超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の運用終了について

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2019-10-02 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2017年12月23日に打ち上げた超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)(※1)の軌道保持運用を2019年9月30日(午前9時42分)に成功裏に終了し、2019年10月1日(午後7時13分)に停波作業(※2)を実施しましたのでお知らせいたします。

 超低高度衛星のメリットは小さなセンサを用いて高分解能の衛星画像を取得できることですが、「超低高度」と呼ばれる軌道高度200~300kmでは通常の地球観測衛星が飛行する高度に比べて大気抵抗や衛星材料を劣化させる原子状酸素の密度が1000倍程度となります。このため、超低高度は、精密な姿勢・軌道制御や長期間の衛星運用が求められる地球観測衛星には不向きとされていました。

 「つばめ」は、推力は極めて小さいものの推進効率の高いイオンエンジンを用いて、271.1km~181.1kmの間で6段階の軌道高度(※3)にて軌道保持技術を実証し、高分解能の衛星画像を取得する実験にて、良好な画質の画像を取得できました(※4)。また、大気密度、原子状酸素の密度や大気に曝露した材料サンプルの劣化状況など、これまでにない長期間のデータを取得するとともに、JAXAが開発した材料が長期間の原子状酸素の曝露に耐えることも実証しました。

 このようなイオンエンジンを用いた超低高度からの地球観測運用や原子状酸素対策に関する基盤的な技術・ノウハウを獲得したのは、JAXAが世界初となります。

 引き続き、JAXAは、「つばめ」で得られた知見をさらに発展させ、科学技術の発展や社会課題解決への貢献となる将来の宇宙利用につなげていきます。

 これまでの「つばめ」の開発・運用にあたり、ご協力・ご支援をいただいた関係各機関及び各位に深く感謝いたします。

※1

衛星の詳細情報は次のサイトを参照:http://www.satnavi.jaxa.jp/project/slats/

※2

通信のための電波送信停止及び衛星電源の遮断

※3

軌道高度は平均軌道長半径から赤道半径を引いたもの

※4

取得画像は次のサイトを参照:http://www.satnavi.jaxa.jp/project/slats/captured/

【「つばめ」外観】

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【運用軌道プロファイル】

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(1)小型高分解能光学センサ(SHIROP)

 SHIROPは、質量19.4kg、口径20cmの小型の光学センサであり、超低高度からの観測による分解能1m以下での撮像技術実証を目的に開発されました。2006年1月に打ち上げた高度692kmの陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)に搭載した光学センサ(PRISM)(口径30cm、分解能2.5m)と比べ、口径がより小さいにも関わらず、超低高度での観測により、0.5m級の分解能を実現しました。

 超低高度での撮像による分解能向上の例として、2018年6月25日及び2019年9月15日の東京・四谷見附交差点付近の画像を以下に示します。軌道高度を381kmから181.1kmへ、約200km低下させることにより、横断歩道や車線の位置、通行中の車などの様子がより鮮明になりました。分解能は1.1mから0.52mへ向上しています。また、高度低下に伴う大気抵抗増やイオンエンジン噴射によって画像が劣化する事象は確認されておらず、超低高度においても良好な画質を取得できることを確認しました。

(a)2019/6/25 12:20 軌道高度381km

(a)2019/6/25 12:20 軌道高度381km

(b)2019/9/15 6:26 軌道高度181.1km

(b)2019/9/15 6:26 軌道高度181.1km

図 SHIROP撮像画像の軌道高度による比較(東京・四谷見附交差点付近)

(2)原子状酸素モニタシステム(AMO)

 超低高度(200km~300km)における大気の主成分である「原子状酸素(AO)」は、反応性が高く、衛星の外表面に使用される金色の断熱フィルムを損傷させることが知られています。原子状酸素モニタシステムを用いて、原子状酸素の量を計測し、また、衛星材料サンプルの劣化状況を観察しました。

 軌道高度300km以下における長期間(6ヶ月)の原子状酸素量の計測や大気曝露による材料劣化のモニタリングは世界初です。「つばめ」で得られたデータは、現在使われている大気モデルの精度向上や高層大気、電離層に係わる物理現象の解明に活用されます。今後、世界に先駆けて取得した知見を活かし、我が国発の衛星設計指針や我が国独自の新材料創成への発展が期待されます。

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