ダイヤモンド電極を用いた有効塩素濃度センサーを開発

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高感度、リアルタイム、メンテナンスフリーで衛生管理に革新

2018/08/29  慶應義塾大学,機能水研究振興財団,株式会社堀場アドバンスドテクノ,科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • 有効塩素濃度の測定法として従来一般的な「吸光光度法」および「電気化学測定法」では、リアルタイム測定やメンテナンスフリー化について課題があった。
  • ダイヤモンド電極の強みを生かして、高感度でリアルタイムにメンテナンスフリーで測定でき、かつpHや温度の影響を受けない有効塩素濃度測定システムを実現。
  • 次亜塩素酸水生成装置、次亜塩素酸ナトリウム溶液供給装置、浄水、上水道、プール、浴槽、食品業界などへの展開が期待される。

慶應義塾大学 理工学部 化学科の栄長 泰明 教授は、一般財団法人 機能水研究振興財団(東京都品川区、理事長:堀田 国元)および株式会社堀場アドバンスドテクノ(京都市、代表取締役社長:堀場 弾)の協力を得て、リアルタイム測定ができる高感度な有効塩素濃度注1)センサーシステムを開発しました。

このセンサーシステムは、食品、調理機器の殺菌やプールの消毒などに用いられる次亜塩素酸水や次亜塩素酸ナトリウム溶液の有効塩素濃度測定を目的として開発されました。ダイヤモンド電極注2)の「高感度でリアルタイムな検出機能」などの強みを生かし、(1)水道水用(0~2ppm)、次亜塩素酸水用(0~100ppm)、次亜塩素酸ナトリウム溶液用(0~1000ppm)と広範囲な濃度に対応できる、(2)リアルタイム測定ができる、(3)溶液pHの影響を受けない、(4)溶液温度の影響を受けない、(5)電極表面の定常的なメンテナンスが不要、(6)自動で測定・記録ができる、などの特徴があります。

公衆衛生・食品・医療などの現場では、確実な衛生管理のために日常的に有効塩素濃度の測定と記録が求められるようになってきています。本センサーシステムは今後、さまざまな分野で役立つと期待されます。

このセンサーシステムは、2018年8月30~31日に東京ビッグサイトで開催される「JSTフェア2018」で発表されます。

ダイヤモンド電極の研究開発は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 ACCELの研究開発課題「ダイヤモンド電極の物質科学と応用展開(JPMJAC1402)」(研究代表者:栄長 泰明(慶應義塾大学 理工学部 教授)、プログラムマネージャー:塚原 信彦(JST))の一環として行われました。

<研究の背景>

公衆衛生・食品・医療などの現場では、衛生管理の確実な履行のため、日常的に有効塩素濃度の測定と記録が求められるようになってきています。2017年10月には、食品の殺菌や厨房の衛生管理などに有効な次亜塩素酸水を生成する「次亜塩素酸水生成装置」について、機能水研究振興財団らの尽力によりJIS B8701が制定されました。このように、装置の使用者が安心して使用できる環境が求められており、その市場拡大が見込まれます。今般注目されている食品衛生管理の国際基準であるHACCP注3)に対応する上でも、有効塩素濃度測定技術は有効であり、食の安全安心に貢献できると期待されます。

有効塩素濃度の測定には従来、大きく分けて「吸光光度法」と「電気化学測定法」という2種類の測定法が用いられています。「吸光光度法」は、試薬を加えてサンプル溶液を発色させ、吸光光度計を使って特定の波長の吸光度を測定して有効塩素濃度を求める方法で、連続測定には適していません。「電気化学測定法」は連続測定できますが、一般的な金、白金、炭素繊維などの電極では、次亜塩素酸を検出することが困難であるため、次亜塩素酸イオン濃度と次亜塩素酸濃度の和である有効塩素濃度を求めることができません。また電極を用いることの大きな課題として、塩素の高い酸化力によって電極表面に酸化物が形成されるため、ガラスビーズによる研磨洗浄などの定期的なメンテナンスが必要でした。

そこで、センサー電極のメンテナンスが不要で、なおかつ自動で測定と記録ができる有効塩素濃度測定システムの開発が強く望まれていました。

栄長教授は以前より、ダイヤモンドに高濃度のホウ素を添加して導電性を持たせた「ダイヤモンド電極」が優れた特性を示し、さまざまな物質に対する次世代センサーとして期待できることを報告していました。

<研究の成果>

本研究では、ダイヤモンド電極が有効塩素濃度測定に有用であることを見いだし、さらに電極を最適化することで、これまで市販のセンサーでは実現できていなかった、高感度、リアルタイムかつメンテナンスフリーな有効塩素濃度センサーを開発しました。

このセンサーでは、ダイヤモンド電極を作用極としてサンプル溶液に電圧を加えて、流れた電流を測定することにより有効塩素濃度が得られます。

検討の結果、次亜塩素酸イオン濃度を測定する場合(図1)は印加する電圧を+1.45Vに、次亜塩素酸濃度を測定する場合(図2)は印加する電圧を約-0.4Vにすれば、最も高感度に測定できることが分かりました。

溶液中での次亜塩素酸イオンと次亜塩素酸の割合は、溶液のpHによって大きく変化しますが、電位窓注4)が極端に広いダイヤモンド電極では、両者の濃度をいずれも測定できるため、溶液のpHによらず測定結果を足し合わせることにより溶液中の有効塩素濃度を求めることができます。

さらに、ダイヤモンド電極は表面の安定性が高く、腐食や酸化物の形成などが生じないため、電極表面の定常的なメンテナンスが不要です。

開発したダイヤモンド電極を用いてフロー系のセンサーシステムを製作し、条件を最適化しました。図3に開発した有効塩素濃度モニター試作機、図4に測定結果例を示します。サンプル濃度と、測定された有効塩素濃度に比例関係が得られ、良好に測定できることが分かります。さらに、従来の測定法に比べ、広い濃度域で高精度に、有効塩素濃度を測定できることが示されました。

この有効塩素濃度モニターは、食品業界で食品や調理機器の殺菌に使われる次亜塩素酸水や次亜塩素酸ナトリウム溶液の有効塩素濃度をリアルタイムに計測できます。次亜塩素酸水生成装置などへの組み込みや、野菜の洗浄槽などに取り付けることで、次亜塩素酸水や次亜塩素酸ナトリウム溶液が設定通りの濃度で供給されているか、殺菌するために必要な有効塩素濃度が維持されているかを常時監視することができます。

このセンサーシステムは、2018年8月30~31日に東京ビッグサイトで開催される「JSTフェア2018」で発表されます。戦略的創造研究推進事業ブースにて試作機のデモンストレーションを行うとともに、セミナー「Society 5.0の実現に向けた革新的センサー・デバイス技術」(8月31日14:30~16:30)にて紹介する予定です。

<今後の展開>

新たに開発した有効塩素濃度測定システムは、次亜塩素酸水生成装置、次亜塩素酸ナトリウム溶液供給装置、浄水、上水道、プール、浴槽、食品業界などへの展開が見込まれます。今後、さらなる現場ニーズの反映、センサーユニットの小型化などの開発を進め、有効塩素濃度モニターの製品化を目指します。これにより、食の安全安心ほか衛生管理に幅広く貢献できると期待されます。

<参考図>

図1 次亜塩素酸イオン濃度の測定結果

図1 次亜塩素酸イオン濃度の測定結果

+1.45Vの電位を加えたときに最大の電流値を示すことが分かる。

図2 次亜塩素酸濃度の測定結果

図2 次亜塩素酸濃度の測定結果

-0.4Vの電圧を加えたときに最大の電流値を示すことが分かる。

図3 有効塩素濃度モニター試作機

図3 有効塩素濃度モニター試作機

図4 測定結果例

図4 測定結果例
<用語解説>
注1)有効塩素濃度
次亜塩素酸水や次亜塩素酸ナトリウム溶液中の塩素は次亜塩素酸と次亜塩素酸イオンが混ざって存在している。有効塩素濃度は、次亜塩素酸濃度と次亜塩素酸イオン濃度を足し合わせることで求められる。
注2)ダイヤモンド電極
本来絶縁体であるダイヤモンドに、不純物としてホウ素を添加することで導電性を付与し、これを電極として利用したもの。従来利用されている炭素電極、白金電極などに比較して、水溶液中での電位窓が広い、バックグラウンド電流が小さいなどの優れた電気化学特性を持つため、センサー、水処理を始めとした応用が期待されている。耐久性など、ダイヤモンド本来の物理化学特性も強みであり、次世代の電極材料として期待されている。
注3)HACCP(ハサップ)
国際基準に基づき、食品の製造工程で衛生や品質管理を行うシステム。
注4)電位窓
溶媒中で電位を加えても溶媒の電解が起こらない範囲のこと。この範囲では有意義な電気化学測定を行うことができる。例えば、水中では、電位を加えても水素発生も酸素発生も起こらない電位範囲のこと。ダイヤモンド電極ではこれがとても広いため、上記のような優位性を持つ。
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

栄長 泰明(エイナガ ヤスアキ)
慶應義塾大学 理工学部 化学科 教授

堀田 国元
機能水研究振興財団 理事長

宮村 和宏
株式会社堀場アドバンスドテクノ 要素開発部

<JST事業に関すること>

寺下 大地(テラシタ ダイチ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部

<報道担当>

慶應義塾 広報室

科学技術振興機構 広報課

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