イネ遺伝資源に関する国際共同研究体制の必要性

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2020-03-25 国際農研

日本では様々なコメの品種改良が行われ、南北に長い国土の様々な気候・気象条件に応じて、おいしくてそれぞれに地域に適応したコメ品種が生みだされてきました。カロリーベースで海外の食料への依存が高い日本ですが、コメのみほぼ自給を達成し、近年では良味を活かして輸出市場の開拓も目指そうとの動きが高まっています(農林水産省HP)。他方、温暖化や異常気象が進む中、今後日本各地において高温による登熟不良など従来の品種では対応できない現象も出始めており、将来、品質が低下したり、安定的に十分な収量を得られなくなることも危惧されてきています(農研機構技報 No.4, 2020)。このために、熱帯・亜熱帯地域のコメ品種について、広く遺伝資源や情報を収集し、品種開発に利用していく準備も整えておく必要があります。また一方で、世界の貧困地帯は熱帯などの開発途上地域に集中しており、コメも主要な食料の一つとして利用されています。コメの安定生産を図ることが、これらの地域の貧困の解決や社会の安定化、ひいては日本の食料安全保障にも大いに貢献することになります。

気候変動による天候不順等に備え、熱帯地域の開発途上地域の貧困の解消に向けて、コメなどの重要な作物に関して世界的に遺伝資源および育種素材の保存と利用に向けての国際的な協力体制を確立する必要性があります。また、国際農研が橋渡しをして、育種研究者へのそれらの育種材料そのものや情報を提供することにより、国内における育種研究の効率化を図ることも大切です。

各国の研究機関や国際農業研究機関と、日頃から育種・品種改良のための共同研究を実施する上での遺伝資源のやりとりに関する国際的ルールを共有し、原産国の利益を損じないよう、反対に益する手段も考慮しながら、国内外での遺伝・育種研究を進めていくことが大切になってきています。このためには、まず初めに広く利用できる育種素材の確保とそれらに対する基礎データベースの開発が極めて重要になってきます。

国際農研は、フィリピンに本部を持つ国際稲研究所(IRRI)や開発途上地域の国立農業研究機関等から分譲を受けた2,000余りのイネ遺伝資源や育種素材にについて、石垣(亜熱帯)、つくば(温帯)と異なる環境下における出穂・収量性等の基礎データの収集と、種子増殖・保存を進めてきました。これまでの研究例の一つとして、インド型イネ品種IR 64の遺伝的背景にインドネシア産陸稲品種の染色体断片を導入した系統群などの育種素材や、フィリピン、インドネシア、ラオス、カンボジア、ケニア、西アフリカの遺伝資源と情報が収集されてきています(Uddin et al. 2016; Objo et al. 2017; Fukuta et al. 2019; Muto et al. 2019)。これらの共同研究で育成したインド型品種の中には、亜熱帯である石垣の環境下で、温帯に適応した日本品種米や他のインド型品種よりも高い収量が得られる系統も見つけられてきています。この育種素材については、品種登録のためのデータ収集を進めており、沖縄の特産品である泡盛等の原料として使用する試みにも貢献しています。

参考文献

Fukuta Y et al. (2019) Genetic variation of blast (Pyricularia oryzae Cavara) resistance in rice (Oryza sativa L.) accessions widely used in Kenya. Breeding Science 69:672-679.

Muto C et al. (2019) Genetic variation in rice (Oryza sativa L.) germplasm from northern Laos. Breeding Science 69: 272-278.

農研機構 (2020)「農研機構技報 (NARO Technical Report)」 No. 4, 2020年3月1日発行. http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/naro_technical_report/134176.html

農林水産省 ホームページ 平成30年度食料自給率について https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-12.pdf

Odjo T et al. (2017) Genetic variation in blast resistance in rice germplasm from West Africa. Breeding Science 67: 500-508. Scince.doi:10.1270/jsbbs.17051.

Uddin MN  et al. (2016) Genetic characterizationof introgression lines with the genetic background of the Indica-type rice (Oryza sativa L.) cultivar IR 64 under irrigated lowland and upland conditions. Field Crops Research. 191: 168-175.

(文責:熱帯・島嶼研究拠点 福田善通)

イネ遺伝資源に関する国際共同研究体制の必要性

2019にフィリピン稲研究所で行ったワークショップでの圃場見学の様子。日本、ベトナム、フィリピン、インドネシア、バングラデシュの研究者 が集まり、イネを観察中。

日本―IRRI共同プロジェクト研究における、系統育成の様子。

1202農芸化学
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