硫黄化合物を低温・高効率で酸化する環境型触媒を開発

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サルファーフリー燃料ほか有用物合成に威力

2018/07/09 東京工業大学 科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • 化学工業において重要な選択酸化反応では、酸素分子のみを用いた環境調和型の触媒プロセスの開発が切望。
  • ルテニウムを含むペロブスカイト触媒を独自手法で合成。低温・高効率で硫黄化合物を酸化、有用物の合成に成功。
  • スケールアップ可能で再利用が容易な固体触媒として、広範な応用に期待。

東京工業大学 科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の原 亨和 教授、鎌田 慶吾 准教授と元素戦略研究センターの熊谷 悠 特任准教授、フロンティア材料研究所の大場 史康 教授らは、ルテニウム酸バリウム(BaRuO)菱面体晶ペロブスカイト注1)触媒が、硫黄化合物のスルフィド注2)から酸素分子(O)のみを酸素源として有用なスルホキシドやスルホン注2)を合成できることを発見した。

酸素分子のみを酸化剤とする選択酸化反応は高難度反応の1つであり、新しい固体触媒の設計と開発が切望されている。原教授らは、実験と理論計算による反応機構を検討し、BaRuO触媒中の近接する2つのルテニウムを架橋する酸素原子(面共有酸素八面体構造注3))が酸化反応に寄与し、温和な条件でも高い触媒性能が発現することを明らかにした。この研究成果は複合酸化物中の反応性の高い特異な酸素原子の活用が高効率酸化反応開発の有用な手法であることを示している。

従来の合成手法では、望みの組成と大きな表面積を併せ持つペロブスカイト型酸化物触媒を合成することは困難とされていた。原教授らが独自開発したゾルゲル法注4)により、大きな表面積を持つBaRuOナノ粒子を合成でき、温和な条件下においても高い触媒性能を発現させることに成功した。

研究成果は2018年7月9日(日本時間16時)に米国科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces」オンライン速報版で公開される。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域:「革新的触媒の科学と創製」(研究総括:北川 宏 京都大学 教授)

研究課題名:「低級炭化水素の選択的酸化アップグレーディングを目指した金属酸化物触媒の創製」

研究代表者:鎌田 慶吾(東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所)

研究実施場所:東京工業大学

研究期間:平成27年12月~平成31年3月

<背景と研究の経緯>

化学プロセスの3割を占める選択酸化反応は、汎用化成品・プラスチックや医薬品原料などの高付加価値製品の製造において重要な反応である。毒性が高く、廃棄物を大量に副生する酸化剤を用いたプロセスとは大きく異なり、酸素分子のみを酸化剤とした選択酸化反応は最も理想的な反応である。しかしながら、反応制御において今なお多くの課題を抱えている高難度反応の1つであり、温和な条件で選択的に原料を酸化できる新しい触媒の開発が急務となっている。

スルフィドを酸化して得られるスルホキシドやスルホンは、生合成における中間体、不斉反応での配位子、酸素ドナーとして有用な有機硫黄化合物である。しかし、不活性な芳香族スルフィド類を、添加物を用いず酸素分子のみを酸化剤として選択酸化反応させる固体触媒の報告例はほとんどなかった。

このような研究背景のもと、構成元素により化学的性質を制御できるペロブスカイト型酸化物が優れた酸化触媒として機能すると考えた。原教授らが独自に開発したゾルゲル法を用いることで、従来合成法の問題点であった低い表面積・元素適用性を解決することに成功した。ペロブスカイト型酸化物は、電気化学反応、光触媒反応、高温での気相反応の触媒としては研究されているが、環境調和型反応を含む液相反応への応用研究例はほとんどなかった。BaRuO触媒は、これまでに硫黄化合物の選択酸化反応を含む液相反応における固体触媒としての利用はなく、今回の研究が初めての報告例となる。

<研究の成果>

東工大の原教授らは、リンゴ酸注5)を用いたゾルゲル法により得られた菱面体晶構造を持つペロブスカイト酸化物(BaRuO)のナノ粒子が、従来の固体触媒や他のルテニウム酸化物触媒とは異なり、硫黄化合物であるスルフィドの酸化反応を極めて温和な条件で促進する固体触媒として機能することを発見した(図1上)。固体触媒のため、反応後の触媒をろ過により容易に分離回収でき、活性や選択性に変化なく再利用できる。

X線回折を用いた構造解析から、BaRuOは近接したルテニウムが酸素原子3つで架橋された面共有酸素八面体構造を持っていることが分かった(図1左下)。一方、他のルテニウム酸化物(SrRuO、CaRuO、RuO)では、近接したルテニウムが酸素原子1つで架橋された頂点共有酸素八面体構造注3)のみを持っている(図1右下)。また、ゾルゲル法で合成したBaRuOは従来の合成法よりも大きい比表面積を持ち、走査型電子顕微鏡を用いたBaRuOの観察からも20–50ナノメートル(nm)程度のナノ粒子の集合体であることが分かった。

種々の触媒を用いたチオアニソール注6)の酸化反応結果を表1に示す。ペロブスカイト型酸化物ARuO(A=Ca、Sr、Ba)の中でも、面共有酸素八面体構造を持つBaRuOが最も高い活性を示した。ルテニウムの単純酸化物や原料である塩は不活性であった。またBaRuOは、酸化反応に有効なマンガン系酸化物よりも表面積が小さいにも関わらず高い活性を示した。特に、40℃という温和な条件下においてスルホキシドへの酸化反応が効率的に進行し、従来の固体触媒では高い反応温度(100–150℃)を必要とするのと比較してプロセスの低エネルギー化に成功した。

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