世界初!地球近傍の宇宙で発生するプラズマと電磁波の相互作用発生域の可視化に成功

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~最新の科学衛星「あらせ」と極北のオーロラ観測から宇宙の物理現象を理解~

2019-01-17 金沢大学,名古屋大学,電気通信大学,国立極地研究所,京都大学,東北大学,宇宙科学研究所,情報通信研究機構

金沢大学の尾崎光紀准教授(第47次南極地域観測隊 越冬隊員)を中心とする国際共同研究グループは、地上で観測されるオーロラを使い、地球近傍の宇宙で発生する電磁波コーラス(※1)と高エネルギー電子が共鳴することで生じる波動粒子相互作用(※2)発生域の形状変化の詳細を世界で初めて明らかにしました。

コーラス波動と電子が引き起こす波動粒子相互作用という物理現象は、人工衛星に搭載される電子回路の故障や宇宙飛行士の被ばくなどを引き起こす有害な放射線を発生させます。また、宇宙の高エネルギー電子を地球の大気中へ降下させ、地球の大気組成に変化をもたらす可能性も示唆されています。しかし、波動粒子相互作用は目で見ることができないため、その形状変化の詳細は半世紀以上にわたり不明のままであり、現在もなお、国際観測研究が精力的に継続されています。

本国際共同研究グループは、コーラス波動が高エネルギー電子を地球の大気中へ降下させる際に特殊なオーロラを発光させることに着目し、地球周辺の放射線の様相を調査する科学衛星「あらせ」(2016年打上げ)と地上観測網PWING(study of dynamical variation of Particles and Waves in the INner magnetosphere using Ground-based network observations)との協調観測を行いました。その結果、科学衛星「あらせ」が地球から約3万キロ離れた距離でコーラス波動を捉えたと同時に、そのコーラス波動に伴う波動粒子相互作用が引き起こした突発発光オーロラを地上で捉え、波動粒子相互作用発生域の形状変化が数十ミリ秒単位で非対称に発達することを明らかにしました

本研究成果は、オーロラが宇宙電磁環境を可視化するためのディスプレイに成りうることを間接的に示したとともに、今後、オーロラを用いた宇宙電磁環境ハザードマップを作成することにより、より安定した宇宙利用拡大に貢献することが期待されます

本研究成果は、2019年1月16日に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

研究イメージ図 (C)JAXA

研究の背景

地球周辺の宇宙空間(静止軌道高度程度までの空間をいう)には、自然現象で生じる放射線が飛び交っていることが知られており、商用衛星サービス(気象、通信、GPSなど)への影響や有人月探査などにおける宇宙飛行士の被ばくが懸念されています。この地球周辺宇宙空間の放射線は、宇宙で発生する電磁波コーラスと高エネルギー電子が共鳴することで生じることが知られており、この現象を波動粒子相互作用と呼びます。波動粒子相互作用は、高エネルギー電子を放射線にまで加速させるだけでなく、宇宙の高エネルギー電子を発生域から磁力線に沿って地球の大気中へ降下させ、特殊なオーロラを発生させることも知られています。また、磁力線に沿って大気中に降下した高エネルギー電子は、オーロラを発生させるだけでなく、地球大気組成に変化をもたらすことが示唆されています。このため、宇宙の波動粒子相互作用発生域の詳細を明らかにすることは、宇宙電磁環境や地球大気組成への影響を知る手掛かりとなることから、半世紀以上前から現在に至るまで国際的に盛んに研究され続けています。しかし、コーラス波動を構成するパケットの存続時間は1秒以下と短く、かつ広大な宇宙空間を数少ない科学衛星だけで調べるには限界があり、特に、発生域の形状変化についてはよく分かっていませんでした。

研究成果の概要

本国際共同研究グループは、宇宙の波動粒子相互作用を探査する科学衛星「あらせ」で宇宙のコーラス波動のパケットを捉えるとともに、そのコーラス波動による波動粒子相互作用が引き起こした突発(数百ミリ秒)発光オーロラを科学衛星「あらせ」から約3万キロ離れた地上で同時に捉えることに世界で初めて成功しました。科学衛星と地上で同時に波動粒子相互作用に伴うコーラス波動と関連する突発的なオーロラを捉えるためには、適した軌道を有する科学衛星を打ち上げるだけでなく、科学衛星の軌道に応じた地上観測網の整備が必要になります。そこで、本国際共同研究グループは科学衛星「あらせ」に搭載する世界トップクラスの電磁波観測装置を開発するとともに、北半球を中心に地磁気的な緯度(※3)がほとんど同じとなる場所で経度方向に地球を1周する地上観測網「PWING(study of dynamical variation of Particles and Waves in the INner magnetosphere using Ground-based network observations)」を構築しました。これにより、科学衛星「あらせ」でコーラス波動の詳細を捉えながら、いつ、どの経度でも地上から関連オーロラ現象を捉えることを可能にし(図1)、世界で初めて高時間分解能(10ミリ秒)で両者の協調観測を成功させました。

図1:科学衛星「あらせ」とPWING地上観測網の協調観測イメージ。科学衛星「あらせ」による宇宙での詳細観測と磁力線に沿ったオーロラ観測を通じて地上から波動粒子相互作用発生域の空間分布を捉えることができる。

その結果、科学衛星「あらせ」と磁力線でつながるアラスカ南部のガコナ(PWING国際拠点の一つ)で観測された特殊な突発発光オーロラ現象は、数百ミリ秒の単位で宇宙のコーラス波動とオーロラの明るさと形状変化が一致する変化を示し(図2)、このオーロラがコーラス波動に伴う波動粒子相互作用発生域の形状変化を表すディスプレイになることを明らかにしました。地上で捉えたオーロラの明るさと形状変化は、従来の科学衛星の点観測では捉えることのできなかった波動粒子相互作用発生域の詳細を可視化し、世界で初めて地磁気的な南北方向に非対称性を強く示すことを明らかにしました(図3)。この変化は、電磁波と電子が効率良く共鳴することで磁力線に沿った方向の変化(オーロラの明るさの時間変化として観測される)だけでなく、磁力線を横切る方向の変化(オーロラ形状の空間変化として観測される)が起こっていることを意味します。そして、数百ミリ秒という短期間に限定された範囲で地球大気組成に変化をもたらしうる高エネルギー電子を大気中に急速降下させていることを示唆しています。

図2:科学衛星「あらせ」で観測した数百ミリ秒存続期間を示すコーラス波動のパケットと地上(ガコナ・アラスカ)で観測されたオーロラの一対一対応。宇宙で発生したコーラス波動に伴う波動粒子相互作用に関する情報が磁力線を通じて地上からオーロラとして仔細に可視化されている。

図3:観測された突発発光オーロラの南北方向の非対称形状変化。1ピクセルの強度変化は磁力線に沿った時間変化を表し、形状変化は磁力線を横切る方向の空間変化を表す。

今後の展開

本研究により、これまで知られていなかった磁力線を横切る方向の波動粒子相互作用発生域の形状変化が明らかになりました。本研究は、科学衛星と地上観測による事例解析でしたが、今後、突発発光する特殊な類似オーロラ現象を数多く解析することによって、普遍的な特徴をさらに明らかにできると考えられます。しかし、宇宙の波動粒子相互作用発生域の形状変化の詳細を表す特殊なオーロラは、数百ミリ秒の短い存続期間の現象であることが分かったため、従来のような解析者の目視による大量のデータ解析は困難が予想されます。これに対し、本国際共同研究グループは人工知能を用いてデータを解析することで、この課題を解決できる目途をすでに立てています。今後は人工知能の技術も組み合わせることでオーロラから宇宙の電磁環境を表すハザードマップを作成することにより、より安定した宇宙利用拡大に貢献することが期待されます。また、固有の磁場を持つ惑星においてもコーラス波動と電子の波動粒子相互作用が生じていることも知られています。このため、本国際共同研究グループが開発した電磁波観測装置の搭載された水星磁気圏探査機「みお」(2018年打上げ)などによる惑星探査への応用も期待されます。

研究サポート

本研究は、科学研究費助成事業(15H05747、 15H05815、 16H06286、 16H04056、 17H06140、 17K06456)および金沢大学先魁プロジェクトの支援を受けて実施されました。また、PWING地上観測網データベース構築の一部は、IUGONET(Inter-university Upper atmosphere Global Observation NETwork)の支援を受けました。科学衛星「あらせ」、地上観測データは、JAXA宇宙科学研究所と名古屋大学が共同運用しているERGサイエンスセンターから配信されているものです。

掲載論文

雑誌名:Nature Communications
論文名:Visualization of rapid electron precipitation via chorus element wave-particle interactions(コーラスエレメント波動粒子相互作用による急速電子降下の可視化)

著者名:尾崎 光紀1, 三好 由純2, 塩川 和夫2, 細川 敬祐3, 大山 伸一郎2, 4, 5, 片岡 龍峰5, 6, 海老原 祐輔7, 小川 泰信5, 6, 笠原 禎也1, 八木谷 聡1, 笠羽 康正8, 熊本 篤志8, 土屋 史紀8, 松田 昇也9, 加藤 雄人8, 疋島 充9, 栗田 怜2, 大塚 雄一2, Robert C. Moore10, 田中 良昌5, 6, 11, 能勢 正仁2, 長妻 努12, 西谷 望2, 門倉 昭5, 6, 11, Martin Connors13, 井上 拓海1, 松岡 彩子9, 篠原 育9

1 金沢大学、2 名古屋大学、3 電気通信大学、4 オウル大学、5 国立極地研究所、6 総合研究大学院大学、7 京都大学、8 東北大学、9 JAXA宇宙科学研究所、10 フロリダ大学、11 データサイエンス共同利用基盤施設、12 国立研究開発法人情報通信研究機構、13 アサバスカ大学

掲載日時:2019年1月16日10時(英国時間)にオンライン版に掲載
DOI:10.1038/s41467-018-07996-z
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-018-07996-z

用語解説

※1 電磁波コーラス
磁力線に沿った電子のらせん運動に伴う電磁波。特に、音声に変換すると鳥のさえずりのように聞こえるものをいう。

※2 波動粒子相互作用
無衝突プラズマ中における電磁波と宇宙プラズマの相互作用のこと。電磁波を媒介して宇宙プラズマがさらに高いエネルギーへの加速や、散乱されるなどの現象を生じる。

※3 地磁気的な緯度
地磁気の作る北極と南極を基準とした緯度のこと。地理座標における北極と南極は、地磁気の作る北極と南極からずれているため、地磁気に関連する現象を扱う場合に地磁気を参照した座標が用いられる。

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