ ォ ト ル ミ ネ セ ン ス ( Omnidirectional 1 橙色フィルタ (c) (a) (b) 緑色フィルタ フィルタなし 励起点 photoluminescence: ODPL)法*10を用いることにより、IQEの実験的な計測に成功しま した。ODPL法は、不透明領域の波長の光が結晶の上方にのみ放射される性質を利 用してIQEを計測する手法です。その結果、IQEは少なくとも62.5%に達することを見出 し、さらに、CH3NH3イオンの過不足によってIQEが大きく変動することを見出しました。

2.研究手法と成果
今回着目しているペロブスカイト半導体は直接遷移型半導体*11と呼ばれ、外部か ら励起を受けると特有の光を放出します(参考画像1参照)。この時、結晶欠陥の少な い結晶ほど強く発光するため、発光効率は結晶の品質(欠陥量)を直接反映します。 ペロブスカイト半導体(CH3NH3PbBr3)の発光分光計測を行うと、図(a)のように光の波 長もしくはエネルギー(光の色に相当)ごとの光強度(発光スペクトル)を知ることができ ます。発光分光計測の一般的な実験配置図を図(b)に示します。このような実験配置 では、結晶の上方(結晶が外部励起された側の表面方向)へ放射された発光の一部 だけが検出されることになり、必ずしもすべての光を検出したことにはならず、効率測 定としては好ましくありません。このため小島准教授らは、結晶から放出された光を全 方位に渡って集めることで図(c)に示すような発光スペクトルや発光量、効率を絶対測 定する方法(実験配置図は図(d)参照)に着目しました。
図(a)と図(c)に示す発光スペクトルを比べると、その形状が異なることが分かります。 これは、結晶から放射される光の方向が、ある光のエネルギー(この場合は2.21電子ボ ルト*12)よりも大きなエネルギー領域(目には緑色に見える)と小さなエネルギー領域 (目には橙色に見える)とで異なることを意味します。このように光の放射方向がエネル ギーに対して依存性を持つことは、IQEの計測を困難にする原因になります。ここで 2.21電子ボルトは結晶の基礎吸収端エネルギーと呼ばれ、このエネルギーより大きな エネルギーの光は結晶に完全に吸収される性質があります(結晶の厚みが十分大き な場合)。したがって、緑色の光は結晶の上方にのみ放射され、その放射パターンや 結晶から光が脱出する確率は結晶と空気の屈折率だけで決まります。一方、基礎吸 収端エネルギーより小さなエネルギーの光(目には橙色に見える)は結晶の中を伝搬 することが可能であるため、参考画像(b)にも見える通り、励起点だけでなく結晶のあら ゆる位置から放射され、結晶全体が輝いて見えます。この結果、橙色の光の放射パタ ーンや結晶から光が脱出する確率は、結晶品質と無関係な結晶の形状やサイズにも 依存してしまいます。そこで小島准教授らは、光が脱出する確率が簡単な計算によっ て求められる緑色光を主に計測する図(b)の計測系と、全方位に渡って光を集めること ができる図(d)の計測系とを組み合わせるODPL計測法を用いることにより、結晶のIQE を計測することに成功しました。
その結果、ペロブスカイト半導体(CH3NH3PbBr3)のIQEは少なくとも62.5%に達する ことを見出し、さらに、CH3NH3イオンの過不足によってIQEが大きく変動することを見 出しました。本研究の成果は、ペロブスカイト半導体を用いた太陽電池やLEDの開発 および機能向上に役立つほか、IQEが極めて高い場合に顕在化する、発光冷却現象 に基づいた半導体発光冷却素子のようなユニークな応用にもつながると期待されます。


図 (a)結晶の上方に放射された発光のスペクトル、(b) 標準的な発光スペクトル検 出系、(c) 結晶の全方位発光スペクトル、(d) 全方位発光スペクトル検出系。

3.今後の展望

本研究にて見出された知見に基づき、CH3NH3イオン濃度の最適化による IQE のさ らなる向上はもちろん、構成元素や結晶育成方法を精査してペロブスカイト半導体発 光デバイスを高効率に駆動可能な波長を拡大させていきたいと考えています。

【論文情報】
タイトル: Internal quantum efficiency of radiation in a bulk CH3NH3PbBr3 perovskite crystal quantified by using the omnidirectional photoluminescence spectroscopy
著者名: Kazunobu Kojima, Ken-ichiro Ikemura, Kouhei Matsumori, Yasuhiro Yamada, Yoshihiko Kanemitsu, and Shigefusa F. Chichibu
雑誌名: APL materials
DOI: 10.1063/1.5110652

【用語解説】
*1ハライド系有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体
原子配列がペロブスカイト(灰チタン石)と同じ結晶構造を持つ半導体材料のうち、有 機分子とハロゲン原子を結晶の構成要素として含むもの。
*2発光量子効率
対象となる発光材料に(本研究では励起レーザによって)入力した粒子(電子や光子) が、発光に利用される確率のこと。
*3全方位フォトルミネセンス(ODPL)法
図(d)に示すような、積分球を使った分光法の一つ。基礎吸収端エネルギー以上の光 の放出方向が決まっていることを利用し、結晶の発光効率を再現性良く測定できる。
*4有機カチオン
炭素をふくみ正に帯電したイオンのこと。CH3NH3PbBr3においてはメチルアンモニウム (CH3NH3)イオンを指す。
*5Aサイト
ペロブスカイト構造を構成する原子 ・分子の位置を指定する、慣用的な語句。 CH3NH3PbBr3においては、メチルアンモニウム(CH3NH3)イオンが配置される位置の こと。
*6発光冷却
励起エネルギーより大きなエネルギーを持つ光子が支配的に放出するようになると、 物質の温度が冷却される現象のこと。材料の発光量子効率が極めて高くなった時に 顕在化すると理論的に予想されている。
*7欠陥
原子が周期的かつ抜けがなく整列することで構成される結晶において、周期性の乱れ や原子の抜け(空孔)の総称。特に点欠陥とは、結晶を構成する原子が本来存在する 位置に原子が存在せず空虚となっている空孔欠陥。結晶の周期性は乱さないが、周 囲の電気的なバランスが崩れており、結晶の特性を大きく変化させる。
*8内部量子効率(IQE)
発光量子効率のうち、入力された粒子のうち材料に吸収されたものが光子に変換され る確率のこと。
*9 励起
対象となる材料を電気エネルギーや光エネルギーを用いて刺激し、活性な状態にす ること。励起された直接遷移型半導体は、余剰なエネルギーを光として放出(発光現 象)し、励起を受ける前の状態に戻ることが多い。
*10全方位フォトルミネセンス(ODPL)法
基礎吸収端エネルギー以上の光の放出方向が決まっていることを利用し、結晶の発 光効率を再現性良く測定できる分光法の一つ。
*11直接遷移型半導体
光を強く放出し、かつ、基礎吸収端エネルギーよりも大きなエネルギーの光を強く吸収 する性質を持つ半導体のこと。
*12 電子ボルト
エネルギーの単位の一種。電子 1 つを 1 V の電位差分だけ動かすのに必要なエネ ルギー。

 

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