病理診断ネットワークの運用とAI診断システムの検証を開始

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2020-03-16     日本病理学会,徳島大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • 徳島県内2つの医療機関と徳島大学病院が連携して遠隔病理診断ネットワークの運用を開始
  • 同ネットワークを利用した病理診断を補助するAI診断システムの有用性の検証を開始
研究の概要

徳島大学病院病理部(部長・教授 上原久典)と日本病理学会(北川昌伸理事長)は、共同研究により、深刻な病理医不足解消の一助として、徳島県の3病院で「地域基盤・循環型病理診断相互支援型モデル」として「徳島県遠隔病理診断ネットワーク」の構築を行って運用を開始し、病理診断支援とネットワークの自立性・持続性の実証として、同ネットワークを用いた胃生検AI診断システム(人工知能を用いた病理診断システム)の検証を開始しました。

研究の背景

医療を安心して受けるためには、病理診断(※1)が必要不可欠です。徳島県は、病理診断を行う専門の医師、病理医の不足が非常に深刻であり、この数年で少し増えましたが、それでも平成30年度の調査では病理専門医数の絶対数が全国ワースト9位となっており、常勤の病理医が必要な病院においても病理医が見つからないという状況が続いています。また、病理医の高齢化もすすみ、大量の診断業務を一人で行う一人病理医の業務軽減も大きな課題でした。そこで日本病理学会では、深刻な病理医不足を解消するため、国立情報学研究所とともに人工知能(Artificial Intelligence、以下AI)を開発し、それを利用して、地域で病理医の力を有効活用する仕組みづくりを進めてきました。

研究の内容・成果

本事業として、県内で常勤の病理医が一人、あるいは不在の医療機関と徳島大学病院との間で病理情報回線を連結し、一人病理医の診断支援や、病理医のいない病院でも、病理診断や術中迅速病理診断ができるネットワークの構築を進めてまいりました。そしてこの度、病理医不在病院を含む県内2つの医療機関(※2)と徳島大学病院が連携した遠隔病理診断ネットワークを立ち上げ、運用ができるようになりました。

また、徳島県遠隔病理診断ネットワークの病理診断支援によって得られた病理画像は、全国の本事業に参画する施設と同様にセキュリティの保たれた閉鎖型回線を使って日本病理学会のクラウドサーバーに集積されます。現在、日本病理学会では11万件を超す病理画像データが収集されていますが、これらの情報をもとに昨年、胃生検の病理診断を補助するAI診断システムが開発されました。このたび、同ネットワークを用いて、同AI 診断システムの検証実験を行うことになりました。このシステムでは、遠隔地から胃生検の病理診断を行う際、AIのレポートを参照し、またそのAIの判断を評価し、AIエンジン開発グループにフィードバックする仕組みが整えられています(※3)。

今後の展望

同ネットワーク上で、自動的なAIレポートの添付、参照、さらにアノテーション(病理医による注釈)を追加したフィードバックなどの各システムの円滑な連動、また施設間で異なる標本の質や色味によるWSI(※4)やそれを利用するAI診断への影響・補正などを実証しつつ、全国に先駆けて、胃生検の病理診断を補助するAI の有効性が確認できれば、広く全国に展開していく予定になっています(※3)。

用語説明
※1 病理診断と病理医
治療や診断のために、患者の体より採取された病変の組織や細胞から顕微鏡用のガラス標本が作られます。この標本を顕微鏡で観察して、病変を診断するのが「病理診断」であり、この病理診断を専門とする医師が「病理医」です。適切な治療のために適切な診断が必要であり、「病理診断」は多くの疾患で最終診断として大きな役割を果たしています。
※2 徳島県病理診断ネットワーク参加医療機関
  1. 国立大学法人徳島大学病院
  2. JA徳島厚生連 吉野川医療センター
  3. JA徳島厚生連 阿南医療センター
※3 徳島病理ネットワークの概念図
徳島ネットワークにおけるAIエンジン実装の構成/フロー概要図徳島でのインフラ整備とAIエンジンベータ版の実装
※4 WSI(Whole Slide Imaging)
スライドガラス標本全体、またはその一部を高精細にデジタル画像化したもので、 Virtual Slide(バーチャルスライド)とも呼ばれます。ディスプレイ上で観察部位や 倍率を自由に変えて観察が可能です。
本研究事業について

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業の支援を受けて実施している、研究開発事業「病理診断支援のための人工知能(病理診断支援AI)開発と統合的「AI医療画像知」の創出」の一つである「AIエンジンの評価・徳島病理ネットワークでのAI検証」プロジェクトです。

この研究開発事業は、日本病理学会が、国立情報学研究所(NII)及び東京大学と共同して進め、徳島大学病院病理部も参画しているプロジェクトであり、2021年3月までの継続が予定されていますが、この地域実証実験モデルが研究事業終了後も自立的に運用できるよう、そのシステムの確立に努めてまいります。

お問い合わせ先

徳島大学病院 病理部

部長・教授 上原 久典

一般社団法人 日本病理学会

JP-AID広報担当:酒井 康弘

本事業に関する問い合わせ先

日本医療研究開発機構 臨床研究・治験基盤事業部

臨床研究課 ICT基盤研究グループ

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