[極薄ペロブスカイト太陽電池の気球飛翔]
2019-08-01 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2019年8月1日(木)午前6時00分に、極薄ペロブスカイト太陽電池の気球飛翔を目的として、2019年度気球実験の2号機を、連携協力拠点である大樹航空宇宙実験場より放球しました。この気球は満膨張時直径約11mのゴム気球で、毎分およそ330mの速度で上昇しました。
ゴム気球は、放球1時間15分後に大樹航空宇宙実験場東北東約20kmの太平洋上において高度約30kmに達しました。供試体はパラシュートにより、大樹航空宇宙実験場東方約40kmの海上に緩降下しました。
放球時の地上気象状況は、天候:晴れ、無風、気温:摂氏27度でした。
本実験をもちまして2019年度第一次気球実験は終了となります。なお、第一次気球実験での実施を予定していた大気球実験B19-04の実験は、気球飛翔に必要なヘリウムガスが国内での供給不足により十分な量を確保できないため、今季の実施を見送ることとしました。
実験にご協力いただいた関係者の皆様に深く感謝いたします。
<参考>
ペロブスカイト太陽電池は2009年に日本で開発された新しい太陽電池で、次世代太陽電池として世界中で注目されています。それは、塗布により簡易・低コストに製造可能であること、光吸収係数が高いため発電層を薄くして軽量化することが可能であること、高効率化を実現可能などの優れた特徴をもつことからです。低温成膜や薄膜化が可能という特色を活かした薄膜フィルム上への成膜の可能性に着目し、20μm厚程度のフィルム、特にポリエチレンなどのフレキシブル性が高い材料への太陽電池成膜を実現できれば、気球の膜上発電、ウエアラブル発電、インフレータブル構造物上での発電など、革新的な発電が可能となり、イノベーションを起こすことができます。
本実験では、極薄ペロブスカイト太陽電池の適用先の一つとして考えている気球膜上発電のために気球飛翔環境での動作試験を世界に先駆けて行い、膜上発電用極薄ペロブスカイト太陽電池開発によって気球実験の高度化に貢献することを目指します。
科学観測用大気球とは
大気球は、人工衛星や観測ロケットと並ぶ、科学観測と宇宙工学実験のための飛翔体です。
極薄のポリエチレンフィルムで作られた気球にヘリウムガスを詰めて、飛行機の3~4倍の高度の成層圏に実験装置を運びます。
大気球実験では搭載機器の大きさや重量に対する制限が緩く、飛翔機会も多いため、最新鋭の実験装置を用いた野心的な実験が数多く行われています。
また回収される実験装置に少しずつ改良を加えながら新しい成果を生み出すこともできます。
気球実験で実績を積んだ搭載装置は、人工衛星での実験に利用されることもあります。
そして大気球実験で萌芽的な研究をスタートさせた多くの若手研究者が、後に最先端の宇宙科学研究をリードしてきました。
1971年以来2007年まで、400機以上の大気球が岩手県大船渡市三陸町から打ち上げられ、さまざまな実験が行われてきました。
2008年からは北海道広尾郡大樹町で、幅広い大気球実験を展開しています。
また、南極での白夜を利用した長時間飛翔や、ブラジルでの南天の天体観測実験など海外での実験も進めています。
新たな宇宙科学を切り拓く飛翔体として、より重い搭載機器をより高くより長時間飛翔させるための次世代気球の開発も進めています。
数ヵ月にわたる飛翔を可能にするスーパープレッシャー気球や、成層圏を越え中間圏での飛翔を可能にした超薄膜高高度気球など、世界最先端の技術開発を行っています。
200年以上前に人類を初めて空に飛翔させた気球は、今なお進化し、宇宙科学、宇宙開発の最前線に位置する飛翔体として活躍しています。
2019年7月6日 更新
大気球実験B19–02の実施終了について[成層圏における微生物捕獲実験Biopause III]
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2019年7月6日(土)午前4時5分に、成層圏における微生物捕獲を目的として、2019年度気球実験の1号機を、連携協力拠点である大樹航空宇宙実験場より放球しました。この気球は満膨張体積30,000 m3(直径約42m)の大型気球で、毎分およそ330mの速度で上昇しました。
気球は、放球1時間30分後に大樹航空宇宙実験場東方約35 kmの太平洋上において高度約28 kmで水平浮遊状態に入りました。その後午前5時45分に指令電波により切り離された気球および微生物採取装置は、大樹航空宇宙実験場南東約35kmの海上に緩降下し、午前6時32分までに回収船によって回収されました。
放球時の地上気象状況は、天候:曇り、風速毎秒1m、気温:摂氏13度でした。
<参考>
成層圏における微生物の存在は、これまでにも地球大気の上部(成層圏、中間圏)での微生物採取により数例報告されています。大気上部に存在する生物種の把握や、その分布を明らかにすることは、地球生物圏の上端がどのようになっているのかを知る上で非常に重要な知見となります。今回の実験では、気球から切り離された微生物採取装置がパラシュートにより降下する間の微生物採取を目的としています。採取後は、採取装置中の微生物・微粒子試料の分析を実施します。