プラズマ中の磁気島はどんな時にできるのか? ~ 補助コイルを用いた摂動磁場印加実験~

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2020-04-01 核融合科学研究所

 核融合発電を実現するためには1億度以上のプラズマを閉じ込めて、その状態を長時間保つ必要があります。大型ヘリカル装置(LHD)を始めとする磁場閉じ込めプラズマ実験装置では、ドーナツの形をした磁場のカゴでプラズマを閉じ込める研究を行っていますが、この磁場のカゴに「磁気島」と呼ばれる構造ができることがあります。磁気島は多くの場合、プラズマ性能の低下をもたらすため、磁気島が、なぜ、どんな時に現れるのかを明らかにすることは重要な課題です。今回は、LHDで行っている磁気島ができる条件を探る研究を紹介します。

 はじめに、「磁気島」についてご説明いたします。LHDでは超伝導コイルを使ってプラズマを閉じ込めるための磁場のカゴを生成しています。この磁場のカゴの断面は、理想的には木の年輪のような入れ子状の形状をしています。ところがこの断面に、木目に現れる節のような構造が現れることがあります。この構造は川の中の島のように見えることから「磁気島」と呼ばれています。磁気島が形成されると、プラズマの閉じ込め性能が悪くなることが観測されています。

 磁気島の形成の原因として注目されているのが「摂動磁場」です。摂動とは、LHDの超伝導コイルが作る強力な磁場に比べて小さく副次的という意味です。摂動磁場によって、プラズマを閉じ込める磁場のカゴの一部が歪み、磁気島が形成されると考えられています。LHDでは、超伝導コイルに加えてプラズマの外部に補助コイルを設置しており、この補助コイルを使って意図的に摂動磁場を発生させ、磁気島の形成メカニズムや磁気島の性質などを調べる研究を行っています。これまでの研究によって、磁気島の形成には「プラズマの回転」が影響を及ぼしていることが明らかになっています。プラズマの回転が速くなると磁気島が消えたり、逆にその回転が遅くなると磁気島が現れたりすることがあるのです。

 磁気島ができる条件を詳しく調べるために、補助コイルによる摂動磁場を加えて、それを徐々に強めていく実験を行いました。摂動磁場を強めていくと磁気島が現れ始めますが、その時の強さをここでは摂動磁場の閾値(しきい値)と呼びます。この摂動磁場の閾値が大きいほど、磁気島が形成されにくいことになります。摂動磁場の閾値とプラズマの回転速度との関係を解析したところ、プラズマの回転が速くなるほど、摂動磁場の閾値が大きくなるという結果が得られました。また、プラズマの状態や磁場の強さ、磁場容器の形状などを変えた、幾つかの異なる条件の下で同様の実験を行いました。いずれの場合も、プラズマの回転が速くなると摂動磁場の閾値は大きくなりますが、その増加の仕方は、実験条件によって異なることが分かりました。さらに、重水素プラズマ実験と軽水素プラズマ実験の比較も行いました。その結果、重水素プラズマでは、軽水素プラズマに比べて、小さい摂動磁場でも磁気島が形成されやすいことが分かりました。

 今回紹介した実験では補助コイルを用いて摂動磁場を意図的に発生させましたが、摂動磁場は、磁場のカゴを作るコイルのわずかなズレや周囲の機器に含まれている磁性体の影響でも発生します。このような意図しない摂動磁場を抑えるためには、コイルの製作精度の向上や摂動磁場の抑制手法の開発などが必要です。本研究によって重水素プラズマは磁気島が形成されやすいことが分かりましたが、これにより、主として重水素が用いられる将来の核融合炉においては、意図しない摂動磁場を抑えることがより重要であることが明確になりました。

 今後は、磁場のカゴの形状やプラズマの種類、プラズマの状態などによる磁気島の発生条件を更に詳しく明らかにしていくことで、核融合研究の進展に貢献していきます。

以上

図 磁気島とプラズマの回転の模式図。ドーナツの形をしたプラズマの断面を示しています。プラズマの外部に設置した補助コイルを使って摂動磁場を発生させて、磁気島ができる条件を調べました。青線で示すようなプラズマの回転が速くなると、磁気島は形成されにくくなります。

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