世界初 雷雲のガンマ線イメージングに成功~雷雲中の電子加速や放射の解明に期待~

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2022-09-30 早稲田大学

発表のポイント
  • 雷にともない、雲から強いガンマ線が放出される現象に着目
  • 2021年冬季の日本海山岳部でコンプトンカメラを用いた観測を開始
  • 世界で初めて雷雲を直接ガンマ線でイメージングすることに成功

早稲田大学理工学術院の片岡 淳(かたおか じゅん)教授らの研究チームは、理化学研究所開拓研究本部の榎戸 輝揚(えのと てるあき)理研白眉研究チームリーダー、大阪大学大学院工学研究科の和田 有希(わだ ゆうき)助教らと共同で、放射線の一種であるガンマ線を可視化することができる高感度のコンプトンカメラを開発し、世界で初めて雷雲から生ずるガンマ線のイメージングに成功しました。雷はもっとも身近な自然現象の一つですが、雲の中で「どこで」「どのように」高いエネルギーをもつガンマ線が生成・放出されるのかは未だ理解されていません。今回、研究チームが初めてイメージングに成功したことで、雷雲の中で起こる電子の加速や放射の理解が大幅に進むと期待されます。

本研究成果は、2022年9月29日(木)午前9時(米国東部標準時・夏時間)に『Geophysical Research Letters』のオンライン版で公開されました。

論文名:Compton camera imaging of a gamma-ray glow from a thunderstorm
DOI:10.1029/2022GL100139

(1)これまでの研究で分かっていたこと

図1(a) 冬季日本海側で雷が発生するメカニズム (b)新潟県十日町市松代の観測サイト。日本海から内陸に約25km、標高約410メートルに位置する。


雷は最も身近な自然現象の一つで、強い上昇気流がある積乱雲で生じます。太平洋側では雷は夏の風物詩ですが、日本海側では11月から2月の冬季に雷雲が発生し、しばしば強い降雪を伴います。これはシベリア寒気団からの冷たい季節風が、暖かい日本海の潮流(対馬海流)の上を吹き抜ける際に積乱雲を成長させ、日本列島にぶつかるためです(図1a)。夏場に比べて冬季の雷は雲底が低く、地上から1 km を下回ることもあり、雷の研究をするには理想的な環境となります。現在、理化学研究所のグループを中心に、金沢市内に50か所を超える多地点マッピング拠点がシチズンサイエンス※1によって設置され、冬季は日夜観測を行っています。

図2 雷雲中でガンマ線が発生するメカニズムと稲妻(雷放電)。雲中の強い電場で加速された電子からガンマ線が発生する。


雷といえば、まず稲妻とよばれる閃光を思い浮かべます。これは一種の放電現象で、すでに18世紀にはフランクリンが凧を使った実験で、雷で生ずる電気(電荷)をとらえることに成功しています。雷雲の中では様々な大きさを持つ氷の粒が互いにぶつかりあうことで電子とイオンが分離し、非常に強い電場が生じます。この電場が大気を絶縁破壊し、強力な光や音を放つのが雷放電、つまり稲妻です。一方で、雲の中の強い電場では電子が加速され、人間の目で見える光(可視光)よりもエネルギーの高い光であるX線やガンマ線を放出することが最近になってわかってきました(図2)。実際、雷雲から発生するガンマ線は1980年代から観測され、世界中で観測報告が増えつつあります。たとえば金沢市内では、雲の動きに合わせ、地上でガンマ線を出す雲が時々刻々と動いていく様子が確かめられています。

雷から生ずるガンマ線には継続時間が数百ミリ秒と短く、稲妻放電と完全に同期する「ガンマ線フラッシュ (Terrestrial Gamma-ray Flashes: TGF)」と、稲妻とは同期せず、継続時間が数分間にも及ぶ「雷雲ガンマ線(英語では、ガンマ線グロー Gamma-ray Glow と呼ばれる)」が知られています。雷雲ガンマ線は雲の中で雪崩的に増えた相対論的な電子が起こす特殊な放射(制動放射)と考えられていますが、雷雲中の「どこで」「どのように」電子が加速されているのかについては、いまだ十分に理解されていません。これまでの観測装置では、ガンマ線自体を検出することはできても、ガンマ線が到来した方向、すなわち雲の中の位置まで特定することができないためです。目で見えないガンマ線をイメージングする、新たな装置の導入が不可欠です。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

図3 シンチレータでとらえた雷雲ガンマ線のイベント。左が①、右が②のイベント。(a)はガンマ線の強度変化、(b) はそれぞれのスペクトルを示している。


2022年1月14日に、雷雲に付随した2回のガンマ線イベントを検出しました。1回目(以下①のイベント)はAM 06:13:00頃(以下、日本時間)から約4分間、2回目(以下②のイベント)はAM 11:51:00頃から約4分間にわたり、ガンマ線強度の増大が見られました。まず、コンプトンカメラと併設したシンプルな放射線の検出器(大きさ12×5×3cm3 のガンマ線検出用シンチレータ)でとらえたガンマ線の強度変動とスペクトルを図3(a)(b)に示します。両イベントともに典型的な雷雲ガンマ線であることが確認されました。

続いてコンプトンカメラでとらえた強度変化を図4に示します。上記のシンチレータと同様な強度変化を示していることが分かります。図5はレーダーでとらえた雨雲の様子で、同図中の矢印と扇型(点線)は、コンプトンカメラの視野を表しています。どちらも同じ程度の強度ですが、雷雲との関係は大きく異なっており、①では雷雲の中心から前面にカメラの視野があり、②では雷雲は視野の後方に位置します。①のイベントについて、バースト開始(AM 06:13:20)から終了 (AM 06:17:20)まで、50秒ごとにガンマ線の画像を描出したのが 図6となります。ガンマ線強度がピークとなる AM 06:15:00 付近 (図5の黄色ハッチ)の画像(中心のパネル)では、2つの赤い箇所(領域1、 領域2)が現れるのが分かります。可視画像を比べると、どちらも空(雷雲中)の領域で、ガンマ線の発生箇所を明確に示唆していると考えられます。さらに詳細に見ると、領域1は AM 06:14:10 (左から2番目のパネル)ですでに現れており、雲中の輝点が時間とともに領域2に動いているようにも見えます。雲は東南東の方向に秒速約 15m で流れており、これはガンマ線の発生領域が雷雲の流れに応じて動いていく様子と概ね一致します。コンプトンカメラは視野が広く、このようなダイナミクスに迫る観測も可能です。一方で、②のイベントでは画像の集積は確認できませんでした。これは、雷雲の位置がカメラ後方で視野から外れていることが原因と考えられます。

図4 コンプトンカメラでとらえた①、②のイベントのガンマ線の強度変化。どちらも継続時間4分程度のバースト状の増大が検出されている。

図5 ①、②のイベント初期におけるレーダーマップ。左は 1/14 AM06:13:00、右は AM 11:51:00時点の雨雲の分布。矢印はコンプトンカメラの視野中心の方向。扇形はコンプトンカメラで一度に観測できる視野。

図6 コンプトンカメラでとらえた、ガンマ線画像の時間変化。①のイベントのピーク付近で、明るいスポット(area-1, area-2)が現れ、また消えていく様子が分かる。


最後に、今回得られたガンマ線画像の有意性(信頼性)について、研究チームで綿密な検証を行いました。コンプトンカメラの観測は天候に依らずほぼ毎日行っており、雷雨の発生していない日でも、膨大な画像データが蓄えられています。ここから860枚の画像データを無作為に抽出し、同様な解析を行うことで得られた結果の信頼性を評価しました。まず、領域1、 2の統計的優位性は、それぞれ4.0σ、5.9σ (σは標準偏差)となります。つまり、領域1、2 と同程度の集積が、偶然(雷雲と関係なく)観測される確率はどちらも 0.01% 未満となります。さらに、描出したガンマ線画像と同じイベント数を用いた再現実験でも、観測時と同様な画像が得られ、今回の観測結果を強くサポートすることとなりました。

(3)そのために新しく開発した手法

本研究では新潟県十日町市松代にある生涯教育センター(北緯37°9’42.99、東経138°37’44.47)に検出器を設置し、ガンマ線に特化した雷や雷雲の観測を行いました。観測サイトは日本海沿岸から約25 km内陸で標高約410 m に位置します(図1b)。沿岸から季節風とともに流れてきた雷雲が山と衝突し、また雲底に近いため、未知の現象が発見される可能性があります。研究チームでは2019年から同市内で検出器の一種であるシンチレータを用いた予備測定を開始し、2021年冬季から独自に開発したガンマ線可視化装置「コンプトンカメラ」を設置し、雷雲の直接イメージングに挑みました。

ガンマ線は光の仲間ですが、目で見ることはできません。また粒子としての性質が強いため、レンズや反射鏡を使ってイメージングすることはできません。この粒子性を逆に利用し、全く異なる方法でイメージングを可能とするのが、コンプトンカメラです。ガンマ線が検出器に入射すると、エネルギーの一部を電子に渡し、自らは別な方向へ散乱される「コンプトン散乱」と呼ばれる反応を起こします(図7)。サッカーの一場面に例えると、キッカーが蹴ったボールをキーパーが弾いてゴールネットを揺らす場面に良く似ています。キーパーがはじいた位置とエネルギー、ネットを揺らす位置とエネルギーの両方を知ることができれば、ボールの飛んできた方向が概ね分かるはずです。これと同様に、コンプトンカメラでは「散乱体」(キーパーに相当)と「吸収体」(ゴールネットに相当)で電子と散乱ガンマ線、両方の運動学を同時かつ正確に解くことで、入射ガンマ線の到来方向を決定します。今回、研究チームでは 縦横の大きさ 10×10 cm2、 散乱体3 mm厚、吸収体5 mm厚のコンプトンカメラを観測サイトに設置し、ガンマ線強度の変動、スペクトル測定と併せて「イメージング」に初めて挑戦しました。コンプトンカメラでは視野をさえぎるものが一切無く、広い視野(視野中心から±70°)を同時に俯瞰することができます。いつ、どこで雷雲からガンマ線が発生しても、感度良くとらえることが可能です。

図7 左)サッカーの場面に例えた、コンプトンカメラの撮像原理  右)実際に雷雲のイメージングに用いたコンプトンカメラの構成。「散乱体」「吸収体」での反応位置とエネルギーを計測する。

(4)研究の波及効果や社会的影響

雷は最も身近な自然現象でありながら、科学的には未だ多くの謎が残されています。さらに、ゲリラ豪雨など異常気象や落雷に伴う停電を含め、常に社会的な関心を集めるホットな現象といえます。本研究チームの榎戸理研白眉研究チームリーダーや和田助教は日本海沿岸で雷雲や雷の放射線測定を進めてきました。これらはクラウド・ファンディングによる資金集めから始まり、その後、金沢や新潟を中心にした観測網の拡大、さらに雷放電の際の強烈なガンマ線フラッシュで発生した光核反応の発見と反粒子(陽電子)の検出は、Nature誌にも掲載され大きな影響をもつ成果となりました (Enoto et al. 2017 ※2)。最近では、理化学研究所を中心に一般市民を巻き込んだシチズンサイエンスの展開「雷雲プロジェクト:ふしぎな雷雲ガンモを探せ!」も開始され、現在金沢市内に50か所を超える多地点マッピング拠点を展開しています。本研究も、この流れを組む成果であり、雷雲の中での電子加速やガンマ線の発生箇所、発生機構を明らかにすることは、科学者の関心を満たすと同時に、社会にその成果を還元する早道と考えます。

さらに、雷と類似した現象は大気に限らず、より遠くの宇宙でもたくさん発生しています。たとえばガンマ線バーストという現象は、放出されるガンマ線のスペクトルや継続時間も含め、雷現象と最も良く似ています。ガンマ線バーストは、宇宙初期における大質量星が最後に爆発する際に生ずる現象と考えられますが、両者における高エネルギー電子の加速・生成機構には、類似点があることが想定されます。同様に、雷雲中での強い電場による電子加速は、中性子星周辺での電場加速と類似した現象で、雷を調べることは、すなわち宇宙物理の最先端を知る近道です。宇宙の観測には人工衛星を打ち上げる必要があり、費用も時間もかかるため、いささかハードルが高い実験となりますが、雷の観測はわが国でも理想的な環境を提供し、宇宙物理と大気科学を繋ぐ理想的な実験室となることが期待されます。

(5)今後の課題

冬季の雷は雲底が低く、観測に理想的である反面、夏の雷よりも発生回数が少ない特徴があります。
平均的に見ると、一つの観測拠点では冬季全体で1-2回の雷事象しか期待できず、より多くのイベントを検出するには設置の箇所自体を増やすことが有効です。研究チームではコンプトンカメラを毎年3個ずつ程度製作し、金沢市内を含むさらに多くの拠点展開を目指します。さらに、今回観測に用いたコンプトンカメラは、150キロ電子ボルト以下のガンマ線に感度がありません。より低エネルギーのガンマ線を効率良くとらえるため、新発想による広帯域ハイブリッド・コンプトンカメラ(Omata et al. 2020※3)の導入も考えています。一般に、ガンマ線の到来数は低エネルギーほどイベント数が多く、より多数のイベント検出が容易になることが見込まれます。

(6)研究者のコメント

本研究では、雷雲から生ずるガンマ線イメージングに成功しました。これを初めて可能にしたのが、広視野と高感度を併せ持つ、ガンマ線可視化装置(コンプトンカメラ)です。今回観測されたロングバーストは継続時間やスペクトルは典型的なイベントですが、観測された強度としては決して大きくなく、強いてランクをつければ「中の下」程度です。過去には日本海沿岸で遥かに大きなバーストが多数観測され (Wada et al. 2021※4)、もしこれらをコンプトンカメラでとらえることができれば、雷雲の構造やダイナミクスの詳細にまで、迫ることができると期待されます。さらに将来的には、雷雲ガンマ線だけでなく雷放電に同期したガンマ線フラッシュのイメージングにも挑戦したいところです。ガンマ線フラッシュは瞬間的な強度は非常に大きいものの、継続時間が数百ミリ秒と短く、これをイメージングするのは困難を極めます。研究チームでは、来季の観測に向け、新規に3台のコンプトンカメラを鋭意開発中です。これらを新潟県山間部だけでなく金沢市内にも設置し、より多くのバースト検出に挑みます。観測例を増やすことで、雷雲中のガンマ線発生機構やビームパターンなど、「雷の物理」と直結するより詳細な情報が得られると見込まれます。

(7)用語解説

※1 シチズンサイエンス
「市民科学」とも言われ、科学を専門とする研究者だけでなく、広く一般市民が参加して進められる科学を言う。誰もが最先端の研究や調査に参加できる貴重な場であり、その成果が社会や科学分野にも還元され相乗効果も期待できるため、近年特に注目を集めている。

※2 Enoto et al. 2017, “Photonuclear reactions triggered by lightening discharge”, Nature, 551 481
雷が反物質の雲をつくる -雷の原子核反応を陽電子と中性子で解明-
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2017-11-24

※3 Omata et al. 2020, “Performance demonstration of a hybrid Compton camera with an active pinhole for wide-band X-ray and gamma-ray imaging”, Scientific Reports,10, 14064
「X線ガンマ線の同時可視化を可能に」
https://www.waseda.jp/top/news/69935

※4 Wada et al. 2021, “Meteorological aspects of gamma-ray glows in winter thunderstorms”,
Geophysical Research Letters, 48, e2020GL091910

(8)論文情報

雑誌名:Geophysical Research Letters
論文名:Compton camera imaging of a gamma-ray glow from a thunderstorm
執筆者名:Eri Kuriyama1、Miho Masubuchi1、Nanase Koshikawa1、Ryoji Iwashita1、Akihisa Omata1、Takeshi Kanda1、Jun Kataoka1、Miwa Tsurumi2、Gabriel Diniz2、Teruaki Enoto2、Yuuki Wada3
1.早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻
栗山 映里 (論文責任著者)、増渕 美穂、越川 七星、岩下 稜司、小俣 陽久、神田 健志、片岡 淳
2.理化学研究所開拓研究本部
鶴見 美和、Gabriel Diniz、榎戸 輝揚
3.大阪大学大学院工学研究科
和田 有希

掲載日時(米国東部標準時・夏時間):2022年9月29日(木)午前9時
掲載日時(日本時間):2022年9月29日(木)午後10時
DOI:10.1029/2022GL100139
掲載URL:https://doi.org/10.1029/2022GL100139

(9)研究助成

本研究は、戦略的創造推進事業 ERATO「片岡ラインX線ガンマ線イメージング」(R3~8年度;グラント番号 JPMJER2102)および科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)「超解像を用いた革新的ガンマ線イメージング技術の創成 」(R2~3年度;グラント番号20K20923)の支援を得て実施したものです。本研究のすべての観測は、新潟県十日町市松代支所の皆様、サポーターの皆様の暖かいご支援のもと行われています。とくに木戸一之 様、樋口彰 様、池田清人 様に深く感謝申し上げます。

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