日本の高速炉は民間の創意工夫を活かした研究開発体制へ~高速炉「戦略ロードマップ」

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2019-02-06 資源エネルギー庁

原子力発電所(原発)で使い終えた「使用済燃料」を加工し、もう一度燃料として使うことで、資源の有効利用や、高レベル放射性廃棄物の量の低減(減容化)、放射能レベルを低くすることに役立てる「核燃料サイクル」。中でも、使用済燃料を加工してつくった燃料を「高速炉」と呼ばれる原子炉で燃やして発電に利用する方法は、「高速炉サイクル」と呼ばれます。2018年12月、日本におけるこの高速炉の研究開発について、今後の戦略をさだめた「戦略ロードマップ」が決定されました。その内容をご紹介しましょう。

「高速炉」の意義と、「もんじゅ」以降の日本の戦略

高速炉は、核燃料サイクルによって期待される、高レベル放射性廃棄物の減容化や有害度の低減、資源の有効利用の効果をより高めることが期待されているしくみです。現在、世界各国ではこの高速炉の実用化に向けて、さまざまな研究がおこなわれています。

日本では、1963年頃から高速炉の本格的な設計研究がスタート。1977年には実験炉「常陽」、1994年には原型炉「もんじゅ」が臨界を達成(安定して核分裂を起こす状態になること)しました。

その後、日本では高速炉に関する技術研究が長年続けられ、さまざまな知見が蓄積されてきました。皆さんもご存じのとおり、「もんじゅ」に関してはナトリウム漏洩等のトラブルも起こり、最終的に、2016年12月の原子力関係閣僚会議で、「原子炉としての運転再開はせず、今後、廃止措置に移行する」こととしました。(2017年12月に日本原子力研究開発機構から原子力規制委員会に廃止措置計画を提出、2018年3月に認可)また、同会議ではそれと同時に、日本における今後の高速炉開発の方向性を示す「高速炉開発の方針」も決定されました。

この「高速炉開発の方針」では、これまで培った経験や技術・知見を活かし、以下の4つの原則に沿って、高速炉の将来の実用化を目指し、開発を進めていくこととしています。

開発4原則
 原則①:国内に蓄積した技術・知見・人材の徹底活用(国内資産の活用)
 原則②:国際ネットワークを利用した最先端知見の吸収(世界最先端の知見の吸収)
 原則③:費用対効果の高い、コスト効率的な開発の推進(コスト効率性の追求)
 原則④:国、メーカー、電力、研究機関が密に連携し、責任関係を一元化した体制(責任体制の確立)

今後10年の研究開発のポイントを示した「戦略ロードマップ」

この「開発4原則」にならった開発方針を具体化するため、今後10年ほどの開発作業を示したのが「戦略ロードマップ」です。このロードマップは、2018年12月21日に開催された「原子力関係閣僚会議」で決定されました。そのポイントを、具体的に見ていきましょう。

高速炉開発の意義はどこにある?

ロードマップでは、高速炉を開発する意義として、①資源の有効利用、②高レベル放射性廃棄物の減容、③有害度低減が重要であることをあらためて示しています。また、合わせて、米国や英国等では、高速炉でプルトニウムを使うことで保有するプルトニウムを適切な量にしていく「プルトニウムマネジメント」を主目的とした炉の開発が行われるなど、高速炉の意義が多様化していることも示しています。

これからの10年の開発スケジュールは?

ウラン資源は、2014年時点の世界のウラン需要をベースにした場合、2014年時点ですでに存在が把握されている資源に絞っても135年分にあたる資源量が、地球上に存在していると見られています。

ロードマップでは、こうしたウラン資源の現状等の政策環境・社会情勢を踏まえると、高速炉が本格的に利用され始めるのは21世紀後半のいずれかのタイミングになる可能性があるとの考えを示しています。その上で、たとえば21世紀半ば頃の適切なタイミングにおいて、現実的なスケールの高速炉が運転開始されることが期待されるとしています。

そこで、ロードマップでは、現在から当面の10年の過ごし方として、まずは最初の5年で多様な技術開発を推進し、その中から絞り込んだ技術を後半の5年間以降で開発するという行程を定めています。

研究の対象になる技術はどういうもの?

前述したとおり、ロードマップでは、これまでの開発で培った技術・人材も最大限活用しながら、まずは「多様な高速炉技術の可能性を追求する」ことをうたっています。

「もんじゅ」は、ナトリウムを冷却材に使う「ナトリウム冷却高速炉」と呼ばれるタイプで、同様の高速炉はフランスやロシア、米国などで研究開発がされています(ただし、日本、フランス、ロシアは「MOX燃料」を、米国は「金属燃料」を使用)。中国やインドも、現在はMOX燃料を使ったナトリウム冷却型の研究が中心です。しかし、高速炉にはほかにも「溶融塩」を冷却材に使うタイプや(溶融塩高速炉)、水を冷却材に使用するタイプなどがあります。

ロードマップでは、これまで「もんじゅ」などで培った技術・人材も最大限活用し、これまでのようにナトリウム冷却高速炉に絞らず、さまざまなタイプの高速炉についても可能性を追求していく必要があると提示しました。

これからの開発はどう進めるの?

前述したとおり、日本における高速炉の研究開発は、これまで、MOX燃料を使用するナトリウム冷却型原子炉に絞って進められてきました。主体となって研究を進めてきたのは、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)でした。

しかし、世界の動向を見れば、民間を研究開発の主体として、競争的にさまざまな技術を開発するというスタイルを確立しつつある国もあります。そこで、今回のロードマップでは、日本も国と民間の役割を明確化し、世界との競争に勝つためにイノベーションを促していくことが示されました。

今後は、各メーカーが各自の知恵や創意工夫を活かし、主体的に技術開発を推進していきます。競争環境下に置くことで、メーカー同士が切磋琢磨し、研究開発がさらに活発化することを狙います。そこからの技術の選択は、将来的なユーザーである電力事業者などがおこないます。

国は、こうした開発に関して方向性を提示し、①熟度に応じた財政支援や、②JAEAによる開発基盤の提供、③規制への適応を念頭に置いた安全性追求などを通じて、民間の主体的な取り組みを後押ししていきます。

これらの大きなポイントに加えて、ロードマップでは、今後の開発にあたってはフランスや米国などの2国間および多国間でのネットワークを活用し、国際協力をおこなっていくことも示されました。

今後も、高速炉実用化のための技術基盤の確立とイノベーションの促進に、国内外一体となって取り組んでいきます。

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2003核燃料サイクルの技術
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