「原型炉研究開発ロードマップについて(一次まとめ)」の公表について

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2018/07/24  核融合科学技術委員会

科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 核融合科学技術委員会において、同委員会で昨年12月に策定した「核融合原型炉研究開発の推進に向けて」を踏まえて、7月24日の会合まで議論してきた「原型炉研究開発ロードマップについて(一次まとめ)」をとりまとめましたので公表します。

 

原型炉研究開発ロードマップについて(一次まとめ)

平成 30 年 7 月 24 日
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
核融合科学技術委員会

核融合炉開発のビジョンについては、核融合コミュニティのみならず、社会に 対して明確に分かりやすく示すことが重要である。このため、核融合科学技術委 員会においては、平成 29 年 12 月に「核融合原型炉研究開発の推進に向けて」を 策定し、
(1) 核融合原型炉の開発に必要な戦略、
(2) 原型炉に求められる基本概念と技術課題解決のための開発の進め方、
(3) 原型炉段階への移行に向けた考え方、
を示すとともに、同年 12 月に、原型炉の技術開発課題の項目毎に解決のための アクションプランを作成し、実効的なフォローアップと時宜を得た体制整備の 進捗確認を実施することとしている。
現在、原型炉建設ならびにその後の実用化に向けた原型炉研究開発ロードマ ップ(以下、ロードマップ)を検討しているが、アクションプランに示された開 発課題のうち、とりわけ早期に、限られたリソースの中で優先的に実施すべき課 題を抽出することが必要である。そのため、今般、課題抽出の際に特に重要とな る、①開発の重要度と緊急性、②国際協力の観点に基づいて、ロードマップを検 討し、一次まとめとして整理することとした。 また、原型炉研究開発の産学官によるオールジャパン体制の強化、特に、大学 等との連携強化に向けた方策についてもとりまとめた。

さらに、本ロードマップで示される研究開発の完遂のためには、連続的かつ長 期的な人材育成・確保が必須である。そのために必要な施策等については、平成 30 年 3 月 28 日に本委員会において「核融合エネルギー開発の推進に向けた人材 の育成・確保について」としてまとめており(参考資料参照)、研究開発ととも に、産学官が一体となって展開していく必要がある。

1.ロードマップ作成の観点

今回、ロードマップを整理するにあたっては、①開発の重要度と緊急性を示 す観点から、開発上で特に重要となるマイルストンを明記している。また、② 国際協力の観点として、開発が国際協力としてなされるべきか、日本独自の開 発であるべきかについても、分類して記載した。それら①・②の基本的な考え 方は次のとおりである。

① 開発の重要度と緊急性
アクションプランに示された開発課題は、いずれも原型炉建設には必須 の項目ではあるが、以下のような観点に基づき、特に重要なマイルストンと その関連研究を抽出している。
(1) 「核融合原型炉研究開発の推進に向けて」で示したチェックアンドレ ビュー(原型炉設計に向けた進捗状況の確認)の項目を達成するため に、ただちに着手することが必要な喫緊の課題とそのマイルストン。 ※ チェックアンドレビューの時期は、次のとおり予定することとし ている。  第一回中間チェックアンドレビュー: 2020 年頃  第二回中間チェックアンドレビュー: 2025 年頃から数年以内
(2) 早期に建設や設計を開始しなければチェックアンドレビューや移行判 断に間に合わなくなることから、時宜を得た予算措置が必須の課題と そのマイルストン。
(3) 課題間の相関関係の視点から重要な戦略的課題とそのマイルストン。 なお、上記(1)~(3)の観点により早期実施が重要とされた課題を、 我が国独自で実施すべきか、国際協力により実施すべきかについては、下記 ②の観点で整理した。

② 国際協力
アクションプランに示された開発課題のうち、国際協力で実施すべきも のは、以下のような観点に基づいて抽出している。
(1) これまでの研究開発の実績により我が国に高度の研究開発基盤があり、他国に対し指導的立場に立つことができる課題。
(2) 国内研究開発との相補性により、国際協力での実施が効率的と考えら れる課題。 (3) リソース的に我が国単独では実施が困難な課題。

 

2.ロードマップの考え方

上記1.で示した観点に基づいて課題を抽出しまとめたロードマップは、 別紙のとおりである。また、ロードマップ上の各項目について、考え方を以 下に示す。

① ITER 計画(国際協力で実施)
ITER 計画は、核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するた めに、2025 年の運転開始を目指し(2016 年 6 月 ITER 理事会で決定)、日本・ 欧州連合(EU)・ロシア・米国・韓国・中国・インドの7極により、実験炉 ITER の建設を進めるものである。我が国は、世界をリードする研究開発基盤を活か して、国際的な分担に従い、超伝導コイルなど、ITER の構成機器の製作に取 り組んでいるところである。
現在建設段階にある ITER 計画は、もっとも優先して開発を進めるべき事業 である。最初の重要なマイルストンは 2025 年の初プラズマ点火であり、その 先に予定される核融合研究にとってもっとも重要なマイルストンである「重水 素・トリチウム(DT)燃焼着火」に向けてプラズマ制御試験を開始する必要が ある。原型炉に向けては、DT 燃焼着火後、燃焼制御・工学試験を開始し、長時 間燃焼への道を開く必要がある。ITER の技術目標達成のために、JT-60SA によ る先行研究が重要であり、その成果を確実に ITER での開発に反映していく体 制構築を行うとともに、関連する我が国の研究開発基盤をもとに ITER の研究 計画に寄与することが必要である。
ITER 計画が運転段階に入った 2020 年代後半以降は、原型炉へ向けた炉心プ ラズマの研究開発や、ブランケットの機器試験などを本格的に実施することが 可能となる。その機を逃すことのないよう、必要な先行研究を着実に積み重ね て、原型炉関連の研究開発を加速する必要がある。

② 幅広いアプローチ活動 フェーズ II(国際協力で実施)
我が国は、ITER 計画を補完・支援することで原型炉に必要な技術基盤を確 立するために、欧州との国際協力プロジェクトとして幅広いアプローチ(BA) 活動を実施してきた。 これまでの取組みにより、2020 年 3 月までに、青森県に国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)が国際的な核融合原型炉開発のための研究開発拠 点として確立されるとともに、国際核融合材料照射施設 (IFMIF)の開発に必 要不可欠な原型加速器が完成し、茨城県に世界最高水準の先進超伝導トカマク 装置JT-60SAが完成する予定である。これまでBA活動で得られた成果を基に、 研究環境の整備完了により、今後は、さらに幅広い研究成果を創出する段階と なっている。
本活動は、欧州においても、国際協力の好事例と認識されており、2020 年 4 月以降の活動を、BA フェーズ II として位置づけ、現在、実施計画等を、日欧 間で検討している。日欧で実施することを想定している具体的な取組み内容は、
【IFERC】原型炉設計活動やそれに必要な R&D、計算機シミュレーション、遠
隔実験の準備等の実施
【IFMIF/EVEDA】原型加速器の長期連続運転に向けた高度化、これまでの活
動を踏まえた核融合中性子源の概念設計等
【JT-60SA】ITER や原型炉のための運転シナリオ開発等及びそれに必要な装
置の高度化
である。こうした取組みは、原型炉に向けた設計・開発活動として大きな役割 を果たす。とりわけ JT-60SA の建設を 2020 年 3 月までに完了し、その後の初 プラズマ点火を着実に実現し、初期研究段階に移行することが必要である。そ の後 ITER の技術目標達成のための支援研究や、原型炉に向けた ITER の補完 研究を実施する統合研究段階を経て、高性能定常プラズマの長時間維持を目 指す拡大研究段階へと展開し、定常運転領域を実証することが重要である。
なお、JT-60SA は、トカマク国内重点化装置計画にも位置づけられる装置で あり、国内の研究者コミュニティが、実施機関である量子科学技術研究開発機 構とともに、JT-60SA を利用した研究計画を共同企画・立案しつつ実施してい くことも重要である。

③ 核融合中性子源(国際協力も利用して実施)
原型炉内において、これまで人類が経験したことのない高エネルギー中性子 の照射下での炉内機器の運用を実現するためには、設計基準を含む材料の開発 が必要である。これにあたっては、高エネルギー中性子照射環境での開発・検 証が必要であり、そのための中性子源の開発および照射後試験設備が必要とな る。現在は、BA 活動の一環として実施している IFMIF/EVEDA において、欧州とともに、中性子源の概念設計等を行っている。
我が国においては、量子科学技術研究開発機構を中心に、これまでの IFMIF/EVEDA の成果を踏まえて、核融合中性子源 A-FNS の検討が進められてい るが、欧州実施機関(F4E)においても、設置場所をスペイン又はクロアチアと することを前提とした欧州核融合中性子源(IFMIF/DONES)の実現性の検討を 始めている。原型炉開発を着実かつ効率的に進める観点から、六ヶ所村におい て進めてきた IFMIF/EVEDA の経験や成果を活かして、国際協力を得ながら、AFNS の建設を具体化することが望ましい。
第一回中間チェックアンドレビューでは、A-FNS の建設推進判断を行うこと とし、それに向けて設計 R&D を実施する。建設推進判断後は、IFMIF/EVEDA と して中性子源用原型加速器の技術実証を実施するとともに、A-FNS の工学設計 を進める。第二回中間チェックアンドレビューでは、その成果を基に A-FNS の 建設移行判断を行い、建設設計と建設に速やかに進むことが肝要である。2030 年頃からの核融合中性子照射試験を開始し、原型炉の建設判断に必要な材料等 の初期照射データを取得する。

④ 原型炉研究開発
(1) 原型炉設計活動(国際協力も利用して実施)
原型炉設計にあたっては、オールジャパン体制として、原型炉設計合同特別 チームを整備して取り組んできた。また、欧州とともに、BA 活動の IFERC 事 業の一環で原型炉設計に必要な設計課題に取り組んでいる。 原型炉設計については、これまで通り、BA 活動での国際協力を利用して共 通の研究課題について効率化を行うが、トカマク方式による日本の原型炉の設 計については、日本独自の活動も並行して実施する。第一回中間チェックアン ドレビューでは、それまでの BA 活動等の成果を踏まえ概念設計とそれに必要 な要素技術開発の開始判断を行う。第二回中間チェックアンドレビューでは、 原型炉概念を設定し、工学設計・実規模技術開発の開始判断を行う。原型炉工 学設計・技術開発段階では、原型炉設計の進捗と第二回中間チェックアンドレ ビューでの判断を踏まえ、実機大超伝導コイル開発試験のための設備や、日本 の原型炉が採用する遠隔保守技術を開発する設備の建設判断を行う。また、JT60SA や ITER の実績を踏まえて、原型炉へ適用可能な加熱・電流駆動装置の開 発を実施する必要がある。

(2) 原型炉用シミュレーターの開発 核融合分野における計算機の利用は、これまで BA 活動等を通じて進められ ており、既存の実験装置での結果を物理的に解釈するためのシミュレーション 等で成果をあげている。
今後は、燃焼プラズマ等の実験的知見、最新の計算科学の知見などを取り入 れ、原型炉のより効率的な制御、運転領域の拡大などを目指し、原型炉用シミ ュレーターの開発を進める必要がある。そのためには、核融合専用の計算機資 源を計算機技術の発展にあわせて確保していくことが重要である。

(3) 安全性研究・トリチウム取扱技術 核融合炉は、燃料供給を止めれば核融合反応も速やかに止まるといった原 理的な安全性を有する一方で、その設計・開発には、燃料となるトリチウムの 取扱いなど安全技術が求められる。 安全性の研究は、核融合固有の安全性も活かすように実施していく必要があ る。データを蓄積していく意味から、検証と妥当性確認(V&V)実験等を早期 の段階から着実に推進して原型炉の安全性の検討を実施しておくことが重要 である。
また、トリチウムの大量取扱技術は、ITER がフランスに建設されることも 踏まえ、ITER の知見を活かしつつ、国内技術として蓄積していく必要がある。 第二回中間チェックアンドレビューでは、燃料システムの開発に必要なトリチ ウム大量取扱技術開発のための設備の建設判断を行う。

(4) 炉工学と関連基盤研究 設計基準を含む材料開発、計測制御装置開発及びダイバータ開発等について は、原型炉への適用判断にあたって重要度の高い事項を優先して炉工学研究を 推進する。
第一回中間チェックアンドレビューでは、高密度ダイバータ試験設備の設置 判断を行う。また、JT-60SA や大型ヘリカル装置、高密度ダイバータ試験設備 によるダイバータ関連データを基に行う第二回中間チェックアンドレビュー の判断に沿い、A-FNS の建設と同じ場所に、ダイバータ熱負荷試験のための設 備の併設を判断する。

(1)~(4)の成果を踏まえ、社会受容性と実用化段階における経済性の 見通しを得て、技術開発と整合をとった原型炉工学設計を完了させる必要があ る。
一方、大学等を中心として取り組む必要がある先進的、基礎的研究課題も存 在する。従って、特に早期に炉工学研究の基盤を形成する必要のある事項を優 先して、炉工学基盤研究を推進する。

⑤ ブランケット技術
ブランケットは、炉内の核融合反応で生じた中性子を受け止めて、熱として 発電エネルギーに変換するとともに、核融合反応の燃料となるトリチウムを 自己補給するための重要な機器である。 ITER 用テストブランケットモジュール(TBM)を ITER に装荷するために必 要な安全実証試験及び工学試験等(冷却系・トリチウム回収系・遠隔保守等の 開発実証を含む)を通して TBM システムの開発を実施する。TBM1号機を ITER に取り付け健全性を実証するとともに、DT 燃焼着火後には TBM2号機でトリ チウム増殖材や中性子増倍材といった機能材の性能検証を行い、トリチウム回 収を実証する。工学試験等を含む TBM システム開発での成果を取り込みなが ら原型炉用ブランケットの工学設計開発へ展開する。

⑥ 大型ヘリカル研究
核融合科学研究所においては、大型ヘリカル装置による重水素実験の実施 等により高性能プラズマの実現、定常高温高密度プラズマの閉じ込め研究を 行っている。ヘリカル方式は、ITER、JT-60SA に採用されているトカマク方式 に次ぐ性能を実証しており、重水素実験においては、昨年(2017 年)7 月に、 核融合を実現するために最も重要なプラズマ条件の一つである、イオン温度 1 億 2,000 万度を達成するなど、顕著な成果をあげている。学術研究から開発研 究への将来展開も想定しつつ、今後も様々な学術的視点から、大型のヘリカル 研究を推進する。
これらを通じて、核融合炉に共通する技術課題を解決することによって、原 型炉研究開発に貢献する。

⑦ 高出力レーザー研究
大阪大学レーザー科学研究所が進めているレーザー方式の核融合研究は、 トカマク方式、ヘリカル方式とともに、我が国の核融合研究の重点化計画に位 置付けられている。現在、激光 XII 号、LFEX といった大型レーザー実験装置 を駆使しながら、データや知見を蓄積し、学術的に成熟度の高い研究推進方策 の検討を進めている。高強度レーザー技術は、物質に高いエネルギー密度の極 限状態を作り出すものであり、その環境を用いた「高エネルギー密度科学」は、 核融合分野以外にも、新材料の創成や惑星内部の研究など、幅広い応用が期待 される。
今後、高出力レーザー研究については、核融合以外の分野への学術的拡がり を視野に入れて、学術研究から開発研究への将来展開も想定しつつ、上記原型 炉開発への寄与も含めて推進する。

⑧ 社会連携活動
核融合エネルギーが国民に選択され得るエネルギー源となるためには、社会 との情報の共有と不断の対話が必須である。戦略的なアウトリーチ活動を実施 するため、アウトリーチヘッドクォータを設置し、日本全体を統括して社会連 携活動を実施し、国民的理解を醸成することが必要である。

⑨ 第4段階への移行
上記の着実な実施を経て、2030 年代のチェックアンドレビューにおいては、 原型炉建設段階である「核融合研究開発第4段階」への移行を判断する。別紙 の原型炉研究開発ロードマップには、その時点で達成すべき目標の例を示す。 なお、社会連携活動の充実によって、核融合炉実用化に向けた国民的な理解が 形成されていることが、第4段階への移行に大変重要な判断条件であること を追記しておく。

3.原型炉研究開発体制の強化のための大学等の連携強化

アクションプランの実現にあたっては、炉工学の基礎研究等において、大学 等の貢献が不可欠であることは言うまでもない。また、本年 3 月 28 日に核融 合科学技術委員会が取りまとめた「核融合エネルギー開発の推進に向けた人材 の育成・確保について」において、改めて、原型炉研究開発に必要な人材の確 保にあたっての、大学等の重要性を示したところである。

自主・自律を前提とした大学等の優れた取組みを支援するためには、これま での量子科学技術研究開発機構を中心とした体制に加えて、大学等を対象とし た原型炉に向けた共同研究をとりまとめる新たな体制を整備することが必要 である。

大学等を対象とした新たな共同研究のとりまとめ体制の整備にあたっては、 その中核を担う機関、つまり中核機関を設けることが望ましい。中核機関の要 件としては、核融合に関して、①大学等が自主・自律のもとに取り組む共同研 究をとりまとめた実績や、②研究を通じた人材育成にも取り組んできた実績が 十分にあり、③世界最先端の大型核融合装置の設計、建設、運用まで取り組む ことのできる能力を有し、その能力を原型炉設計等にも生かすことのできる機 関であること、があげられる。

上記要件を鑑みると、中核機関としては、核融合科学研究所が最適であり、 今後さらに、核融合科学研究所を中心とした体制の検討を深めていく必要があ る。

 

また、原型炉概念の構築を目指して、産学官が結集して設置した「原型炉設 計合同特別チーム」が、大学等との連携を含めたオールジャパン体制構築の鍵 となる。今後、「原型炉設計合同特別チーム」の枠組み強化についても検討を 行い、年末までに基本的な考え方をまとめる。

参考資料

核融合エネルギー開発の推進に向けた人材の育成・確保について(案)
2003核燃料サイクルの技術
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