電子温度1億5,000万度、イオン温度8,000万度のプラズマを実現

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電子の熱の流れを堰き止める障壁の形成

2020-05-07 核融合科学研究所

大型ヘリカル装置(LHD)では、核融合発電の実現を目指して、磁場で高温のプラズマを閉じ込める研究を行っています。2017年からは、プラズマの性能を高めるために、通常の水素(軽水素)の2倍の質量を持つ重水素を用いてプラズマを生成する重水素プラズマ実験(以下、「重水素実験」)を行っています。2018年度までの実験によって、重水素プラズマは軽水素プラズマに比べて性能が向上することを実証してきました。今回は、2019年度の重水素実験で得られた代表的な成果を紹介します。

核融合発電を実現するためには、1億2,000万度以上という高温のプラズマを生成する必要があります。プラズマはイオンと電子で構成されていますが、イオンと電子にはそれぞれ固有の温度があります。LHDでは重水素実験によって、軽水素実験では不可能だった、イオンの温度を1億2,000万度まで高めることに成功しています。しかし、イオン温度1億2,000万度の時の電子温度の最高値は6,400万度と低い値にとどまっていました。将来の核融合炉のプラズマは、イオン温度と電子温度が共に1億2,000万度以上になることが予測されることから、両温度が共に十分に高いプラズマを実現して研究を行うことが求められています。このため2019年度の重水素実験では、電子温度の上昇を目指しました。
プラズマの電子温度を上昇させるためには、マイクロ波と呼ばれる電波をプラズマに入射して電子を加熱します。より高い電子温度を得るためには、加熱電力(パワー)が高いほど好都合ですが、今回の実験では、マイクロ波の発振管を調整してパワーを約2倍に増やすとともに、マイクロ波の入射角度や入射タイミングを調整して、プラズマ中心部の電子を集中的に加熱するようにしました。その結果、プラズマ中心部の電子温度を、核融合条件を大きく超える1億5,000万度まで上昇させることに成功しました。また、この時のイオン温度も8,000万度という高温を維持していました。これにより、これまでLHDで生成したプラズマの温度領域が大きく拡がりました。
さらに、1億5,000万度の電子温度は、プラズマ中の熱の流れを堰(せ)き止める「障壁」が形成されたことによって実現したことが分かりました。ここで、この障壁について、詳しくご説明します。熱は温度の高い方から低い方へ向かって流れるという性質があります。プラズマの温度は中心部で高く外に向かうほど低くなっているため、プラズマ中心部の温度を高く維持するには、中心部から外に向かって流れる熱量を可能な限り少なくする必要があります。そこで、中心部を取り囲むような障壁を作って、熱の流れを堰き止めることが有効だとされており、この障壁を「輸送障壁」と呼びます。プラズマ中に輸送障壁を意図的に作ることは極めて困難ですが、しばしば自発的に形成されることが、これまでの世界のプラズマ実験装置で示されています。LHDでも過去の軽水素実験において、電子の熱を堰き止める輸送障壁の形成が観測されていました。しかしその時の温度は、電子温度、イオン温度共に今回より低い値でした。今回の重水素実験によって、高いイオン温度を維持した状態で、電子の輸送障壁の形成が観測されました。また、重水素プラズマと軽水素プラズマの詳細な比較実験を行いました。障壁の形成には電子の加熱パワーがある程度必要ですが、重水素プラズマの方が、軽水素プラズマより低い加熱パワーで輸送障壁が形成されることが分かりました。これにより、重水素プラズマの方が、輸送障壁が形成されやすいことが明らかになりました。
このように2019年度の重水素実験によって、高いイオン温度を維持したまま電子温度を大幅に上昇させることができました。今後は加熱装置の増強と最適化、ならびに、重水素を用いることによるプラズマ性能向上のメカニズムの解明を進め、LHDの最終目標であるイオン温度、電子温度が共に1億2,000万度以上となるプラズマの生成を目指して研究を加速させていく予定です。

以上

図1

図1 2019年度の実験で得られた重水素プラズマの電子温度及びイオン温度の分布。プラズマ中心(プラズマ半径が0の位置)付近で、電子温度が1億5,000万度以上に達しています。また、イオン温度も8,000万度という高温を維持しています。黄色の部分が電子の熱の流れを堰き止める輸送障壁で、これが形成されたことにより、プラズマ中心部で高い電子温度が達成できました。

図2

図2 LHDで生成されたプラズマのイオン温度・電子温度領域。オレンジ色で塗った部分が2019年度の実験で拡がった領域です。高いイオン温度を維持したまま、電子温度が上昇しました(オレンジ色矢印)。それに対し、水色で塗った部分が示す軽水素実験では、電子温度が上昇するに従って、イオン温度が急激に低下しています(水色矢印)。これらの結果は、2018年度までの実験結果と同様に重水素プラズマの方が、軽水素プラズマより性能が高いことを示しています。

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