セリン代謝酵素の働きをモニタリングするセンサー分子を開発

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新規の抗マラリア薬、抗がん剤候補化合物のスクリーニングへ

2019-02-21  東京大学,大阪大学,量子科学技術研究開発機構,科学技術振興機構

ポイント
  • がんやマラリアなどの病気に関わるセリン代謝酵素(SHMT)に対するセンサー分子の開発に世界で初めて成功しました。
  • 開発したセンサー分子を用いて新規のSHMT阻害剤候補化合物を発見しました。
  • SHMTが関連するマラリアやがんなどの病気に対する薬の開発や、SHMTの関わる未知機能解明のための分子ツールとしての応用が期待されます。

東京大学 大学院工学系研究科の山東 信介 教授、津本 浩平 教授、野中 洋 講師ら、東京大学 医科学研究所の長門石 曉 特任准教授、大阪大学の杉原 文徳 助教、量子科学技術研究開発機構の高草木 洋一 主任研究員、青木 伊知男 チームリーダーらの共同研究グループは、がんやマラリアなどの病気に関わるセリン代謝酵素(セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ:SHMT)に対する世界初のセンサー分子の開発に成功しました。

SHMTは、アミノ酸のセリンをグリシンに変換する、生命にとって基盤的な反応を触媒する酵素で、さまざまな病気との関連が示唆されていました。このように重要な酵素でありながら、SHMT活性の簡便な検出法が開発されておらず、SHMTの酵素反応をモニタリングできる新しい手法が待ち望まれていました。

研究グループでは、SHMT酵素反応機構のサブルートに着目することで、蛍光と核磁気共鳴という2つの検出手法のセンサー分子を世界で初めて開発することに成功しました。開発したセンサー分子を利用して、東京大学創薬機構の保有する約21万個の化合物ライブラリーに対する阻害剤探索に応用し、新規のSHMT阻害剤候補化合物2種を発見することに成功しました。

本研究は2019年2月20日付で英国の科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「新機能創出を目指した分子技術の構築」(研究総括:山本 尚 中部大学 教授) 研究課題名「超高感度化分子技術により実現する巨視的ケミカルバイオロジー」(研究代表者:山東 信介 東京大学 大学院工学系研究科 教授)の一環として実施されました。

<発表内容>

セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)は、アミノ酸であるセリンからグリシンへの代謝注1)反応を触媒する酵素です。SHMTは、細胞内の代謝経路において重要な役割を果たしています。SHMTによって触媒されるセリン-グリシン変換反応は、最終的な代謝産物として、細胞の増殖に必須の核酸やたんぱく質の合成などに用いられるため、細胞増殖に有利に働きます。そのため、SHMTは、がんや微生物などの急速に増殖する細胞に対する薬剤開発の有効な標的酵素であると考えられています。実際、SHMTの発現は腫瘍の増殖や予後と相関しており、SHMTはバイオマーカーや抗がん剤の標的として注目されています。また、寄生虫であるマラリア原虫に対する抗マラリア薬の適切な標的酵素であるとも考えられています(図上)。しかし、このように重要な酵素でありながら、SHMTの活性の簡便な検出法が開発されておらず、SHMTの酵素反応をモニタリングできる新しい手法が待ち望まれていました。

酵素反応を簡便にモニタリングできる手法として、酵素と反応しシグナルが変化するセンサー分子を用いる手法があります。この手法では、煩雑な処理を伴わずセンサー分子を添加することで、色の変化などで酵素の活性をモニタリングできます。SHMTは重要な酵素と考えられていましたが、SHMTに応答するセンサー分子の開発はいまだ実現されていませんでした。これは、SHMTがセリンをグリシンに変換するという小さな分子のシンプルな反応を触媒するため、SHMTと反応する基質に制限があることに起因していました(図中)。

研究グループでは、SHMTの触媒する標準的なセリン-グリシン変換反応の機構ではなく、SHMTが触媒する類似の逆アルドール型の反応機構注2)に着目することで、基質の制限の問題をクリアし、世界で初めて蛍光および核磁気共鳴センサー分子の開発に成功しました。標準的な反応機構では、セリン-グリシン変換反応の際に補酵素として葉酸を利用して、セリンに由来する1炭素を葉酸に転移していきます。この反応は空間的なゆとりがほとんどない中で酵素反応が行われるため、反応に伴いシグナルを出す分子構造をデザインする余地がありませんでした。一方で、SHMTには、葉酸に依存しない機構も一部見られ、その場合は葉酸が不要であり、葉酸が結合していた部位に空間的にゆとりが生まれることに研究グループは着目しました。SHMTの基質であるセリンのβ位に蛍光色素や19F含有分子構造などをシグナル部位として導入し、葉酸結合部位を利用できるように立体配置を設定することで、葉酸に依存しない反応機構を利用したセンサー分子の開発に成功しました。

開発されたセンサー分子は、SHMT酵素活性の簡便で直接的な検出を可能にしました(図下の左)。蛍光センサー分子は、肉眼でSHMTの酵素活性を蛍光色の変化(青色:SHMTなし→緑色:SHMTあり)で識別できました。19F NMRセンサー分子は、反応前後の19F NMR化学シフト変化を利用して、組織をすりつぶした懸濁液のような多数のタンパク質や生体小分子が存在する濁った条件でもSHMT酵素活性を検出できました。

開発した蛍光センサー分子の実用的なセンサー能力を利用して、東京大学創薬機構の保有する約21万個の化合物ライブラリーに対するSHMT阻害剤探索にセンサー分子を応用し、これまでに報告されていない新しいコア構造を有する2つの阻害剤候補化合物を発見しました(図下の右)。

本研究成果は、現在その重要性から注目されているSHMTの機能を解析する分子センサーとして、未知のSHMTの生理学的機能の解明や、疾患の診断などに応用が期待されます。また、今回スクリーニングの中で得られたSHMTに対する2つの新規阻害剤候補化合物の構造を最適化することで、新規の抗マラリア薬や、抗がん剤の開発につながることも期待されます。

<参考図>

図 セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)に対する分子センサーの開発に成功!

図 本発表の要約
<用語解説>
注1)代謝
代謝とは、生命維持活動に必須なエネルギーの獲得や、成長に必要な有機材料を合成するために生体内で起こる全ての生化学反応の総称です。例えば、生合成されたヌクレオチドをもとに核酸が、生合成されたアミノ酸をもとにたんぱく質が、脂質をもとに細胞膜が作られます。こういった一連の代謝反応によって私たちの生命体の機能が維持されています。
注2)逆アルドール型の反応機構
アルドール反応は、有機化学における求核付加反応の1つで、α位に水素を持つカルボニル化合物が、アルデヒドまたはケトンと反応して、β-ヒドロキシカルボニル化合物が生成する反応です。その逆反応を、SHMTが触媒することを、本研究では利用しています。
<論文情報>

タイトル:“Design Strategy for Serine Hydroxymethyltransferase Probes Based on Retro-Aldol-Type Reaction”

DOI:10.1038/s41467-019-08833-7

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

山東 信介(サンドウ シンスケ)
東京大学 大学院工学系研究科 化学生命工学専攻 教授

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>

東京大学 大学院工学系研究科 広報室

大阪大学 微生物病研究所 企画広報推進室

量子科学技術研究開発機構 経営企画部 広報課

科学技術振興機構 広報課

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