世界最高効率で赤外光を化学エネルギーに変換することに成功

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赤外光エネルギーの利用に期待

2019-02-04 京都大学
坂本雅典 化学研究所准教授、寺西利治 同教授、廉孜超 化学研究所・日本学術振興会特別研究員(PD)らの研究グループは、豊田工業大学、関西学院大学、立命館大学、国立研究開発法人物質・材料研究機構と共同で、赤外域に局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を示すCu7S4(硫化銅)ナノ粒子と硫化カドミウムナノ粒子を連結させたヘテロ構造ナノ粒子を合成し、その水素生成光触媒活性を評価しました。

本研究の結果、白金を担持した硫化銅/硫化カドミウムヘテロ構造ナノ粒子が、波長1100 ナノメートルでの外部量子効率3.8%という世界最高の効率で赤外光から水素を生成できる光触媒であることを発見しました。また、この赤外応答光触媒を利用することで、地表に到達する太陽光の最大波長である2500ナノメートルの光を用いて水素を生成することにも成功しました。この事実は、新たに開発された赤外応答光触媒が、全太陽エネルギーのおよそ半分を占める赤外域の太陽光のほぼすべてを高い効率でエネルギーに変換できることを示しています。

さらに、新たに開発した光触媒の電荷分離寿命は、一般的なプラズモン誘起電荷分離よりもはるかに長い273 マイクロ秒で、長寿命の電荷分離が優れた触媒活性の原因であることが示されました。本研究により開発された技術は、赤外光から高効率で水素を発生することのできる光触媒として、革新的な光―エネルギー変換材料への応用が期待されます。

本研究成果は、2018年12月18日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究で合成した硫化銅/硫化カドミウムヘテロ構造ナノ粒子のイメージ図と赤外応答光触媒活性

書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1021/jacs.8b11544

Zichao Lian, Masanori Sakamoto, Junie J. M. Vequizo, C. S. Kumara Ranasinghe, Akira Yamakata, Takuro Nagai, Koji Kimoto, Yoichi Kobayashi, Naoto Tamai, and Toshiharu Teranishi (2019). Plasmonic p–n Junction for Infrared Light to Chemical Energy Conversion. Journal of the American Chemical Society.

詳しい研究内容について

世界最高効率で赤外光を化学エネルギー変換に成功
―赤外光エネルギーの利用に期待―
概要

全太陽エネルギーのおよそ半分を占める赤外域の太陽光の有効利用の実現は、現代社会に眠る新たなエネ ルギー資源の発見に相当します。また、現行の太陽光利用研究は可視光を対象としているため、自然のエネ ルギー生産システムである光合成と競合してしまいますが、赤外光は自然と競合しないため、真に自然と共 存したエネルギー変換を実現することができます。局在表面プラズモン共鳴注1(LSPR : Localized Surface Plasmon Resonance)を利用した光電変換は、LSPR が可視から赤外まで幅広い領域に強い吸収を示すこと から赤外光のエネルギー変換のためのキーテクノロジーとして期待されています。LSPR 材料と半導体の接 合した界面に光を照射した際に観測されるプラズモン誘起電荷移動注2という現象を利用することで、LSPR 材料を用いた赤外光‐エネルギー変換を実現することができます。
今回、京都大学化学研究所 坂本雅典 准教授、寺西利治 同教授、廉孜超 日本学術振興会特別研究員 (PD)、豊田工業大学 山方啓 准教授、関西学院大学 玉井尚登 教授、立命館大学 小林洋一 准教 授、国立研究開発法人物質・材料研究機構 木本 浩司 主席研究員、長井 拓郎 同主幹エンジニアらの研 究グループでは、赤外域に LSPR を示す Cu7S4(硫化銅)ナノ粒子と硫化カドミウムナノ粒子を連結させた ヘテロ構造ナノ粒子を合成し、その水素生成光触媒活性を評価しました。この結果、白金を担持した硫化銅/ 硫化カドミウムヘテロ構造ナノ粒子が、波長 1100 ナノメートル(nm:ナノは 10 億分の 1)での外部量子 効率 3.8%という世界最高の効率で赤外光から水素を生成できる光触媒であることを発見しました。また、こ の赤外応答光触媒を利用することで、地表に到達する太陽光の最大波長である 2500 ナノメートルの光を用い て水素を生成することにも成功しました。この事実は、新たに開発された赤外応答光触媒が、赤外域の太陽 光のほぼすべてを高い効率でエネルギーに変換できることを示しています。従来のプラズモン誘起電荷分離 は、電荷分離によって生じた正孔(ホール)と電子の再結合による損失が大きな問題でしたが、新たに開発 した光触媒は、273 マイクロ秒という電荷分離寿命を示しま した。これは、一般的なプラズモン誘起電荷分離の電荷分離 寿命よりもはるかに長い寿命であり、長寿命の電荷分離が優 れた触媒活性の原因であることが示されました。今回開発さ れた技術は、赤外光から高効率で水素を発生することのでき る光触媒として、革新的な光―エネルギー変換材料への応用 が期待されます。
本研究成果は、2018 年 12 月 18 日に国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン公開されま した。

図 :本研究で合成した硫化銅/硫化カドミウムヘテロ構 造ナノ粒子のイメージ図と赤外応答光触媒活性1.背景
太陽光のエネルギー変換は、人間社会の持続的な発展を支えるクリーンで持続可能なエネルギー源を開発す る上で重要な課題です。ところが、全太陽エネルギーのうち、およそ 46%を占める赤外域の太陽光の有効利 用は、現在までに実現していませんでした。太陽光のスペクトルに占める赤外光の割合から、赤外域の太陽光 の有効利用が実現すれば、光合成や太陽発電などに匹敵する新たなエネルギー資源の発見に相当すると期待さ れます。また、現行の太陽光利用研究は可視光を対象としているため、自然のエネルギー生産システムである 光合成と競合してしまいますが、赤外光は自然と競合しないため、真に自然と共存したエネルギー変換を実現 することができます。
局在表面プラズモン共鳴 (LSPR : Localized Surface Plasmon Resonance)は、紫外から赤外域まで幅広い 波長で制御することが可能という特性を持つため、LSPR を利用した光誘起電荷分離は、高効率の赤外光‐エ ネルギー変換の実現のための鍵を握る現象として注目を集めています。今回の研究では、赤外域に LSPR バン ドを示す硫化銅(Cu7S4 )ナノ粒子と硫化カドミウムナノ粒子を連結させた構造を有するナノ粒子(ヘテロ構造 ナノ粒子)を合成し、その水素生成における光触媒活性を評価しました。

2.研究手法・成果
硫化銅/硫化カドミウムヘテロ構造ナノ粒子は、京都大学 化学研究所 精密無機合成研究室において開発 した方法に基づいて合成した硫化銅ナノ粒子を種結晶として合成しました (図 1)。硫化銅は p 型の半導体 (電 子が欠落した穴 (正孔 :ホール)の移動を利用して電荷を運ぶ半導体)であり、硫化銅ナノ粒子はホールの集 団振動に由来する LSPR バンドを赤外域に示すため、赤外域の太陽光を効率的に捕集することができます(図 2)。
合成したヘテロ構造ナノ粒子の赤外光照射下での水素生成における光触媒活性をガスクロマトグラフィー により測定しました (図 3)。白金を担持した硫化銅/硫化カドミウムヘテロ構造ナノ粒子の水素生成の光触媒 活性は、1100 ナノメートル (nm :ナノは 10 億分の 1)において外部量子効率注33.8%であり、これは現在ま で報告された赤外応答光触媒の中で最も高い効率です (表 1)。また、ヘテロ構造ナノ粒子は太陽光スペクトル の最も長い波長である 2500 ナノメートルに応答し、水素を生成しました。これは、我々の赤外応答光触媒が 地表に到達する赤外域の太陽光を余すことなく使用できることを示しています。
合成したヘテロ構造ナノ粒子におけるプラズモン誘起電荷分離を、時間分解過渡吸収スペクトル測定注4に より観測しました。1200 ナノメートルの波長のレーザーを用いて、硫化銅ナノ粒子の LSPR バンドを励起し、 過渡吸収スペクトルを解析すると、LSPR の励起によって生じた熱電子が硫化カドミウム側に移動しているこ とが明らかになりました。また、興味深いことに、今回観測した系については、およそ 273 マイクロ秒という 長い電荷分離が観測されました。現在までに、様々な LSPR 材料を用いてプラズモン誘起電荷分離が調査され てきましたが、いずれも電荷分離寿命が短く、高効率の光‐エネルギー変換の実現には至っていませんでした。 硫化銅/硫化カドミウムヘテロ構造ナノ粒子において観測された光誘起電荷分離は、従来のプラズモン誘起電 荷分離と比較するとはるかに長い寿命を持ち、これが赤外光の高効率エネルギー変換に大きく貢献していると 考えられます。また、この機構の発見は赤外域の光を用いた光エネルギー変換材料、たとえば赤外応答光触媒や赤外光電変換材料といった新しい材料の開発につながることが期待されます。


図 1.硫化銅/硫化カドミウムヘテロ構造ナノ粒子の透過型電子顕微鏡画像


図2.太陽光スペクトル(紫線)、硫化銅ナノ粒子(黒線) お よび硫化カドミウム/硫化銅ヘテロ構造ナノ粒子(赤線)の 拡散反射スペクトル


図 3.白金を担持した硫化銅/硫化カドミウムヘテロ構造ナ ノ粒子の赤外応答光触媒水素生成反応における外部量子 収率


表1. 現在までに報告された赤外応答光水素生成触媒の性能比較 硫化 カドミウム 外部量子効率(%)

3.波及効果、今後の予定
全太陽エネルギーのおよそ半分を占める赤外域の太陽光の有効利用法の開発は、光合成や太陽発電などに匹 敵する新たなエネルギー資源の開発に相当すると期待されます。また、現行の太陽光利用研究は光合成と競合 してしまいますが、赤外光は自然と競合しないため、真に自然と共存したエネルギー変換を実現することがで きます。生命活動に干渉しない未使用エネルギーである赤外光の利用は、学術的 ・経済的 ・社会的に新たな価 値を創出すると考えられます。

4.今後の予定
今回の研究では、3.8%という世界最高の効率で赤外光から水素を生成できる赤外応答光触媒の開発に成功 しました。今回の研究成果は、赤外域の光を用いた光エネルギー変換材料、たとえば赤外応答光触媒や赤外 光電変換材料といった革新的な材料の開発につながることが期待されます。今後は、触媒の更なる性能向上 とともに、触媒反応の多様化、赤外光によるエネルギー変換機構の詳細な解明を進める予定です。

5.研究プロジェクトについて
独立行政法人日本学術振興会
科学研究費補助金 基盤 B (18H01827)
新学術領域 高次複合光応答 (JP17H05257)
新学術領域 配位アシンメトリ(JP16H06520)
新学術領域 複合アニオン (17H05491)

<用語解説>
注 1) 局在表面プラズモン共鳴
入射光によって誘導される材料中の電子の集団振動を表面プラズモン共鳴といいます。ナノメート ルサイズの構造における表面プラズモン共鳴を局在表面プラズモン共鳴と呼びます。

注 2) プラズモン誘起電荷移動
金ナノ粒子と酸化チタンの界面など、LSPR 材料と半導体などの接合界面において光照射を行うと、 LSPR バンドの励起に伴って LSPR 材料中に形成された熱キャリアが半導体に注入されます。この現 象をプラズモン誘起電荷移動と呼びます。

注 3) 外部量子収率
光触媒に入射した光子の数に対して、反応に利用された光子の割合、見かけの量子収率ともいいま す。

注 4) 過渡吸収スペクトル測定
サンプルにパルスレーザーを光照射することによって光励起状態や反応中間状態等の過渡種を生じ させ、その減衰 ・生成過程を光吸収スペクトルの変化として追跡する測定法。材料中で起こるキャリ アの動きを直接観察することができるため光誘起電荷移動の詳細な機構を解明する上で有効な計測 手法です。

<研究者のコメント>
赤外光の高効率エネルギー変換という理想を掲げて研究をスタートした時は、何を試してもほとんど活性が出 ず、何度も悔しい思いをしましたが、最終的には現行のチャンピオンデータを大きく上回る素晴らしい光触媒 を開発することができました。本研究が、今まで有効な方法のなかった赤外光のエネルギー利用におけるブレ イクスルーとなることを期待しています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Plasmonic p–n Junction for Infrared Light to Chemical Energy Conversion(プラズモニックp- n接合による赤外光の化学エネルギー変換)
著 者:Zichao Lian, Masanori Sakamoto, Junie J. M. Vequizo, C. S. Kumara Ranasinghe, Akira Yamakata, Takuro Nagai, Koji Kimoto, Yoichi Kobayashi, Naoto Tamai, Toshiharu Teranishi
掲 載 誌:Journal of the American Chemical Society  DOI:10.1021/jacs.8b11544

<注意事項>
著作権(版権)は、坂本、寺西にあります。

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