就職活動終われハラスメントが日本的雇用に起因することを解明

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内資・年功序列・古い設立年の企業がオワハラをしやすい

2020-03-17  京都大学

太郎丸博 文学研究科教授、水野幸輝 文学部生は、就職活動終われハラスメント(以下、オワハラ)の一因が、日本的雇用にあることを明らかにしました。

オワハラとは、企業が就職活動中の学生等に対して他社の選考を受けないよう要求することですが、職業選択の自由を脅かす行為として、政府、経団連、大学から批判されています。また、オワハラをしても学生は嘘をついて就職活動を続けることができるため、学生を自社に就職させる効果があるかも疑わしいものです。

本研究グループが、2019年に就職活動をした学生へのアンケート調査を通して、どのような企業がオワハラをしやすいのか調べたところ、外資系ではなく内資、年功序列があると思われ、昔に設立された歴史のある企業ほどオワハラをしやすい傾向があることがわかりました。この背景には、いわゆる日本的雇用があると考えられます。日本的雇用では企業を家族や地域共同体になぞらえ、長期的で親密な関係を求める傾向が強いと言われています。このような企業にとっては、自社以外の企業への就職を考えることは、そのような共同体の秩序を破壊するに等しい反逆行為といえます。そのため、オワハラは自社への忠誠を求める正当な行為と考えられているのではないか、と考えられます。

本研究成果は、2020年3月16日、17日に開催予定であった「第69回数理社会学会大会」に受理されました。

図:本研究のイメージ図

書誌情報

産経新聞(3月7日 7面)に掲載されました。

詳しい研究内容について

就職活動終われハラスメントが日本的雇用に起因することを解明
―内資・年功序列・古い設立年の企業がオワハラをしやすい―

概要
京都大学大学院文学研究科 太郎丸博 教授と水野幸輝 同学部学生は、就職活動終われハラスメント 以下、オワハラ)の一因が、日本的雇用にあることを明らかにしました。
オワハラとは、企業が就職活動中の学生等に対して他社の選考を受けないよう要求することですが、職業選択の自由を脅かす行為として、政府、経団連、大学から批判されています。また、オワハラをしても学生は嘘をついて就職活動を続けることができるため、学生を自社に就職させる効果があるかも疑わしいものです。太郎丸教授と水野氏が、2019 年に就職活動をした学生へのアンケート調査を通して、どのような企業がオワハラをしやすいのか調べたところ、外資系ではなく内資、年功序列があると思われ、昔に設立された歴史のある企業ほどオワハラをしやすい傾向があることがわかりました。この背景には、いわゆる日本的雇用があると考えられます。日本的雇用では企業を家族や地域共同体になぞらえ、長期的で親密な関係を求める傾向が強いと言われています。このような企業にとっては、自社以外の企業への就職を考えることは、そのような共同体の秩序を破壊するに等しい反逆行為といえます。そのため、オワハラは自社への忠誠を求める正当な行為と考えられているのではないか、と考えられます。
本研究成果は、2020 年 3 月 16 日・17 日に開催予定だった「第 69 回数理社会学会大会」に受理されました。

1. 問題:オワハラの規定要因
就活終われハラスメント (以下オワハラと略称)とは、採用活動を行う企業が就活生に対して、他社の選考活動をやめるように要求することをいいます (NPO 法人 DSS https://www.youtube.com/watch?v= F7COQMu81O4)。「他社の面接をすべて辞退したら内定をやる」と言ったり、ひどいものは会議室に軟禁して恫喝するような事例もあります。また、研修・ 親睦などの名目で必要以上に学生を拘束して他社の選考を受けられないようにするのもオワハラとされています。Google トレンド (https://www.google.com/trends) によると 2015 年に検索回数が増え、同年ユーキャンの新語・流行語大賞にもノミネートされています
(https://www.jiyu.co.jp/singo/index.php?eid=00032)。このような行為がどの程度、なぜ行われているのか明らかにするのが本研究の目的です。
オワハラは、以下の規範に反した逸脱行為です。
● 日本経済団体連合会 (日経連)の採用選考に関する指針
● 就職問題懇談会の「申合せ」
●内閣官房の就職・採用活動に関する要請
それだけでなく、オワハラは学生を自社に就職させる効果のない非合理的な行為と考えられます。なぜなら学生はしばしば「 はい、他社の面接はすべて辞退します」と嘘をついて、他社の選考を受け続けることが可能であるし、しばしば実際にそうしているからです (松浦 2019, 水野 2020)。また、このような逸脱行為を行う企業に対する学生の印象も悪くなり、内定辞退率が高まるかもしれません。一方で、学生も大きなストレスを感じる行為です。
このようなオワハラを、どのような企業が行いやすいのかについては、以下の 2 つの仮説が考えられます。
1. 採用人数仮説:
内定辞退があることは企業も知っているので、 採用予定人数 歩留まり率 だけ内定を出せばよいが、採用人数の少ない企業は過去の実績から歩留まり率を推定しても誤差が大きい。そのため、採用予定人数を大きく下回る学生しか採用できない確率が高まり、学生を無理に自社に就職させようとするかもしれない。採用人数が多いほど内定辞退率の推定は正確になり、オワハラをしなくても必要な数の新入社員をえられる確率が高まるはずである。
2. 日本的雇用仮説:
日本的な企業風土が強い会社ほどオワハラを行いやすいという仮説も考えられる。会社を家族や地域共同体のアナロジーでとらえ( 稲上 1999)、長期的で親密な関係を求める企業にとって、複数の会社から内定をとろうとする行為は、不貞行為や慣れ親しんだ過疎の村を捨てるのと同じように、共同体に対する反逆である。彼らにとっては、逸脱しているのは「御社が第一志望」といった嘘をつく学生の方であり、オワハラはハラスメントではなく、共同体=会社に忠誠を求める正当な行為である。

2. データと分析法
本研究で使用したデータは、2019 年に就職活動を行い( 2020 年 4 月入社希望)、面接まで進んだ大学 4 年生と修士 2 年生に対して行った WEB 調査の結果であり、2019 年 11 月 1 日~22 日に水野氏の知人経由で SNS を介して回答を募集しました。有効回答者数は 74 名でした。回答者には面接を受けた会社のうち、第 1 志望から第 5 志望までの会社についてオワハラを受けたかどうかを尋ね、のべ 216 件の選考事例を採集しました 調査の詳細は水野 (2020) を参照)。
従属変数は個々の選考でのオワハラの有無です。独立変数は、採用人数仮説を検証するために、回答者の答えた企業名から『就職四季報 2020 年版』( 東洋経済新報社)で採用予定人数を調べました。日本的雇用の指標として、外資系企業か内資系企業か、設立年の古さ、年功序列があると感じられるか (いずれも学生の回答)、を用いました。設立年が無回答でも企業名が分かる場合は、調べてデータとしました。本研究では、内資で、設立年が古く、年功序列がある企業ほど日本的雇用慣行が強いとみなしました。記述統計は表 1 と表 2 に示します。

表 1 個人レベルの記述統計 単位:人)

表 2 選考事例レベルの記述統計 単位:社)

3. 分析結果
表 3 は分析に用いた変数間の相関行列です、図 1 は因果関係の推定結果です。数字は1に近いほど強い関係があり、ゼロに近いほど関係がありません。図1を見ると、採用予定人数の効果は有意ではなく、係数は予想に反してプラスとなっています。一方、日本的雇用の効果は予測通り有意になっています。

表 3 用いる変数の相関係数

図 1 構造方程式モデルとパラメータ推定値 数値は推定された相関の強さ。1に近いほど強い相関がある。)

4. まとめと議論
以上の分析によって、採用人数仮説は棄却され、日本的雇用仮説は支持されました。サンプルが偏っているので一般化できるかについては疑問の余地がありますが、文系の京大生が応募するような企業に限って言えば、内資で設立年が古く年功序列であるように学生から見える企業ほどオワハラをしやすいと考えることができます。また、採用人数仮説とは逆に、採用予定人数が多いほうがオワハラをしやすい傾向も見て取ることができますが、これは日本的雇用とは相関していません。採用予定人数の多い企業は規模が大きいか、規模を拡大
している途中であろうから、そのような企業のおごりがあらわれている可能性も示唆されます。

5.研究プロジェクトについて
本研究は、日本学術振興会科研費 19K21721)の支援を受けて行われました。

<参考文献>
稲上毅, 1999, 「 総論 日本の産業社会と労働」 稲上毅・ 川喜多喬 編)『講座社会学 6 労働』東京大学出版会: 1-31.
松浦紬乃, 2019, 『総合職への就職活動における「やりたいこと」についての研究:感情労働の視点から』京都大学文学部卒業論文http://hdl.handle.net/2433/236286 .
水野幸輝, 2020, 『オワハラと日本的雇用慣行』京都大学文学部卒業論文.

<用語解説>
従属変数: 原因と結果といった関係を考える際に結果となることがら
独立変数:    〃              原因となることがら
記述統計: 平均値や標準偏差のような基本的な統計のこと

<研究者のコメント>
水野くんにやらせてみたら意外と面白い結果が出たので、記者のみなさんのご意見も伺ってみたいと思い、記者発表いたしました。就職活動は学生のその後の人生に大きな影響をおよぼす出会いの場ですし、企業にとっても自社と相性の良い優秀な人材を確保する上でとても重要ですが、それゆえにというべきか、各社がどのような採用活動を行っているのか、比較・検討した研究は少なく残念に思っておりました。

<発表タイトルと著者>
タイトル:就活終われハラスメントと日本的雇用
著 者: 太郎丸 博・水野 幸輝
発表予定学会:第 69 回数理社会学会大会

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