2020-03-17 国立天文台
鹿児島大学の大学院生 小出凪人氏らの研究グループは、VERAを用いて、銀河系外縁部領域にある星形成領域IRAS 01123+6430に付随する水メーザー天体について年周視差の計測を行い、正確な距離の測定に成功しました。
IRAS 01123+6430の太陽系からの距離は、水メーザーの視線方向のドップラー速度を使って計算すると、4.51 kpcと推定されます。そのため、この天体は、ペルセウス座腕とはくちょう座腕の間の領域に存在すると考えられていました。しかし、本研究グループがVLBI位置天文観測にて計測を行った結果、IRAS 01123+6430までの距離は6.61 kpcであるとわかりました。これは、はくちょう座腕の位置にあたります。
図1:年周視差の計測結果。
実線が東西方向、破線が南北方向の位置の変化を表しています。
また、新たに計測された距離を元に中心星の明るさを計算し直すと、B1-B2タイプの大質量星に対応することがわかりました。このタイプの星は、周囲のガスを電離させてHII領域と呼ばれる天体を作り出すことが知られています。実際にIRAS 01123+6430にはHII領域が付随しており、観測結果をうまく説明できています。
さらに、IRAS 01123+6430に付随する一酸化炭素ガスの観測データを調査したところ、分子雲衝突現象の痕跡を示していることがわかりました。分子雲衝突は、大質量星を作り出す上で重要な役割をもつと考えられている現象です。観測された分子雲は弓状の構造と直線状の構造からなっており、相対速度3-5 km/sという低速の分子雲衝突現象の数値シミュレーション結果と形状がよく一致していることがわかりました。このことから推測される相対速度をもとに、新たに観測された距離を用いて検証すると、2つの分子雲は約260万年から440万年前に衝突を起こしたことになります。このタイムスケールは大質量星が形成されるのに要する時間と同程度で、分子雲衝突により大質量星が作られるというシナリオを支持するものとなっています。銀河系外縁部領域は差動回転の度合いが小さく、この領域での分子雲衝突現象はゆっくりした相対速度で発生する割合が高いと考えられ、大質量星形成には有利な条件となります。IRAS 01123+6430は、そのような分子雲衝突現象によって誘発された大質量星形成領域の非常に良い観測例であると言えます。
図2:IRAS 01123+6430とその周囲の分子雲。
赤丸が水メーザーの位置で矢印の方向に運動しています。
文責:酒井大裕
関連論文
- Koide et al. (2019), PASJ, 71, 113, “Outer rotation curve of the Galaxy with VERA. IV. Astrometry of IRAS 01123+6430 and the possibility of cloud-cloud collision”