AIとシミュレーションを融合しまれな不具合を効率的に発見する技術を開発

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設計時の見落としリスクを軽減しつつ検証時間を大幅短縮

2018/05/11 産業技術総合研究所

日本電気株式会社(以下 NEC)と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下 産総研)は、発生確率が極めて低いため設計段階で事前に発見が難しい不具合を、AI(人工知能)が学習をしながらシミュレーションを繰り返して効率的に見つけ出す「希少事象発見技術」を開発しました。本技術は、NEC の最先端AI技術群”NEC the WISE”(注1)の1つです。

本技術はAI技術とシミュレーション技術を融合させ、複雑な条件の組合せでまれに起こる不具合の探索を効率化し、製品設計段階で熟練の専門家が費やしていた検証時間の大幅な短縮と複数不具合の見落としリスクを軽減します。

今回、本技術を光学機器の設計検証に実際に適用したところ、発生確率が1億分の1程度とまれであるものの、性能低下の原因となる「迷光」(注2)について、熟練の専門家が1週間を要していた検証作業を約1日に大幅に短縮し、複数の不具合を見落とすことなく発見することに成功しました。

本技術により、今後複雑化する機器の設計/生産や社会インフラの運用において人の判断を支援し、まれであるが重大な結果をもたらす不具合を設計段階で事前に発見して除去できることで、製品の品質やインフラ運用における信頼性の更なる向上に貢献します。

背景

NECと産総研は、2016年6月にNEC-産総研 人工知能連携研究室を設立(注3)し、「未知の状況での意思決定」のために、足りない情報をシミュレーションで補いつつ、AIの能力を最大限に引き出す「シミュレーションとAIの融合技術」に取り組んでいます。

現在、新製品を設計する場合、コンピュータ上に模擬的に製品を再現し、シミュレーションを利用して、評価や検証を行っています。不具合検証では、熟練の専門家が様々な条件を想定してシミュレーションを繰り返しながら不具合を探索しますが、まれにしか起こらない不具合は発見に時間がかかるという課題があります。また社会システムの高度化に伴いさらなる高い信頼性が要求されますが、設計対象が複雑になるため、まれな不具合が見落とされるリスクが増大します。

今回、シミュレーション条件が多数で、その組合せが膨大になり、発生確率が極めて低いために発見が難しい不具合であっても、AIが学習をしながらシミュレーションを効率的に繰り返すことで、短時間で複数の不具合の発生条件を見つけ出す「希少事象発見技術」を開発しました。

図1

新技術の特長

1.不具合の検証時間を短縮

AIがシミュレーション結果から不具合の程度と発生頻度を学習して不具合を探索します。その際、学習結果に基づいて、頻度が低いために不具合の検証が不十分になりがちな条件の近傍を集中的に探索する一方、頻度が高く検証が十分な条件はまばらに探索します。このように、発生頻度に応じて意図的に不均一に探索するアルゴリズムを開発しました。その結果、まれな不具合の発生条件を効率的に絞り込むことが可能になり、短時間で不具合を発見することができます。

2.複数の不具合でも見落としリスクを軽減

探索過程で最初に発見した不具合の発生条件の近傍に探索が集中しすぎると、複数の不具合があった場合に、他の不具合を見落とすリスクが高まります。今回、見落としリスクを軽減する最適条件を数理的に導き出し、不具合近傍とそれ以外の探索の比率が50%ずつであることを証明しました。不具合の程度と発生頻度の学習結果に基づいてAIはこの比率を計算し、不具合近傍探索の集中度を調整します。これにより、複数不具合の見落としリスクを軽減することができます。

今後、NECと産総研は、光学設計の他にも橋や建物等の建築構造設計、エンジン等の流体構造設計にも応用を広げ、今後ともAIとシミュレーションを融合させた技術開発と産業応用への貢献に向けて共同で取り組んでいきます。

なお、今回の成果に関してデータマイニング分野の国際会議「SIAM International Conference on Data Mining」(SDM18、期間:2018年5月3日(木)~5日(土)、場所:米国・カリフォルニア州 サンディエゴ)において、5月4日(金)に発表しました。
http://www.siam.org/meetings/sdm18/

(注1) ロゴ
「NEC the WISE」(エヌイーシーザワイズ)は、NECの最先端AI技術群の名称です。”The WISE”には「賢者たち」という意味があり、複雑化・高度化する社会課題に対し、人とAIが協調しながら高度な叡智で解決していくという想いを込めています。
・プレスリリースNEC、AI(人工知能)技術ブランド「NEC the WISE」を策定
http://jpn.nec.com/press/201607/20160719_01.html
・NECのAI
NECデータ活用基盤
NECデータ活用基盤とは、組織の枠を超えて多様なデータの収集・整理・加工・分析ロジックの実行を統合し、データから価値創出を加速するプラットフォーム及びサービスです。
(注2) 迷光
設計時に想定していなかった位置や角度からの入射光や散乱/反射により発生する不必要な光。迷光が検出器面に達すると、ゴーストやフレアと呼ばれるノイズとなって誤差を発生させ、観測性能を低下させる。
(注3) NEC-産総研 人工知能連携研究室
2016年4月5日プレスリリース
「産総研-NEC 人工知能連携研究室」を設立~産総研における初の企業名を冠した研究室、シミュレーションとAIが融合した技術で未知の状況での意思決定を実現へ~
日本電気株式会社(代表取締役 執行役員社長 兼CEO:新野 隆)と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(理事長:中鉢 良治)は、6月1日より、産総研人工知能研究センター内に「産総研‐NEC 人工知能連携研究室」を設立することに合意しました。
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