スピントロニクス集積回路技術を用いて、 高性能と超低消費電力を両立する 不揮発マイコンを世界で初めて実証

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2019-02-19  東北大学 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター,東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター,科学技術振興機構,内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

東北大学 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンターおよび国際集積エレクトロニクス研究開発センター センター長の遠藤 哲郎 教授、同大学 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンターおよび電気通信研究所の羽生 貴弘 教授、夏井 雅典 准教授らの研究グループは、内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)(プログラム・マネージャー:佐橋 政司) 大野社会実装分科会 スピントロニクス集積回路プロジェクト(研究開発責任者:遠藤 哲郎 教授[2017年12月~現在]、大野 英男 教授[2014年10月~2017年11月])において、スピン移行トルク型MTJ(磁気トンネル接合素子)とSi-CMOS技術を組み合わせた集積回路技術を用いて、高性能(動作周波数200MHz)と超低消費電力(平均電力50μW以下)を両立する不揮発マイコン(マイクロコントローラーユニット)を世界で初めて実証しました。本研究で実証した高性能・超低消費電力マイコンは、センサーノードで必要とされる演算性能を維持しながら、エナジーハーベスティング(バッテリーフリー)での駆動も期待されます。このエナジーハーベスティングで駆動する不揮発性マイコン技術は、ICT社会基盤のパラダイムシフトをもたらし、Society5.0を実現するための基盤技術として期待されます。

本成果は、2019年2月17日~21日の間、米国サンフランシスコで開催される集積回路技術に関する世界最高峰の国際会議である「米国電気電子学会注1)主催の国際固体素子回路会議(ISSCC:International Solid-State Circuits Conference)」で発表します。

本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)

プログラム・マネージャー:佐橋 政司

研究開発プログラム:無充電で長期間使用できる究極のエコIT機器の実現

研究開発課題:スピントロニクス集積回路の開発

研究開発責任者:遠藤 哲郎(東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター センター長/教授)

研究期間:平成26年度~平成30年度

本研究開発課題では、分散型ITシステムへの応用展開に向けて、エナジーハーベスティングで駆動する革新的超低消費電力マイコンの開発に取り組んでいます。

<佐橋 政司 プログラム・マネージャーのコメント>

ImPACT佐橋プログラムでは、究極のエコIT機器の実現を目指して、超低消費電力マイコン実現のためのスピントロニクス集積回路の開発[研究開発責任者:遠藤 哲郎(東北大学)]に取り組んでいます。今回の成果は、佐橋プログラムが当初より目標としてきた「100MHzで100μW以下」を上回る高性能と低消費電力を実証したもので、センサーノードで必要とされる演算性能を維持しながら、エナジーハーベスティング(バッテリーフリー)でも駆動可能なMCUに目処を立てた画期的成果です。ICT社会基盤のパラダイムシフトをもたらし、Society5.0を実現するための基盤技術として、SIPでさらに進展することを期待しています。

<背景>

パーソナルコンピューターなどに代表される現代の情報通信機器は、半導体集積回路の進展に伴い長足の進歩を遂げてきました。最近では、モノのインターネット(IoT)と呼ばれるあらゆるモノをインターネットで接続することで、スマートな社会を実現する試みも始まっています。このような情報通信機器では、情報の記憶を担うメモリーが数多く使用されています。コンピューター中に用いられるメモリーは、動作速度と容量により形成されるピラミッド構造で階層化されていることがよく知られています。ピラミッドの頂点に近づくほど容量は小さくなりますが、動作速度は速くなります。一方で、ピラミッドの裾野に近づくほど動作速度は遅くなりますが、容量が大きくなります。これまでピラミッドの中心領域から頂点付近までは、半導体ベースの揮発性メモリー注2)が使用されてきました。これらの半導体メモリーは、半導体技術の進歩に伴い、容量・速度共に増加の一途をたどってきましたが、最近になりその進歩が鈍化してきています。その原因の1つは、電源を切っても消費される待機電力の増加にあります。これは、前記の半導体メモリーが揮発性であることに加え、半導体技術の進歩に伴いリーク電流が増加したことによるものです。

この問題を解決するために、現在、磁石の性質を用いた不揮発性メモリーの研究・開発が盛んに行われています。情報の記憶を担うのは、磁石の性質(スピン)で、情報の読み出しは磁石の磁化方向に依存して変化する抵抗変化、つまり電気的な性質(エレクトロニクス)が利用されます。このように電子が持つ電荷の性質と磁石の性質の両方を利用した技術のことをスピントロニクスと呼びます。スピントロニクス技術を用いた代表的なデバイスは、磁気トンネル接合注3)です。磁気トンネル接合をアレイ化して、半導体ベースのメモリーでも用いられてきたCMOS技術と融合させることで磁気ランダム・アクセス・メモリー(STT-MRAM)が実現されると期待されています。STT-MRAMでは、情報を磁石の性質を使って記憶するので、不揮発性を有します。また、他の不揮発メモリーでは実現が難しいと言われている高速動作・低電圧動作・高書き換え耐性特性を全て実現するポテンシャルを有します。

<研究課題>

IoT(Internet of Things)技術の発展を背景に、これまでさまざまなIoTセンサーノード向け低消費電力集積回路の開発が進められてきました。しかし、これらは主に低消費電力性の達成を主眼においており、その処理性能は十分なものであるとは言えませんでした。IoT技術を背景としたインテリジェントな分散型システムの社会実装においては、エナジーハーベスティング注4)で供給される電力による駆動を可能とする超低消費電力性と、人工知能(AI)技術などの発展に伴い予想されるIoTシステムの高機能化の要求に答える高性能性を両立した革新的なマイクロコントローラーユニット(Microcontroller Unit:MCU)の開発が急務となっています。

<研究経緯>

東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター 遠藤 哲郎 センター長/教授と電気通信研究所 羽生 貴弘 教授、夏井 雅典 准教授らのグループでは、内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「無充電で長期間使用できる究極のエコIT機器の実現」(プログラム・マネージャー:佐橋 政司)の大野社会実装分科会 スピントロニクス集積回路プロジェクト(研究開発責任者:遠藤 哲郎)にて、エナジーハーベスティングで駆動する超低消費電力情報処理集積回路の実現を目指した研究開発を進めてきました。材料・素子・回路技術を基盤に、IoT向けのスピントロニクスベース超低消費電力集積回路・アーキテクチャ技術開発の成果、並びに東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センターで整備されている世界最先端300mm集積プロセス技術を用いた集積プロセス開発の成果を高度に統合することにより、分散型ITシステムに向けた革新的超低消費電力マイコンなどの実現に向けた基盤技術の研究開発を推進してきました。

<研究手法と成果>

今回、遠藤 哲郎 教授、羽生 貴弘 教授、夏井 雅典 准教授らのグループは、スピントロニクス技術の活用により、IoTセンサーノード応用において最大動作周波数200MHzで平均消費電力50μW以下の動作を可能とするMCUの開発に成功しました(図1)。本MCUは、40nmCMOSプロセスに東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センターで開発された39nmMTJプロセス並びにインテグレーション技術で集積実装することにより開発されたものです。MCUなどの集積回路におけるリーク電流に伴う待機電力を削減するための技術として、非動作部の電力供給を停止するパワーゲーティング技術が知られています。しかし、Si-CMOS技術のみを用いた従来のMCUは、搭載されるメモリーが揮発性であるため、パワーゲーティング技術を適用するためには内部情報の退避・復帰動作を伴う必要があり、その効果は限定的となっていました。この問題に対し、本MCUは,搭載される全ての演算部をスピントロニクス素子技術によって不揮発化し、パワーゲーティング技術を細かい粒度で適用することによって無駄な消費電力を徹底的に排除するとともに、センサーノード応用におけるさまざまな信号処理を高速に実行するための再構成型演算モジュール、および、演算部とメモリーのデータ転送ボトルネックを緩和することでシステム全体の高速化を可能とするメモリーコントローラーを組み込むことで、これまでにない革新的な超低消費電力性と高速動作性を実現しました。センサーノード応用における一般的な間欠動作間隔を想定した性能評価により、平均消費電力47.14μWによる動作が可能であることを実証しました。図2には、これまでの不揮発メモリーを用いたMCUの結果と本研究成果を比較した結果を示しています。これまでに比べて、2倍以上の演算性能の向上と2桁以下の低消費電力化を同時に実現できていることが分かります。これは、既存のシリコンテクノロジーが抱えていた演算性能と低消費電力のトレードオフを2桁以上のインパクトで解決したものです。

<研究成果の意義>

本研究では、スピントロニクス素子のMTJとCMOS技術を融合した集積回路技術により、これまでのSi-CMOS技術に比べて演算性能と消費電力で表される性能指数を大幅に向上させるものです。また、本研究で実証した高性能・超低消費電力マイコンは、センサーノードで必要とされる演算性能を維持しながら、エナジーハーベスティング(バッテリーフリー)での駆動も期待されます。このエナジーハーベスティングで駆動する不揮発性マイコン技術は、ICT社会基盤のパラダイムシフトをもたらし、Society5.0を実現するための基盤技術として期待されます。

遠藤 哲郎 教授のグループは、内閣府が進める「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤」(管理法人:NEDO)の「超低消費電力MTJ/CMOS Hybrid IoTデバイス基盤技術の研究開発」に採択されました。今回の成果と合わせて、引き続きSociety5.0の実現に貢献していきます。

<参考図>

図1 開発したマイクロコントローラーユニットのチップ写真

図1 開発したマイクロコントローラーユニットのチップ写真

図2 開発チップにおける平均消費電力と性能をこれまでの報告と比較した結果

図2 開発チップにおける平均消費電力と性能をこれまでの報告と比較した結果
<用語解説>
注1)米国電気電子学会
The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.通称IEEE(アイ・トリプル・イー)。米国に本拠を置く世界最大の電気・電子技術に関する学会組織。
注2)半導体ベースの揮発性メモリー
電子の持つ電気的性質(電荷)を利用した情報を一時的に記憶するメモリー。大容量のメインメモリーに主に使われているDRAMと高速動作が要求されるキャッシュメモリーに用いられるSRAMがある。
注3)磁気トンネル接合
磁石の性質を示す材料で構成された薄膜で、薄い絶縁層を挟んだ構造で構成される。2つの磁石の層の磁化の向きに応じて抵抗が変化するトンネル磁気抵抗効果を示す。
注4)エナジーハーベスティング
太陽光や照明光、振動、熱、電波など、周りの環境に存在するさまざまな形態のエネルギー(エナジー)を採取(ハーベスティング)することで電力を得る技術。
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

遠藤 哲郎(エンドウ テツオ)
東北大学 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター センター長
東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター センター長
東北大学 大学院工学研究科 教授
東北大学 先端スピントロニクス研究開発センター(世界トップレベル研究拠点) 副拠点長
東北大学 スピントロニクス学術連携研究教育センター 部門長

<ImPACT事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課

<それ以外の内容>

高橋 芳明
東北大学 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター 支援室 副室長

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