イネがマグネシウム濃度を維持するしくみの手がかりが見つかる~植物のマグネシウム濃度恒常性に関与する分子の発見~

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2022-02-22 東京大学

発表者
小林 奈通子 (東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)

高木 宏樹 (石川県立大学生物資源環境学部 准教授)

楊 笑雨 (東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程)

横井 彩子 (農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門/作物ゲノム編集研究領域 ゲノム編集技術グループ 上級研究員)

瀬川 天太 (石川県立大学生物資源環境学部 博士課程)

星名 辰信 (東京大学大学院農学生命科学研究科 修士課程(研究当時))

大西 孝幸 (宇都宮大学農学部生物資源科学科 准教授)

鈴木 寿 (量子科学技術研究開発機構量子医科学研究所量子生命・医学部門/先進核医学基盤研究部 主任研究員)

岩田 錬 (東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 名誉教授)

土岐 精一 (龍谷大学農学部 教授)

中西 友子 (東京大学大学院農学生命科学研究科 名誉教授)

田野井 慶太朗 (東京大学大学院農学生命科学研究科 教授)

発表のポイント
  • マグネシウムは植物にとって欠かせないミネラルです。本研究では、植物の根や葉がマグネシウムを獲得し維持するのに必須な分子としてOsRZF1というタンパク質を発見しました。
  • 植物中のマグネシウム濃度を維持する仕組みは不明でした。今回発見したOsRZF1タンパク質はDNAなどの核酸に結合する種類のもので、こうしたタンパク質がマグネシウム濃度維持に関与していることを示したのは初めての発見です。
  • 今後、OsRZF1タンパク質の働きを解明することで、マグネシウムが欠乏している農地での農業やマグネシウム肥料が少ない農業の実現に貢献すると考えられます。
発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科の小林奈通子准教授らのチームが、イネがマグネシウム濃度を維持する仕組みに関与する分子としてOsRZF1タンパク質を発見しました。これまで植物がマグネシウムを吸収・移行することに関する知見は集まっていましたが、濃度維持に関与する分子の発見で、マグネシウム濃度維持機構を解明する新たな展開が広がるものと期待できます。こうしたマグネシウムの吸収や輸送・濃度維持機構の仕組みが明らかになることで、マグネシウムが欠乏した農地でも育つ品種やマグネシウムを高濃度に蓄積させる品種の作成に役立つ情報を提供できると考えられます。

発表内容

図1:突然変異イネの相対的なマグネシウム濃度の分布図。選抜した突然変異イネ(LMGC1)を矢印で示した。 (拡大画像↗)

図2:選抜した突然変異イネLMGC1をマグネシウム欠乏条件で生育させた場合。 (拡大画像↗)

図3:2つの遺伝子(A: Os01g0555100(RZF)、 B: Os01g0555200(Rac))それぞれをゲノム編集で欠損させたイネと、第四葉の葉身(L4 blade)のマグネシウム濃度。RZFに変異を入れたイネはマグネシウム濃度が低かった。 (拡大画像↗)


マグネシウムは植物の細胞内に多く含まれており、陽イオンとして様々な生体分子と結合しながら、植物が正常に生育するのに不可欠な役割を多く担っているミネラルです。近年、植物がマグネシウムを取り込む仕組みが少しずつ明らかになっていますが、植物体内のマグネシウムの濃度を最適なレベルに制御する仕組みについては良くわかっていません。

東京大学などのチームは、植物のマグネシウム濃度維持の仕組みを解明することを目的として、最初に、放射線を照射したことによる突然変異(注1)をしたイネの集団の中から、マグネシウム濃度を維持できないイネを探しました(図1)。見つけられたこの突然変異イネ、LMGC1(Low Mg Content 1)はマグネシウムが欠乏した条件に弱く(図2)、根からマグネシウムを吸収する速度が約半分に減少することに加え、根で吸収したマグネシウムを葉へと輸送する速度がおよそ1/4に減少していました。放射線により傷ついたと考えられる遺伝子は無数にある中で、MutMap+解析(注2)によりマグネシウム濃度の維持ができない原因となる遺伝子の候補を2つに絞った後、CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集(注3)の手法でそれぞれの遺伝子について欠損させたイネを作成し、できたイネのマグネシウム濃度や輸送様式を解析したところ、Os01g0555100がコードするOsRZF1タンパク質がマグネシウム濃度維持に必要であることがわかりました(図3)。OsRZF1タンパク質はDNAもしくはRNAに結合するタイプのタンパク質であることから、マグネシウムの吸収や輸送の制御に関わっていることが示唆されます。

今後、OsRZF1タンパク質がどのようなDNAもしくはRNAと結合するのかなど、役割を解き明かすことで、植物がもつマグネシウム濃度維持の仕組み全般が明らかになることが期待できます。こうした仕組みが明らかになることで、マグネシウムが欠乏した農地でも育つ作物を作ることや、人が摂取するマグネシウムが欠乏しがちな地域において農作物にマグネシウムを高濃度に蓄積させる品種の作成に役立つ情報を提供できると考えられます。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C) 小林奈通子(課題番号:19K05751)、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) 田野井慶太朗(課題番号:19KK0148)、基盤研究B 田野井慶太朗(課題番号:20H02885)、基盤研究A 中西友子(課題番号:20H00437)の支援により実施されました。

発表雑誌
雑誌名
Plant Physiology
論文タイトル
Mutations in RZF1, a zinc-finger protein, reduce magnesium uptake in roots and translocation to shoots in rice
著者
Natsuko I. Kobayashi*, Hiroki Takagi, Xiaoyu Yang, Ayako Nishizawa-Yokoi, Tenta Segawa, Tatsuaki Hoshina, Takayuki Ohnishi, Hisashi Suzuki, Ren Iwata, Seiichi Toki, Tomoko M. Nakanishi, Keitaro Tanoi*(*:責任著者)
DOI番号
10.1093/plphys/kiad051
論文URL
https://academic.oup.com/plphys/advance-article/doi/10.1093/plphys/kiad051/7013842
問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 附属アイソトープ農学教育研究施設

准教授 小林 奈通子(こばやし なつこ)

東京大学大学院農学生命科学研究科 附属アイソトープ農学教育研究施設

教授 田野井 慶太朗(たのい けいたろう)

用語解説

注1 突然変異

生物がもつ遺伝物質に変化が生じること。放射線や薬剤を処理することにより、突然変異を積極的に引き起こす手法があります。

注2  MutMap+解析

突然変異をおこした植物において、変化した形や生理現象などの原因遺伝子を同定する手法のひとつ。

注3 CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集

狙った箇所のDNAを二本鎖切断する原理を用いて、ゲノムを改変する手法。

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