オーロラが爆発するとヴァン・アレン帯の電子が上空65kmにまで侵入する

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2019-02-08  情報・システム研究機構,国立極地研究所,名古屋大学,宇宙地球環境研究所,金沢大学,電気通信大学,京都大学,東京大学大学院理学系研究科

オーロラ爆発の際、宇宙空間のヴァン・アレン帯(注1)から地球に降り注ぐ高いエネルギーの電子の数が急増し、上空65km付近という比較的低い高度の大気を電離させていることが、昭和基地の大型大気レーダー「PANSYレーダー」(注2)とジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG衛星、注3)での観測から明らかになりました。

オーロラが急激に明るく光る「オーロラ爆発」と呼ばれる現象が南極・昭和基地上空で世界時(注4)2017年6月30日22時20分から約5分間(図1)にわたって発生し、同基地の大型大気レーダー「PANSYレーダー」(研究代表者:佐藤薫・東京大学教授)によって、オーロラよりもはるかに低い65km高度で大気の電離が確認されました。通常は電離しない高度の大気が、オーロラの光る高度と同様に電離していることに驚いた国立極地研究所の片岡龍峰准教授らの研究グループは、なぜこのような低い高度の大気が電離したのか、という「謎解き型」の研究を行いました。このとき幸運にも、昭和基地から磁力線を辿った先の宇宙空間に、「あらせ」衛星が位置しており、ヴァン・アレン帯電子の急激な変化を観測していました。

図1:世界時2017年6月30日22時20分前後のオーロラ爆発の様子。左は爆発5分前、右は爆発直後。(提供:国立極地研究所・宮岡宏)

宇宙空間から降ってきてオーロラを光らせる数keVの電子は高度100km付近の大気を電離させて止まりますが、そのとき発生するX線は、オーロラよりも低高度の大気を電離させることが知られています。したがって、PANSYレーダーの観測結果の解釈として、「オーロラ爆発の際にオーロラX線が大量に増えた結果ではないか」という可能性が考えられました。一方で、「ヴァン・アレン帯電子が、オーロラ爆発と同時に大量に降ってきた結果ではないか」という可能性も考えられました。ヴァン・アレン帯の電子は普段は宇宙空間に留まっていますが、100-1000keVという高いエネルギーを持つため、仮に宇宙空間から大気に降ってくることがあれば高度65kmにまで侵入できます。本研究では、電子が大気に入射した際に発生するX線や大気電離を計算できるモンテカルロ型シミュレーション「PHITS」によって、オーロラX線とヴァン・アレン帯電子の両者が引き起こす電離度を見積もり、この謎に迫りました。

その結果、高度65km付近ではオーロラX線による電離はわずかであり、電離のほとんどはあらせ衛星で観測されたヴァン・アレン帯電子の大量降下のために起こったことが明らかになりました(図2)。このシミュレーション結果は、昭和基地に導入されているオーロラカメラやリオメータ(注5)等の様々な観測装置のデータとも整合的であり、どのくらい高いエネルギーの電子が宇宙から大気へ降り込んでいたかが確実に推定できた、ということになります。このような検証が十分にできるのは、昭和基地が、さまざまな観測器が一カ所に集められた観測拠点であるためです。また、ヴァン・アレン帯電子の流入は、オーロラ爆発の数時間後に発生する脈動オーロラ(注6)の時に起こることが知られていましたが、今回、オーロラ爆発の直後にも起こりうることが判明しました。

図2:カーテン型のオーロラ(赤)、放射線電子(黒)による電離率の高度プロファイル。

今回観測されたオーロラ爆発は、特に強いわけでも、特に弱いわけでもなく、ごく典型的なものです。本研究によって、オーロラとしては光らないために肉眼で確認することができないヴァン・アレン帯電子が、オーロラ爆発と同時に大量に落ちて来ることによって、高度65kmといった下部中間圏の大気もオーロラ高度と同等に電離し得る、ということが定量的に確認されました。また、今回の結果は、オーロラ爆発直後の数分間という短い時間に限ってヴァン・アレン帯電子が降ってくるということを明らかにしたものですが、なぜその限られた時間だけヴァン・アレン帯電子が大気まで落ちてくるための道が開通するのか、という具体的な仕組みは明らかになっていません。今後、先端的なシミュレーション研究や「あらせ」等による宇宙空間の直接観測データの詳細な分析など、さらなる研究が必要です。

注1 ヴァン・アレン帯
宇宙空間の中で、高エネルギーの電子が地球の磁場に捉えられているドーナツ状の領域を指す。

注2 PANSYレーダー
南極・昭和基地に建設された、1045本のアンテナで構成される南極最大の大気レーダー。上空に向けて強力な電波を発射し、大気中で散乱され戻ってきたわずかな電波(反射エコー)を検出することで、大気の動き(風)や電子密度を観測する。2011年に建設され、一部のアンテナを用いた観測を開始。15年3月にはすべてのアンテナを使った観測が開始された。

注3 ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG衛星)
2016年12月に打ち上げられた日本の科学衛星。ヴァン・アレン帯の中心部で直接、荷電粒子や電場・磁場の変動を観測し、ヴァン・アレン帯が変動するメカニズムの解明を目指している。

注4 世界時
イギリスのグリニッジ天文台(本子午線が通る)における平均太陽時で表される世界共通の時間。UT(Universal Time)とも書かれる。昭和基地と世界時との時差は3時間で、昭和基地が早い。

注5 リオメータ
銀河から飛んでくる雑音電波を観測し、その強度の変化からオーロラ等に伴う高エネルギー電子の降り込みを調べる装置。

注6 脈動オーロラ
オーロラの一形態。ぼんやりとしたパッチ的な形状で、数秒間に1回明滅している。また、光っている間に、1秒間に数回瞬く(明るさが変化する)という性質がある。

研究サポート

本研究はJSPS科研費(15H05815、16H06286、15H02628、16H0405、14J02108、17H06140、15H05747)の助成を受けました。

掲載論文

掲載誌: Earth, Planets and Space
タイトル: Transient ionization of the mesosphere during auroral breakup: Arase satellite and ground-based conjugate observations at Syowa Station

著者:
片岡龍峰1,12、西山尚典1,12、田中良昌1,2,12、門倉昭1,2,12、内田ヘルベルト陽仁1,12、海老原祐輔3、江尻省1,12、冨川喜弘1,12、堤雅基1,12、佐藤薫4、三好由好5、塩川和夫5、栗田怜5、笠原禎也6、尾崎光紀7、細川敬祐8、松田昇也9、篠原育9、高島健9、佐藤達彦10、三谷烈史9、堀智昭5、東尾奈々11

1国立極地研究所、2情報・システム研究機構 データサイエンス共同利用基盤施設、3京都大学 生存圏研究所、4東京大学 大学院理学系研究科、5名古屋大学宇 宙地球環境研究所、6金沢大学総合メディア基盤センター、7金沢大学理工研究域、8電気通信大学 大学院情報理工学研究科、9宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、10日本原子力研究開発機構、11宇宙航空研究開発機構研究開発部門、12総合研究大学院大学複合科学研究科

DOI: 10.1186/s40623-019-0989-7
URL: https://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/s40623-019-0989-7
公開日: 2019年1月23日

お問い合わせ先

国立極地研究所 広報室

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