トウガラシの辛味レベルを変化させる遺伝子変異を発見~激辛・中辛・辛くないを作り分ける~

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2019-08-30 京都大学

田中義行 農学研究科准教授は、岡山大学、城西大学と共同で、トウガラシの辛味レベルを変化させる遺伝子変異を同定しました。
トウガラシの辛味の強弱は、辛味成分カプサイシノイドの含量によって決まっています。トウガラシには様々な系統・品種があり、カプサイシノイド含量について大きな系統間差が認められますが、その含量の違いを決定している分子メカニズムはほとんど分かっていません。そのため、トウガラシ類の育種において、辛味レベルを調整することは困難でした。
今回、本研究グループは、辛味成分合成経路の一遺伝子putative aminotransferase(pAMT)のトランスポゾン挿入位置の僅かな違いが、辛味レベルを変化させることを明らかにしました。pAMTはカプサイシノイドの生合成量を決める蛇口のような遺伝子であり、トランスポゾンの位置でその蛇口の締まり具合が変わることがわかりました。
見つかった様々な変異型pAMTが、トウガラシの辛味レベルを自在に調整する育種に活用されることが期待されます。
本研究成果は、2019年7月19日に、国際学術誌「The Plant Journal」のオンライン版に掲載されました。

トウガラシの辛味レベルを変化させる遺伝子変異を発見~激辛・中辛・辛くないを作り分ける~

図:様々な変異型pAMTによるトウガラシの辛味レベルの調整

詳しい研究内容について

トウガラシの辛味レベルを変化させる遺伝子変異を発見
―激辛・中辛・辛くないを作り分ける―

概要
京都大学大学院農学研究科 田中義行 准教授、岡山大学、城西大学の共同研究グループは、トウガラシの辛 味レベルを変化させる遺伝子変異を同定しました。
トウガラシの辛味の強弱は、辛味成分カプサイシノイドの含量によって決まっています。トウガラシには 様々な系統 品種があり、カプサイシノイド含量について大きな系統間差が認められますが、その含量の違い を決定している分子メカニズムはほとんど分かっていません。そのため、トウガラシ類の育種において、辛味 レベルを調整することは困難でした。今回、本研究グループは、辛味成分合成経路の一遺伝子 putative aminotransferase pAMT)のトランスポゾン挿入位置の僅かな違いが、辛味レベルを変化させることを明ら かにしました。pAMT はカプサイシノイドの生合成量を決める蛇口のような遺伝子であり、トランスポゾンの 位置でその蛇口の締まり具合が変わることがわかりました。見つかった様々な変異型 pAMT が、トウガラシ の辛味レベルを自在に調整する育種に活用されることが期待されます。
本研究成果は、2019 年 7 月 19 日に、国際学術誌「The Plant Journal」のオンライン版に掲載されました。


図:様々な変異型pAMTによるトウガラシの辛味レベルの調整

1.背景
トウガラシ果実における辛味の強弱は、辛味成分カプサイシノイドの含量で決まっています。トウガラシに は様々な系統 品種があり、カプサイシノイド含量について大きな系統間差が認められますが、その含量の違 いを決定している分子メカニズムはほとんど分かっていません。私たちの研究グループは、辛味成分合成経路 の一遺伝子 putative aminotransferase pAMT)に注目して研究を行ってきました。pAMT はカプサイシノイ ド生合成量を決める蛇口のような遺伝子です。pAMT を機能欠損したトウガラシでは、生合成経路の蛇口が閉 まり、カプサイシノイド(CAP)含量が激減し、代わりに低辛味成分カプシノイド(CST)の含量が増加します。 つまり pAMT 遺伝子の変異は CAP と CST の合成比率を変化させます。

2.研究手法・成果
今回、機能型 pAMT と機能欠損型 pamt の中間的な CAP /CST 比率を示す変異型 pamt を2種類見つけ、 pamt L1と pamt L2と名付けました pamt L1-2の L は、蛇口が閉まらず“漏れている”=leaky という意味です) 。 トウガラシ果実における pAMT 酵素活性を調査したところ、機能型 pAMT>pamt L1>pamt L2の順に低下し、 機能欠損型 pamt では活性は全く認められませんでした。また交雑集団を用いた遺伝解析により、pamt L1、 pamt L2、機能欠損型 pamt は、カプサイシノイド含量をそれぞれ機能型 pAMT の約 50%、10%、1%未満に 低下させる効果があることが明らかになりました。
続いて、「なぜ pamt L1と pamt L2では活性低下程度が異なるのか?」ということを明らかにするために、遺 伝子の解析を行いました。pamt L1 と pamt L2ともに3番目のイントロンにトランスポゾンが挿入していまし たが、興味深いことにその挿入位置が僅かに異なっていました。RNA-seq という転写産物を網羅的に調査す る方法で解析を行ったところ、トランスポゾン挿入がある第 3 イントロン部でスプライシングが変化し,機能 型 mRNA とトランスポゾンの部分配列を含む非機能型 mRNA が共存していることが明らかになりました。非 機能型 mRNA は、pamt L1と比べて pamt L2でより優占的に発現していました。以上より、pamt L1 と pamt L 2の機能低下程度の違いは、イントロンにおけるトランスポゾン挿入位置の違いがスプライシング効率を変化 させることによるものであり、それにより異なる程度の pAMT 酵素活性およびカプサイシノイド含量の低下 が起きると考えられました。イントロン領域にトランスポゾンが挿入することで遺伝子のスプライシングが変 化することは知られていますが、今回、挿入位置の僅かな違いでトウガラシの辛味レベルが変化しているとい う興味深い事例を見つけることができました。

3.波及効果、今後の予定
これまでの辛味育種は、カプサイシノイド含量の異なるトウガラシを交雑し、その後代で偶然生じたちょう ど良い辛味の個体を選抜するという手法で行われてきました。この育種法では、多数の遺伝子間での相互作用 のために、育種家の目的通りの辛味をつくることが困難でした。本研究を通して様々な pAMT タイプが発見 されてきたことにより、育種開始前に pAMT のタイプを機能型か機能欠損型か、それとも leaky 型かを選択 し、遺伝子マーカーを利用することで、どの程度まで辛味を抑えるかを計画的かつ効率的に進めることができ ると思われます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業「基盤研究 C」( PJ:18K05618)と山陽放送学術文化財団の 支援を受け、実施しました。

<用語解説>
イントロン:
遺伝子内において直接アミノ酸配列に翻訳されない部位。一方、アミノ酸配列に翻訳される部位 はエキソンと呼ばれる。
トランスポゾン :ゲノム上の位置を移動する塩基配列。「動く遺伝子」とも呼ばれる。トランスポゾンの転移 は突然変異の原因となりうる。
スプライシング: DNA から mRNA 前駆体が転写された後に、イントロンが除去され、エキソン同士が結合し、 完全なアミノ酸配列を示す mRNA が生成されること。

<研究者のコメント>
「トウガラシの辛味の多様性がどのように決まっているのか?」ということは私にとって大きな疑問です。 今回の発見により、その疑問の一部が明らかになりました。トウガラシは、野菜としてはややマイナーな存在 ですが、重要な香辛料であり世界各地に多様な在来系統が存在しています。日本においても各地域に在来トウ ガラシが存在しており、これらは七味や健康食品などに加工できるため、地域特産品の素材としての可能性が あります。本研究成果は、在来トウガラシの改良やそれを利用した地域特産品の開発の一助になるのではない かと期待しています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Positional differences of intronic transposons in pAMT affect the pungency level in chili pepper through altered splicing efficiency( pAMT 遺伝子におけるトランスポゾン挿入位置の違いは, ス プライシング効率を変化させ,トウガラシの辛味程度に影響を及ぼす)
著 者:Yoshiyuki Tanaka, Takaya Asano, Yorika Kanemitsu, Tanjuro Goto, Yuichi Yoshida, Kenichiro Yasuba, Yuki Misawa, Sachie Nakatani, Kenji Kobata
掲 載 誌:The Plant Journal  DOI:10.1111/tpj.14462

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