波長200nm以下の深紫外線が発光可能な新しい半導体材料を開発

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2020-03-31 京都大学

藤田静雄 工学研究科教授、金子健太郎 同講師、尾沼猛儀 工学院大学教授らの研究グループは、水銀(Hg)や希ガス(アルゴン、クリプトン、キセノンなど)の放電を用いることなく、200 nm(ナノメートル)以下の短い波長を含む深紫外線を発光可能な半導体材料の開発に成功しました。

波長207~222 nmの紫外線は、人の組織を損傷することなしに空中浮遊のウィルスを殺菌することができるという報告が2018年になされました。また、波長200 nm以下の紫外線は、効果的にオゾンを形成して殺菌や物質の表面改質に寄与するほか、光化学やリソグラフィなど産業応用がなされています。しかし、このような紫外線を得るには、Hgや希ガスの放電を利用したランプやレーザが用いられてきました。これを半導体からの発光を利用して得る目的で、窒化物半導体を用いる研究が進んでいますが、通常環境下で210 nm以下の波長を得ることは物性的に不可能です。

今回、本研究グループは、酸化マグネシウム亜鉛 (MgZnO)半導体を用いて、この波長領域の紫外線を発生することに成功しました。

本研究成果は、Hgの撤廃、希ガスの利用削減、ガス放電と比較して小型化・低消費電力の光源の提供、という効果につながります。また、半導体を用いるため任意の波長での発光が可能となり、光化学への幅広い応用が期待されます。

図:Mg/Zn組成が異なる各種MgZnO薄膜(試料#1~3)の室温における電子線励起発光(CL)スペクトル

詳しい研究内容について

波長 200nm 以下の深紫外線が発光可能な新しい半導体材料を開発

京都大学工学研究科 藤田静雄 教授、金子健太郎 講師、工学院大学 尾沼猛儀 教授らの研究グループは、水銀 (Hg) や希ガス (アルゴン、クリプトン、キセノンなど) の放電を用いることなく、200 nm (ナノメートル) 以下の短い波長を含む深紫外線を発光可能な半導体材料の開発に成功しました。

1. 背景
波長が 280 nm 以下の UV-C と呼ばれる紫外線は、地表に降り注ぐ太陽光には存在しない光ですが、産業的には広く用いられています。その一例として、水銀ランプから得られる波長 254 nm の紫外線が細菌やウィルスの DNA を破壊することから、殺菌灯として利用されています。反面、254 nm の光はヒトの DNA にも影響をもたらすため、使用に注意が必要です。
一方、2018 年に、波長 207222 nm の紫外線は、 ヒトの皮膚の外側死細胞層や眼の涙液層を透過しないため」、ヒトの組織を損傷することなしに空中浮遊のウィルスを殺菌することができるという報告がなされました[1,2]。また、波長 200 nm 以下の紫外線は、空気中の酸素から効果的にオゾンを形成し、その強い酸化効果を利用した殺菌 (細胞壁や細胞膜の破壊)、物質の表面改質などに利用されています。またより波長の短い紫外線は、半導体の超微細加工を可能とするリソグラフィに用いられています。
これまで、UV-C 領域の紫外線を得るには、Hg や希ガスの放電を用いたランプやレーザが用いられていました。しかし、Hg は水俣条約により利用が制限されていますし、希ガスはその名のとおり希少な資源です。またガス放電には大きな電力を必要とし、得られる波長も元素により決まってしまいます。
そこで、半導体を用いて小型、低消費電力、任意波長での紫外線の発光を目指す研究が盛んです。その材料として、窒化アルミニウムガリウム (AlGaN) の進展が進み、波長 210220 nm の発光ダイオード (LED) も実証されています。しかし、実用化にはさらに効率の高い発光を得る必要があります。また、AlGaN では、物性の限界から通常環境下で波長 210 nm 以下の発光が不可能です。そこで、波長 200 nm 以下の短い波長を含む発光が可能な新しい半導体材料の探索が期待されています。

2. 本研究の意義と成果
半導体の発光波長はそのバンドギャップで決まります。通常環境下で AlGaN から得られる光の波長はおよそ 210365 nm であり、200 nm 以下の光を得ることは不可能です。より波長の短い光を得るには、よりバンドギャップの大きい半導体の開発が必要です。そこで、本研究では酸化マグネシウム亜鉛 (MgZnO) という半導体に注目しました。この材料から得られる光の波長は、理論的にはおよそ 160365 nm と予想されます。つまり、AlGaN では不可能な領域を含み、広い波長範囲での紫外線の発光が期待されます。
京都大学では、単結晶 MgO 基板の上に MgZnO を結晶成長し、欠陥の少ない薄膜の作製に成功しました。図 1 に試料断面の高解像度透過電子顕微鏡写真を示します。MgZnO 層では原子が規則的に整列した単結晶構造を持ち、欠陥はほとんど見られません。工学院大学では、MgZnO に電子線励起を行い、発光の特性を調べました。波長 200 nm 以下の領域では光が空気中の酸素に吸収されますので、測定系をすべて窒素ガスで置換する特別な装置を作製しました。これを図 2 に示します。これにより得られた発光スペクトルを図 3 に示します。MgZnO 層の Mg と Zn の組成比に応じてそのバンドギャップが変化します。その結果、図 3 に示すように、室温 (300K) において 205253 nm、また 6K において 199244 nm にピークを持つ発光が得られました。これは上に述べたウィルス殺菌に望ましい波長、また AlGaN では実現できない波長を含んでいます。室温における発光の効率は 2.411%で、単層の膜からの発光としては比較的大きい値と言えます。

3. 今後の展望
MgZnO は理論的には 160 nm までの発光が可能です。今後は、MgZnO 膜の特性を向上させることで、200 nm 以下のより短波長での発光を目指します。また、半導体は量子井戸構造によって発光効率の増加が可能です。すでにその効果も確認していますが、引き続き発光効率を高めてゆけると考えています。実際のデバイスとしては、pn 接合ダイオードにつなげることが理想的ですが、バンドギャップの大きい半導体では電気特性の制御が一般には困難です。pn 接合ダイオードに向けた研究を進める一方で、ブラウン管、プラズマディスプレイや蛍光灯と同様の原理である電子線励起、光励起、イオン・プラズマ励起によるデバイスを検討します。 本研究成果は、Hg の不使用、希ガスの利用削減、ガス放電と比較して小型化・低消費電力の光源の提供、という効果につながります。また、ガス放電では発光の波長が原子の種類により限定される一方で、半導体を用いると任意の波長での発光が可能となり、光化学への幅広い応用が期待されます。
本研究成果は、JSPS 科研費 17H01263 の成果として得られたものです。


図 1 MgO 基板上 MgZnO 薄膜の高解像度透過電子顕微鏡観察の結果。原子の並びに乱れがほとんどなく、欠陥の少ない結晶が得られていることを示しています。

図 2 波長 200nm 以下まで測定可能な深紫外光物性評価装置の概略。


図 3 各種 MgZnO 試料 (Mg/Zn 組成比が異なる) の室温における電子線励起発光 (CL) スペクトル。ウィルスの殺菌に望ましい 207~220 nm の波長を含むうえ、200 nm 以下のオゾン発生可能な光の放出も可能です。この図では、試料#1 で波長 190 nm までの紫外光が得られています。よりバンドギャップの大きい試料を作製できれば、波長 160 nm までの発光が可能です。MgZnO および AlGaN で発光可能な波長領域をあわせて示します。

参考文献
[1] Laser Focus World Japan 2018 年 7 月号, p.11
[2] D. Welch et al., Scientific Reports 8, 2752 (2018); DOI:10.1038/s41598-018-21058-w

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