分子サイズの世界を明るく照らす超高強度X線集光ビームをX線フラッシュ顕微鏡に応用 ~SACLAにおいて世界最高分解能の2ナノメートルを達成~

ad
ad

2022-09-13 高輝度光科学研究センター,理化学研究所,北海道大学

高輝度光科学研究センター ビームライン技術推進室の湯本博勝主幹研究員、小山貴久主幹研究員、大橋治彦主席研究員、北海道大学の鈴木明大准教授、西野吉則教授、理化学研究所 放射光科学研究センター SACLAビームライン基盤グループの矢橋牧名グループディレクターらを中心とする共同研究グループは、X線自由電子レーザー施設SACLA(※1)において、原子レベルの精度をもつ集光ミラー(反射鏡)により超高強度X線ビームを生み出しました。これを用いた世界最高分解能の超高速のX線フラッシュ顕微鏡(※2)を実現しました。 本研究グループは、集光ミラー作製技術を向上することで、従来よりも高効率にX線の強度を増やすことができる特殊なX線集光ミラーを開発しました。これを用いて、理論通りの集光サイズ(110ナノメートル(横)×60ナノメートル(縦))をもつ従来比50倍の超高強度ビーム(※3)を実現しました。さらに、本ビームを利用したX線フラッシュ顕微鏡を開発しました。水中において金の微粒子を観察した結果、X線フラッシュ顕微鏡の分解能は従来の10ナノメートル弱から向上し、世界に先駆けて2ナノメートル(1ナノメートル=100万分の1ミリメートル)の超高分解能を達成しました。 本研究で実現した超高強度X線ビームを用いたX線フラッシュ顕微鏡により、生体試料や電池などに用いられる機能性材料の観察へと既に研究が展開されています。 今回の研究成果は、国際科学雑誌、「Nature Communications」のオンライン版9月13日に掲載されました

【論文情報】
題名:High-fluence and high-gain multilayer focusing optics to enhance spatial resolution in femtosecond X-ray laser imaging
日本語訳:フェムト秒X線レーザーイメージングにおける分解能向上のための高流束量、高増幅 多層膜集光光学素子
著者:湯本博勝、小山貴久、鈴木明大、城地保昌、新井田雅学、登野健介、別所義隆、矢橋牧名、西野吉則、大橋治彦
ジャーナル名:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-022-33014-4

【研究の背景】
X線自由電子レーザー(XFEL: X-ray Free Electron Laser)によって初めて可能になった分析技術として、X線フラッシュ顕微鏡があります(図1)。これは、XFELの非常に短いフラッシュ(100兆分の1秒の閃光)を、タンパク質分子などの非常に小さな試料にあてることで、究極的には試料中の原子の動きを観る超高分解能・超高速撮影顕微鏡です。XFEL施設の建設以前から理論的に実現可能性が議論されてきました。将来、原子分解能に迫る高空間分解能で、生命現象を支える重要な分子の原子配置の時間変化や高速化学反応の様子をスナップショット撮影することが可能になり、疾病の原因解明や新薬の開発が期待されます。この超高分解能顕微鏡を実現するためには、光源から来るX線をできるかぎり集め、極微小な分子サイズの世界を効率よく明るく照明する超高強度ビームが必須となります。
本研究の目的は、原子レベルの精度を持つ超高精度X線集光ミラーの作製上の技術的な課題を解決しX線集光ミラーを開発することで、XFELを100ナノメートル(1万分の1ミリメートル)の小さなサイズに集めた超高強度ビームを実現し、これを用いたX線フラッシュ顕微鏡の分解能を高めることです。

【研究内容と成果】
本研究グループは、多層膜集光ミラー(図2)を開発することで、X線を高圧縮率(高増幅率)で高効率に集光できるようにしました。このX線集光ミラーを原子レベルの精度で製作するには、非常に高精度な非球面(複雑な曲面)加工技術とともに、非常に高精度な計測技術が必要になります。そこで、本研究ではX線ミラーの製作に用いられている従来の超精密加工技術に加えて、特に新たな高精度表面形状計測装置を開発しました。これらを用いることで、反射面が楕円形状のX線集光ミラーを作製しました。
開発した多層膜集光ミラーを搭載したX線フラッシュ顕微鏡をSACLAにおいて開発しました。多層膜ミラーにより形成した集光ビームを評価した結果、理論通りの集光サイズ(110ナノメートル(横)×60ナノメートル(縦))をもつ超高強度ビーム(光子密度(光の集まり具合): 4×1012 photon/µm2/pulse以上)を実現しました。これにより集光前と比較してXFELの光子密度は200万倍に増強されるとともに、SACLAでX線フラッシュ顕微鏡に従来用いられてきた1マイクロメートル集光ビーム(2012年12月プレスリリース)(1マイクロメートル=1000分の1ミリメートル)と比較して、50倍の光子密度を達成しました。
本超高強度ビームを利用したX線フラッシュ顕微鏡により、水中の金の微粒子にXFELを1ショットあてることで超高速観察しました。この結果、1ショットの観察によるX線フラッシュ顕微鏡の従来の分解能が10ナノメートル弱であったものに対して、本研究では分解能を更新し世界に先駆けて2ナノメートル(2ナノメートル=100万分の2ミリメートル)の超高分解能を達成しました(図3)。金はナノメートルサイズの極めて小さな粒子になることで特異な物理的、化学的特性を持つ高機能材料となります。生体試料の観察にも発展可能な水中において、材料がXFEL観察で変化する前に、超高速フラッシュを用いて超高分解能観察することに成功しました。観察した結果は、材料の「ありのままの姿」であり、微粒子の構造と機能との関係を解き明かす重要な情報を示すものです。

【今後の展開】
本研究で実現した顕微鏡を用いて、生体試料や機能性材料の観察へと研究が既に展開されています。本研究の意義は、最先端のX線レーザー光源であるSACLAと最先端の超精密生産技術を駆使して開発された顕微鏡がSACLAの実験者に提供され、新たな最先端の研究分野を推進している点です。本研究で開発した顕微鏡により、世界で誰も今までに観たことがなかった試料の「ありのままの姿」の超高分解能かつ超高速観察が可能になることで、今後、健康で豊かな生活の礎となる医薬品や革新的電池の開発等へと本顕微鏡の活用が期待されます。

ここで紹介した研究は、科学研究費補助金(15H05737、17H04819、20H05433、22H04741)、新エネルギー・産業技術総合開発機構「FC-Platform」、科学技術振興機構「X線自由電子レーザー施設重点戦略課題推進事業」、人と知と物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス、物質・デバイス領域共同研究拠点の助成を受け、SACLA利用課題として行われました。


図1

図1 超高強度集光ビームを用いたX線フラッシュ顕微鏡の概念図

原子レベルの形状精度を持つ超高精度集光ミラーを駆使し、世界最高分解能が達成された。


図1

図2 作製した超高精度多層膜集光ミラー

大型放射光施設SPring-8キャンパス内において、ガラス基板の表面は原子レベルの精度で加工された。さらに、集光性能の向上のため表面に多層構造の材料をコーティングし仕上げられた。


図1

図3 X線フラッシュ顕微鏡による金の微粒子の観察

左図:金の微粒子により散乱されたX線強度分布

右図:左図の散乱X線強度分布から求められた金の微粒子
2個の金の微粒子(バイピラミッド(bipyramid))が観察され、XFELの1ショット観察により世界で初めて2ナノメートルの超高分解能を達成した。


【用語解説】

※1.X線自由電子レーザー施設SACLA
SACLAはSPring-8 Angstrom Compact free electron LAserに由来する施設の愛称。SACLAではX線のエネルギー領域の高強度レーザーを発生することができ、2012年から供用利用が開始された。

※2.X線フラッシュ顕微鏡
X線レーザーを試料に照明した際に発生する散乱X線強度分布から、コンピュータを用いて試料中に含まれる電子密度の濃淡を撮影することができる。

※3.超高強度ビーム(光子密度:4×1012 photon/µm2/pulse)
1ショット(1パルス)のX線レーザーについて、「1マイクロメートル四方」あたりに4兆個の光子(光の粒)が通過する。例えば、一般家庭のホットプレートの約300京倍(1兆の300万倍)に相当する超高エネルギー密度の状態である。


《問い合わせ先》
(研究内容に関すること)
湯本 博勝(ユモト ヒロカツ)
高輝度光科学研究センター ビームライン技術推進室 主幹研究員

矢橋 牧名(ヤバシ マキナ)
理化学研究所 放射光科学研究センター SACLAビームライン基盤グループ
グループディレクター

西野 吉則(ニシノ ヨシノリ)
北海道大学 電子科学研究所 教授

(報道に関すること)
理化学研究所 広報室 報道担当
北海道大学 社会共創部広報課 広報・渉外担当

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

コメント

タイトルとURLをコピーしました