折紙工学 -折紙の特徴や機能を製品創出に生かす-

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2018/04/19 科学技術予測センター:中島 潤(特別研究員)

折紙工学とは

2000年前後、当時京都大学の野島武敏博士が、折り畳み型の円筒、円錐や円形膜などを発表しました1~3)。そして、この折り畳み可能という機能が製品の軽量化や保管を容易にするなど新たな価値の付与、産業創出につながると考え、更には、折紙の特徴や機能を備えた製品のモデル化や加工法などを総称して、2002年に折紙工学を提唱しました4)。以降、多くの研究者が研究の推進及び研究コミュニティの拡大を進めており、現在は、この折紙工学の概念に基づいた研究の成果を製品に生かす動きが大変活発になってきています。有名な「ミウラ折り」5)以外にも、将来社会にインパクトを与えるような研究の兆しを一部紹介します。

最新の研究動向

一言で折紙工学と言っても、現在は様々なアプローチにより研究領域が広がっています。

明治大学の萩原一郎特任教授の研究室では、自動車が衝突した際に乗員への被害を軽減させるためのエネルギー吸収部材(図表1)への応用6)など、折紙工学の産業応用へ積極的に取り組んでいます。また、折紙式3次元プリンターシステム7)(注1)や自動で折り、糊付けまで可能な折紙ロボット(図表2)といった、生産技術に関連した研究開発も進めています。

図表1 : 折紙構造を生かした自動車エネルギー吸収部材

図表2 : 糊付けまで可能な折紙ロボット

注1: 立体物の3Dスキャンデータを入力し、それを折り紙が出来る2次元の展開図として出力することで、元の立体物に近い構造物を造形することができる3次元プリンター

折紙の「軽くて強い」「展開収縮できる」という特徴を活かした建築構造物への応用研究も進められています。東京大学の舘知宏准教授らは、折りによって作られる立体形状,折り畳みや展開メカニズムなどの数理計算によって折紙の特徴を活かした構造物の建築分野への活用を研究しています。紙の場合、材料の厚みを考慮せずに折りによって立体構造を作り出せますが、建築物や工業製品では、強度上、厚みのある材料を歪ませずに折り畳む構造を考えなければなりません。この、厚みのある材料を歪ませずに折り畳める「剛体折紙」8)(注2)の複合理論を応用し、畳むと柔らかくコンパクトで、展開すると硬くなり十分な強度を要した構造物(図表3)など全く新しい建築構造物を提案しています。

図表3 : 展開すると硬くなる構造物 (左)展開時、(右)折り畳み時

注2 : 折れ線に囲まれた平面は変形しない、平面が剛体パネル、折れ線が回転ヒンジで接合された構造体のモデル

明治大学の石田祥子専任講師らは、折り畳み構造の“双安定”という力学的特性を利用した新しい防振機構(図表4)の研究を進めています。双安定とは、立体に展開された状態と完全に折り畳まれた状態の双方で構造が安定することを指します。この双安定な機構と線形ばねを組合せると、フックの法則 F=kx の  k:ばね定数  が理論的に0になる領域が折り畳まれた状態と展開された状態の中間的に存在することが示され、その特徴を生かすことで、有力な防振機構となる可能性が示されています9)

図表4 : 防振機構のプロトタイプとその防振理論

東京大学の斉藤一哉特任講師らは、一部の昆虫の、飛翔のための翅の折り畳み構造の解析10)(図表5)を進めています。昆虫の進化の過程で得られた、大きな構造をコンパクトに折り畳む技術、またそのメカニズムを傘や扇子等の日用品から人工の展開翼などへ生かす応用研究が進んでいます。

図表5 : 甲虫後翅の折り畳みモデル

他にも、折り畳まれた小さな状態で体内に入り患部で展開するドラッグデリバリーシステムなど、医療分野への応用研究も進められ、様々な研究領域に折紙工学の概念が取り入れられ始めています。

これからの折紙工学

現在、本稿で紹介した研究以外にも様々な研究者が、今まで積み重ねてきた研究活動の成果として製品化への動きを進めています。一方、未だに新たな折り方による立体構造物や理論構築が可能な領域も多く残っています。

今、私たちが“最適”と考えている構造や部品でも、折紙工学の概念を用いれば、更に強くて軽い構造物を作ることが出来るかもしれません。ただし、複雑な折り形状によって優れた性能を示すことができた場合でも、製品化する際に課題となるのが、いかに“安価で生産できるか”です。それには理論的な解析のみでなく、成形法など生産プロセスも含めたモノづくりとしてのトータルの研究開発が必須となります。

日本の研究者、研究コミュニティが世界的にも強い研究領域ですので、研究コミュニティの拡大と共に、産業界との協業なども進むことで、実際の製品化、産業化でも世界をリードしていくことが期待されます。

謝辞

本記事を執筆するにあたり、明治大学先端数理科学インスティテュート先端数理部門 萩原一郎特任教授、東京大学大学院総合研究科 舘知宏准教授、明治大学理工学部機械工学科 石田祥子専任講師、東京大学大学院情報理工学系研究科 斉藤一哉特任講師には研究内容や動向について詳しくご教示頂きました。ここに感謝の意を表します。

参考文献

1) 野島武敏, “平板と円筒の折りたたみ法の折紙によるモデル化”, 日本機械学会論文集(C編), 66-643, (2000), 1050-1056

https://doi.org/10.1299/kikaic.66.1050

2) 野島武敏, “折りたたみ可能な円錐殻の創製”, 日本機械学会論文集(C編), 66-647, (2000), 2463-2469

https://doi.org/10.1299/kikaic.66.2463

3) 野島武敏, “容易な展開を考慮した薄い円形膜の折りたたみ法の折紙によるモデル化(半径方向への折りたたみとアルキメデスのら旋状折り線による収納)”, 日本機械学会論文集(C編), 67-653, (2001), 270-275

https://doi.org/10.1299/kikaic.67.270

4) 野島武敏, “数理折紙による構造モデル-折紙工学の提案-京都大学IICフェア”, 京都新聞, 2002年11月

5) 三浦公亮, “地図・折紙・宇宙 -ミウラ折りをめぐって-”, 地図, 35-2, 1997, 1-10

https://doi.org/10.11212/jjca1963.35.2_1

6) 萩原一郎, “折紙構造の産業化の展望と今後の方向”, 金属, Vol.87 (2017-10), 873-881

https://www.agne.co.jp/kinzoku/kin1087.htm

7) 萩原一郎, “積層型3次元プリンターを凌駕する折紙式3次元プリンターを目指して”, 応用数理, 26-1, 2016, 22-28

https://doi.org/10.11540/bjsiam.26.1_22

8) 舘知宏, “剛体折紙メカニズム”, 日本ロボット学会誌, 34-3, 2016, 184-191

https://doi.org/10.7210/jrsj.34.184

9) Sachiko Ishida et al., “Design and Experimental Analysis of Origami-Inspired Vibration Isolator With Quasi-Zero-Stiffness Characteristic”, Journal of Vibration and Acoustics, 139-5, 2017, 051004

https://doi.org/10.1115/1.4036465

10) 斉藤一哉. “究極の展開構造:昆虫の翅(はね)の折り畳みに挑む”, 日本機械学会誌, 119-1175, 2016, 556-557

https://doi.org/10.1299/jsmemag.119.1175_556

11) 明治大学先端数理科学インスティテュート先端数理部門萩原研究室HP:

http://www.isc.meiji.ac.jp/~hagilab/index.html

12) TT’s Page (舘知宏氏HP):

http://www.tsg.ne.jp/TT/

13) 明治大学理工学部機械工学科機能デザイン研究室HP :

http://www.isc.meiji.ac.jp/~sishida/home.html

14) 斉藤一哉氏HP :

https://ksaito-tech.wixsite.com/ksaito

15) 明治大学 「Meiji.net」 : 世界が注目する折紙工学~明治大学の折紙工学研究拠点~

http://www.meiji.net/magazine/knowledge/vol50_ichiro-hagiwara

これまでの科学技術予測調査における関連トピック

磁気誘導等のコンバインドデバイスによるドラッグデリバリーシステム(DDS)(2010年:第9回)

情報技術を用いたデザイン支援ツールの拡充と3Dプリンター等の普及に伴い、ユーザ自身での製品・サービスのカスタマイズやリデザインが一般化する(2015年:第10回)

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