巨大な集光アンテナをもつ光化学系Ⅰの立体構造を解明~太陽光エネルギーの高効率利用に前進~

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21019-06-24  岡山大学,大阪大学,日本医療研究開発機構

発表のポイント
  • 緑藻は巨大な集光アンテナタンパク質複合体を持ち、太陽の光エネルギーを効率的に利用することが知られていましたが、その詳細な構造は不明でした。
  • 緑藻の光化学系Ⅰ―集光アンテナタンパク質超複合体の立体構造を、クライオ電子顕微鏡[1]を用いて決定しました。
  • 本研究成果は、光合成が高い効率で光エネルギーを利用する仕組みの解明や、人工光合成[2]実用化に不可欠な光エネルギーを効率的に利用する技術の開発に重要な知見を与えると期待されます。
概要

岡山大学異分野基礎科学研究所の高橋裕一郎教授、菅倫寛准教授、小澤真一郎特任助教と大阪大学蛋白質研究所の宮崎直幸助教(現:筑波大学)らの共同研究グループは、光合成において、光エネルギーを効率的に吸収し二酸化炭素を糖に変換するために必要な還元力[3]を作り出す、緑藻の光化学系Ⅰ―集光アンテナタンパク質超複合体の立体構造を、クライオ電子顕微鏡を用いて原子レベルの解像度で決定することに成功。光合成において太陽光エネルギーを効率よく利用するために必要となる、集光色素とタンパク質の詳細な立体配置を明らかにしました。本研究成果はResearch Articleとして6月10日(英国時間)、英国の科学雑誌「Nature Plants」に掲載されました。

光化学系Ⅰ―集光アンテナタンパク質超複合体は、太陽光のエネルギーを極めて高い効率で吸収・利用しています。本研究成果は、弱い光でも効率的に光合成をする緑藻が光を巧みに利用する仕組みを明らかにしただけでなく、人工光合成実現のために必須な高効率の太陽光エネルギー利用技術を開発するための重要な知見を与えると期待されます。

現状

植物や藻類が太陽の光エネルギーを利用して糖を合成する反応は光合成と呼ばれています。光合成反応では光化学系Ⅱと光化学系Ⅰとよばれるふたつの膜タンパク質複合体が光のエネルギーを吸収して効率よく利用し、光化学系Ⅱは水から電子を取り出す反応を、光化学系Ⅰは糖合成に必要な強力な還元力であるニコチンアミドジヌクレオチドリン酸(NADPH)を供給する反応を触媒しています。

光化学系Ⅰと光化学系Ⅱのまわりは、パラボラアンテナのように光を集める役割がある集光アンテナタンパク質によって取り囲まれています。光合成を行う生物は、生息している環境の光の強さに適応するために、集光アンテナタンパク質の大きさやかたちだけでなく、集光アンテナタンパク質の内部にあるクロロフィルやカロテノイドとよばれる集光色素の種類と数を変化させてきたといわれています。

水中や土壌中など、光が弱い環境で生息する緑藻の光化学系Ⅰは集光アンテナタンパク質(Light Harvesting Complex I, LHCI)の数が8~10個と多く、光エネルギーを効率よく利用する仕組みがあると考えられていましたが、その詳細は分かっていませんでした。緑藻の光化学系Ⅰが光エネルギーを効率よく利用する仕組みを明らかにすることは、光合成を行う生物が環境に適応するために進化した戦略を明らかにするだけではなく、私たちが太陽の光エネルギーを効率よく利用するために重要な知見を与えると期待されています。

研究成果の内容

高橋教授、菅准教授、小澤特任助教、宮崎助教らの共同研究グループは、緑藻クラミドモナスから光化学系Ⅰ―集光アンテナタンパク質超複合体を迅速に精製し、2017年のノーベル化学賞を受賞したクライオ電子顕微鏡と呼ばれる技術を用いて立体構造を2.9Åという原子レベルでの解像度で解析しました。

解析された緑藻の光化学系Ⅰ―集光アンテナタンパク質超複合体では10個の集光アンテナタンパク質複合体が光化学系Ⅰを取り囲んでおり、300個以上のクロロフィルa、クロロフィルb、カロテノイドなどの集光色素が規則正しく配置していることがわかりました。光化学系Ⅰを取り囲んでいる9種類の集光アンテナタンパク質はそれぞれが定まった場所にくっつくことで効率の良い光エネルギー利用を可能としており、必要なときには集光アンテナタンパク質のいくつかが外れ、光化学系Ⅰとほかの光合成膜タンパク質とくっつくことで機能を制御するしくみであることが示唆されました。

社会的な意義

今回明らかにされた立体構造をもとに、物理学や遺伝学の専門家がさらに深く光合成の機能を解析することで、光合成が光エネルギーを高い効率で利用する仕組みが明らかになると考えられます。光合成における光エネルギー利用の仕組みを参考にすることで太陽光エネルギーを効率よく利用するための技術開発が進み、人工光合成実現に大きく近づくと期待されます。


図.緑藻の光化学系Ⅰ―集光アンテナタンパク質超複合体の全体構造。

(a)タンパク質と集光色素の両方を表示したもの。中心の灰色部分が光化学系Ⅰで周囲の色のついた10個のタンパク質が集光アンテナタンパク質複合体。
(b)集光色素のみを表示したもの。緑色と黄色はクロロフィルa、桃色はクロロフィルb、青色と赤色の棒状のものはカロテノイドと呼ばれる集光色素。タンパク質複合体の中には300個にもおよぶ集光色素が適切に配置されていることが明らかになった。

論文情報
論文名:
“Structure of the green alga photosystem I supercomplex with a decameric light-harvesting complex I”
「緑藻PSIと10量体LHCIとの超複合体の立体構造」
掲載誌:
Nature Plants
著者:
Michihiro Suga, Shin-Ichiro Ozawa, Kaori Yoshida-Motomura, Fusamichi Akita, Naoyuki Miyazaki, and Yuichiro Takahashi
DOI:
https://doi.org/10.1038/s41477-019-0438-4
研究資金

本研究は、日本学術振興会 科学研究補助金「若手研究A」(課題番号:JP16H06162)、「特別推進研究」(課題番号:JP16H06162)、「新学術領域研究(研究領域提案型)」(課題番号:JP16H06554)科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「個人型研究(さきがけ)」(課題番号:JP18069982)、日本医療研究開発機構(AMED)「創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)」等の助成を受け実施しました。

AMED事業
事業名:
創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(2017~2021年度(予定))
課題名:
創薬等ライフサイエンス研究のための相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化
(創薬等ライフサイエンス研究のための多階層構造生命科学解析技術の支援と高度化)
代表機関:
大阪大学
補足・用語説明
注1:クライオ電子顕微鏡
サンプルを急速に凍結して電子顕微鏡で観察する技術のひとつ。このうち単粒子解析法と呼ばれる方法が近年の技術革新により急速に発展した。2017年には「溶液中で生体分子を高分解能構造解析するための低温電子顕微鏡法の開発」が認められ、ドゥボシエ、フランク、ヘンダーソンの3氏がノーベル化学賞を受賞した。光化学系Ⅰ―集光アンテナタンパク質超複合体は巨大な膜タンパク質複合体であり、その構造解析にはクライオ電子顕微鏡の利用が必須であった。
注2:人工光合成
光合成を人為的に行う技術のこと。ほとんど無尽蔵に供給される太陽光を利用し地球温暖化に対する環境負荷が大きい二酸化炭素を吸収しエネルギーを生み出し、さらに有害物質を排出しないクリーンエネルギーの生成をめざして実用化が進められている。光を効率的に利用するための技術開発は実用化に重要であると指摘されている。
注3:還元力
酸化還元反応において電子を供給し、他の化合物を還元するものを還元剤という。還元剤の能力は「還元力」として酸化還元電位で評価される。光合成において、二酸化炭素を糖に還元するための還元力を供給するのがNADPHという化合物で、光化学系Ⅰによって光エネルギーを利用してNADP+より作られる。
お問い合わせ
研究内容

岡山大学 異分野基礎科学研究所
准教授 菅 倫寛(すが みちひろ)
教授 高橋 裕一郎(たかはし ゆういちろう)

AMED事業

日本医療研究開発機構(AMED)
創薬戦略部 医薬品研究課

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