腫瘍の正しい位置に放射線照射ができているかリアルタイムで確認

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 粒子線がん治療の現場での応用に期待

2019-08-08 量子科学技術研究開発機構

名古屋大学大学院医学系研究科の 山本 誠一 教授、量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所の 山口 充孝 主幹研究員、河地 有木 プロジェクトリーダー、兵庫県立粒子線医療センターの 赤城 卓 博士らの研究チームは、新しく開発した放射線画像化装置を用い、粒子線がん治療に用いる炭素線1の飛跡を照射中にリアルタイムで画像化することに成功しました。

患者に入射した粒子線がん治療ビームの飛跡を治療中にモニタリングすることは、ビームが患者の腫瘍の正しい位置に照射されていることを確認するために、粒子線治療の現場で切望されています。研究グループは、そのための方法として粒子線が物質を通るときに発生する電子の制動放射線2に着目し研究を続けてきました。今回、山本教授が、東北大学金属材料研究所の 吉川 彰 教授、鎌田 圭准 教授と共同で開発した新しい放射線画像化装置を応用し、水中に照射した炭素線の飛跡を測定しました。

その結果、ビームの飛跡を高い空間分解能で、かつ、鮮明な画像で得ることに成功しました。また、画像をリアルタイムで確認することができました。さらに、臨床時に照射する程度の粒子数でも画像化できることが分かりました。

今回の成果は、量子科学技術研究開発機構で考案された粒子線照射で発生する電子の制動放射線画像化法が粒子線がん治療の現場で応用できる可能性が極めて高いことを示すものです。今後、さらに画像化装置の最適化を図り、装置の製品化と粒子線治療現場への普及を目指します。本研究成果はPhysics in Medicine and Biology誌 及び Radiation Measurements誌に掲載されました。

ポイント

  • 患者に入射した粒子線の飛跡を治療中にモニタリングするために、新しい放射線画像化検出器を開発し、その装置を用いて物質中に照射した炭素線の飛跡の測定を行った。
  • 炭素線の飛跡画像を高い空間分解能でかつ鮮明な画像で、さらにリアルタイムで確認することに成功した。
  • 開発した装置を用いることにより、実際の臨床治療時に照射する程度の炭素線粒子数でも画像化できることが分かった。

背景

粒子線がん治療において、治療ビームの体内飛跡や到達位置を非侵襲的にその場で画像として得られれば、治療計画どおりに照射が行われたかどうかを照射中に確認できる可能性があります。そのため、治療ビームを画像化する手法の研究開発が世界各国で精力的に進められています。

最も広く研究されている手法として、粒子線照射により生成される同位元素から瞬時に放出される高エネルギーガンマ線を画像する方法があります。しかし、こうした高エネルギー放射線を十分な精度で画像化することは技術的に困難で、鮮明な画像を得ることは実現していません。

本研究グループは、山口主幹研究員らが考案した粒子線照射で生成する電子(2次電子)により発生する制動放射線(X線)を計測する手法に着目し、研究を進めてきました。制動放射線はエネルギーが低く検出がしやすいという利点がありますが、検出器の空間分解能を高くすることが難しい上に、高エネルギーガンマ線がノイズとして検出されるという問題がありました。この問題点を解決するためには、高性能な低エネルギー放射線画像化検出器の開発が必要でした。

腫瘍の正しい位置に放射線照射ができているかリアルタイムで確認

図1 粒子線照射で生成する2次電子により発生する制動放射線(X線)の発生原理:炭素線照射により2次電子が患者内で発生、この2次電子は低エネルギーの制動放射線(X線)を発生、この制動放射線(X線)を開発した放射線画像化装置で画像化

研究の内容

高性能な低エネルギー放射線画像化検出器の開発は、名古屋大学の山本教授が東北大学の吉川教授と鎌田准教授と共同して行いました。東北大学で研究開発された薄いYAP(Ce)シンチレータを光センサーである位置有感型光電子増倍管(PSPMT)と組み合わせ、低エネルギー放射線画像化検出器を構成しました。この装置の写真を図2(A)に示します。YAP(Ce)を用いた放射線画像化検出器は、低エネルギーX線に対して極めて高い性能を有することが明らかになりました(関連成果 1)。

さらに、開発したYAP(Ce)放射線画像化検出器を高エネルギーガンマ線遮蔽容器に入れ、小さな穴の開いたコリメータ(ピンホールコリメータ)を装着した低エネルギー制動放射線カメラを開発しました。この装置の写真を図2(A)に示します。光学画像も撮像できるようにCCDカメラを一体化しています。

低エネルギー制動放射線カメラの写真

図2 YAP(Ce))シンチレータを位置有感型光電子光電子増倍管(PSPMT)に光学結合した低エネルギー放射線画像化検出器(A)とYAP(Ce)放射線画像化検出器を高エネルギーガンマ線遮蔽容器に入れ、ピンホールコリメータを装着した低エネルギー制動放射線カメラ(B)

この低エネルギー制動放射線カメラを用いて、炭素線を上方向から水を満たした容器に照射した時の制動放射線の画像を撮像しました。その結果を図3(A)に示します。極めて高い空間分解能で、かつ鮮明な粒子線の飛跡を画像化することができました。このビームに2cmと4cm、ビームが短くなる吸収板を介して、炭素線を照射した画像を図3(B)と(C)にそれぞれ示します。図3(B)の画像は、図3(A)に比べ約2cmビーム画像が短く、図3(C)の画像は、図3(A)に比べ約4cmビーム画像が短い画像が得られ、ビームの形状を正しく計測できていることも分かりました。また、炭素線の臨床治療に用いられる程度の数の炭素線粒子数でも画像化できることが分かりました(関連成果 2)。

炭素線を上方向から水を満たした容器に照射した時の制動放射線の画像

図3 炭素線を上方向から水を満たした容器に照射した時の制動放射線の画像(A)、2cm飛程の短いビーム照射時の画像(B)、4cm飛程の短いビーム照射時の画像(C)

成果の意義

今回の研究成果により、粒子線照射で発生する電子の制動放射線画像化法が、粒子線治療の現場で利用できる可能性が極めて高いことを実証しました。さらに、装置の最適化を図れば、十分に臨床現場で利用できる装置に発展できると確信しました。今後、臨床現場で利用できることを実証し、製品化とともに粒子線治療現場への広範な普及を進めます。

用語説明

 注1炭素線:粒子線を加速し、患者の腫瘍に照射することで治療を行う放射線治療に使われるビームの一種。線量を腫瘍に集中して与えることができるため、治療効果が大きい。

 注2制動放射線:粒子線は標的内を通り過ぎるときに原子の中の電子をはじき飛ばしながら進みます。このはじき飛ばされた電子が、近傍にある原子の原子核の電場によって、急激に減速もしくは進行方向を曲げられた時に電磁波を放射します。この電磁波を電子制動放射線といいます。はじき飛ばされた電子は透過力が低いので標的内で止まりますが、電子制動放射線は比較的透過力が高く、標的の外に飛び出ることが出来ます。本手法では、この電子制動放射線を計測することでビームの飛跡を画像化します。

論文名(関連成果 1)

雑誌名:Radiation Measurements(欧州放射線計測学専門誌)

論文名:Use of YAP (Ce) in the development of high spatial resolution radiation imaging detectors

著者:Seiichi Yamamoto, Kei Kamada, Akira Yoshikawa(山本誠一、鎌田圭、吉川彰)

DOI:10.1016/j.radmeas.2018.11.001

論文名(関連成果 2)

雑誌名:Physics in Medicine and Biology(英国医学物理学専門誌)

論文名:Development of a YAP(Ce) camera for the imaging of secondary electron bremsstrahlung X-ray emitted during carbon-ion irradiation toward the use of clinical conditions

著者:Seiichi Yamamoto, Mitsutaka Yamaguchi, Takashi Akagi, Makoto Sasano, Naoki Kawachi(山本誠一、山口充孝、赤城卓、笹野理 河地有木)

DOI:10.1088/1361-6560/ab2072

2004放射線利用
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