プラズマの電子を加熱する強力な電磁波をつくる

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2019-02-13  自然科学研究機構 核融合科学研究所

核融合発電を実現するには、プラズマを加熱して1億度以上という超高温にする必要があります。プラズマを加熱する手法の一つに、プラズマに強力な電磁波を入射するという加熱法があります。プラズマはイオンと電子がばらばらになった状態のことですが、磁場で閉じ込められたプラズマ中の電子は、磁力線に巻き付くように旋回運動をしています。この旋回の周波数と同じ周波数の電磁波をプラズマに入射すると、電磁波のエネルギーが電子に与えられて、電子の旋回運動のエネルギーが増加し、電子が加熱されるのです。また、電子の旋回の周波数の2倍や3倍の周波数の電磁波でも、電子を加熱することができます。さらに、加熱された電子がプラズマ中のイオンと衝突することで、イオンの温度も上がり、プラズマ全体が加熱されます。大型ヘリカル装置(LHD)では、このような加熱手法を用いたプラズマ実験を行っており、入射する電磁波は、家庭用電子レンジを大掛かりにしたような「ジャイロトロン」という装置を使って発生させています。今回は、ジャイロトロンの仕組みと、加熱手法の高度化を目指した新たなジャイロトロンの設計開発研究をご紹介します。
ジャイロトロンは、磁場中での電子の旋回運動のエネルギーを使って電磁波を発生させます。つまり、上で述べた電磁波による電子加熱の逆過程を利用します。LHDのジャイロトロンは、高さ約3メートル、重さ約800キログラムという巨大な真空管で、下部には電子ビームを発生させる電子銃が、その先には空胴共振器(キャビティ)と呼ばれる部品が取り付けられており、強い磁場を発生する超伝導マグネットの中に挿入されています。強力な電磁波を発生させるためには、まず、電子銃に高い電圧をかけて大きなパワーを持った電子ビームを引き出します。引き出された電子は、超伝導マグネットによる磁場の影響を受けて旋回運動をしながら、空胴共振器に入ります。空胴共振器は、音叉の下についている共鳴箱のような役割をするもので、ある特定の周波数の電磁波と共鳴し、その電磁波を大きくします。ここで、電子の旋回運動のエネルギーの一部が、電磁波のエネルギーに変換され、電磁波が発生します。このようにして発生させた電磁波を、ジャイロトロン内の鏡で反射させて集め、最終的に出力窓から外部に取り出すのです。
ジャイロトロンでは、通常、1台で発生できる強力な電磁波の周波数は1つです。LHDでは、プラズマ中の電子が1秒間に約770億回の旋回運動をしているため、それと同じ周波数の77ギガヘルツ(ギガは10億)の電磁波を発生させるジャイロトロン3台と、その2倍の周波数の154ギガヘルツの電磁波を発生させるジャイロトロン2台を設置しており、これらを用いて、特にプラズマ中の電子を加熱しています。
ジャイロトロンを用いたプラズマ加熱手法を更に高度化するため、最近では、1台のジャイロトロンから、特に強力な電磁波を複数の周波数から選んで発生させる研究が注目されています。そこで、核融合科学研究所は、筑波大学との共同研究により、154ギガヘルツと116ギガヘルツの周波数を、超伝導マグネットの磁場の強さを変えることで、選択して発振できるジャイロトロンの設計開発研究を進めています。磁場の強さを変えると電子の旋回運動の周波数が変わり、電子が放射する電磁波の周波数が変わります。しかし、従来のジャイロトロンは、1つの周波数の発生に最適な設計がなされているため、それだけでは、2つの周波数で強力な電磁波を得ることができませんでした。そこで、2つの周波数で強力な電磁波を発生させ、これをジャイロトロンから取り出せるようにするため、ジャイロトロンの空胴共振器の直径や長さ、電子銃の形状や位置、鏡の表面の形状、出力窓の材料(人工ダイヤモンド)の厚さ等、様々な値と組合せを検討しました。その結果、2つの周波数に共通して用いることのできる最適な値と組合せを見つけることができました。現在、これらを基にして、新たなジャイロトロンの設計・製作を進めています。
154ギガヘルツと116ギガヘルツの電磁波を発生させることができる新たなジャイロトロンが完成すれば、77ギガヘルツのジャイロトロンと合わせて、3つの周波数の電磁波を組み合わせたプラズマ加熱が可能になります。これにより、個々の周波数の電磁波によるプラズマの加熱が相互に強め合うという、相乗効果が期待できます。プラズマ加熱手法の高度化を目指して、新たなジャイロトロンの設計開発研究を更に推進していきます。

以上

プラズマの電子を加熱する強力な電磁波をつくる

ジャイロトロンの構造(左図)と写真(右図)

2000原子力放射線一般2003核燃料サイクルの技術
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