環境中の放射性物質分布をパノラマで可視化~次世代型モニタリングカー「iRIS-V」~

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2020-03-27 日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 福島県内の屋外環境における放射性物質の分布把握は、除染作業の円滑な進捗や住民への迅速な情報提供を行う上で重要だが、従来のサーベイメータ等を用いた手法では、放射線の飛来方向がわからないので、広いエリアで放射線量率の高い場所(ホットスポット)を探査するには時間と労力を要した。
  • 原子力機構は、放射性物質の分布を短時間で測定し可視化するガンマ線可視化装置(コンプトンカメラ)を144台搭載し、レーザ光を用いた3次元距離測定センサと組み合わせた全方位型の3次元放射線測定システム車iRIS-Vを開発した。
  • このiRIS-Vを駆使することにより、東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所(1F)の構内や環境中の放射性物質の分布を短時間で把握することが可能となる。
  • あらゆる方向のホットスポットを容易に把握することが可能となり、除染や廃炉作業の円滑な推進に貢献できる。また、放射性物質の位置やその広がりを可視化するとともに、その場の空間線量率も測定できることから、次世代のモニタリングカーとして期待される。

図1 統合型放射線イメージングシステム車iRIS-V

多数の小型コンプトンカメラ (左上)を正十二面体の上側6面に配置することで、放射性物質の分布を全周囲にわたって可視化します。また車輌の上部に設置されたGPSセンサと3次元距離測定センサ(3D-LiDAR)を利用することにより、放射性物質分布の3次元的な表示が可能となります。

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉 敏雄、以下「原子力機構(JAEA)」という。)の福島研究開発部門廃炉国際共同研究センター(CLADS)〔福島県双葉郡富岡町〕では、車両に放射線源の位置推定が可能なコンプトンカメラ*1を複数個(144個)配置することで全方位型の3次元のコンプトンカメラシステムとし、レーザ光を用いた3次元距離測定センサ(3D-LiDAR*2)やGPSシステム等による空間・位置情報システムとを統合した放射線イメージングシステム車(以下、「iRIS-V*3」という。)を開発しました(図1)。

福島県内の帰還困難区域や1Fサイト内で作業する方々にとって、作業環境の線量率や環境中に飛散した放射性物質の分布を把握することは、被ばく線量の低減や除染計画の立案の観点からとても重要です。しかし、従来のサーベイメータを用いた放射性物質分布の測定では放射線の飛来方向が分からないため、放射性物質のある場所やその広がりを把握するためには、広範囲エリアの測定をする必要があり、測定に時間がかかりました。また、作業現場では除染や解体が日々進められていることから、周りの空間線量率や放射性物質の分布を迅速にモニタリングすることが求められています。

この車輌には、多数の小型軽量コンプトンカメラが車輌周囲に向けて配置されていることから、測定場所に移動してあらゆる方向の放射性物質の分布をパノラマ的に可視化することができます。また、車両が走行したルート上の空間線量率を地図上にマッピングできるようにしています。

今後、1Fサイト内や帰還困難区域等での全方位的な放射性物質の分布測定を行うにより、廃炉作業や除染作業の円滑な進捗に貢献できると考えています。

図2 iRIS-Vを用いた放射線源の可視化(パノラマ画像)

車両周囲(360度)の放射線画像をコンプトンカメラ で測定し、全周囲パノラマ画像と重ね合わせることにより、放射線源位置を特定します。図2は、iRIS-Vを取り囲むように駐車された複数台の車の中から、放射線源を搭載した車を特定することに成功しました。

【研究の背景と目的】

1F事故により飛散した放射性物質が、どこに・どのように分布しているかを把握することは、福島県内の帰還困難区域や1Fサイト内で除染作業等に従事している作業者の被ばく線量低減や除染計画の立案のために重要です。しかし、サーベイメータを用いて広いエリアの放射線源の位置を徒歩で測定するには時間がかかり、また作業者の被ばく線量が増加します。放射線モニタを搭載した従来のモニタリングカーでは、空間線量率の変動は把握できますが、放射線源がどこにあるのか、またその分布はどうなっているのかは容易には把握できませんでした。

原子力機構の廃炉国際共同研究センター(CLADS)は、これまで小型軽量のコンプトンカメラを開発し、ドローンにも搭載して放射性物質分布の3次元可視化を行ってきました。しかし、通常のコンプトンカメラでは装置の前方しか測定できません。そこで、小型コンプトンカメラを正十二面体(正五角形を12個組み合わせた立体図形)の上側6面に配置することにより、高感度であらゆる方向の放射性物質分布をパノラマ的に可視化できる全方位型コンプトンカメラを搭載した車両iRIS-Vを開発しました。

【研究成果】

iRIS-Vでは、全方位測定が可能となるとともに、放射線に対する感度が向上しました。従来のコンプトンカメラでは前方の測定だけで10分程度を要しましたが、全周囲の測定がわずか80秒で完了します(図2の下図)。駐車場で行った試験では、放射線源(密閉型の試験用小型放射線源*4)を置いた車を特定することに成功しました(図2)。放射線源がある場所を赤く示すカラーコンター(等高線)図*5で表示しています。

また、3次元距離測定センサで取得した周辺の3次元画像と、コンプトンカメラで取得した放射線イメージを統合することにより、放射線源の位置や広がりを3次元的に推定することができました(図3)。さらに、仮想現実(VR)モデルを用いることにより、放射線源のある場所を様々な方向、位置から3次元的に俯瞰することができます。加えて、これらの装置が全て車両に搭載されていることから、測定場所に移動して全てのデータが取得でき、その場で放射性物質の分布を可視化できます。

図3 放射線イメージと3次元距離測定センサで取得した画像の重ね合わせ

コンプトンカメラ の放射線イメージとレーザを用いた3次元距離測定センサの画像を重ね合わせることにより、放射線源を様々な視点から3次元的に表示することができます。図は、1台の車の上に試験用放射線源を置いたときの3次元画像です。

【成果の活用・今後の予定】

今後、1Fサイト内や帰還困難区域等での全方位的な放射性物質の分布測定を行うことにより、廃炉作業や除染作業の円滑な進捗に向けた利活用を進めます。1Fサイト内では、廃炉作業の進展に応じて放射線源の分布状況が変わっても、迅速にその変動を把握できることから作業者の安全や被ばく低減にも貢献できると考えています。帰還困難区域等では、除染計画の策定や除染のチェックに用いることにより、より安全で安心な作業に寄与できます。さらに、通常のモニタリングカーは空間線量率の連続測定を行っていますが、iRIS-Vは空間線量率に加えて、放射性物質の位置や変動を短時間で把握し可視化できることから次世代型のモニタリングカーとして整備していきます。

【用語解説】

1) コンプトンカメラ:

放射性物質を可視化するための装置としてガンマカメラがあります。ガンマカメラは大別して下記の「ピンホールカメラ」と「コンプトンカメラ」があります。

各々の特徴は以下のとおりです。

ピンホールカメラは簡便ですが、大型、高重量となり、狭い現場での測定には向いていません。コンプトンカメラは、入射したガンマ線(放射線の一種)が散乱体と吸収体の各々で相互作用した位置と、受け取ったエネルギーから、ガンマ線の飛来方向を特定します。解析的に放射線源を求める手法を採用しているため、高重量の遮蔽体が要らず小型・軽量化が実現可能で、技術的には高度なものです。

2) LiDARセンサ:

Light Detection and Rangingの略語であり、パルス状に発光するレーザ光を用いて対象物を走査し、反射した散乱光が戻ってくるまでの時間から距離を計測するセンサです。これを車両に搭載することにより、作業環境の3次元的な地形モデルを取得することが出来ます。

3) iRIS-V

統合型放射線イメージングシステム車(integrated Radiation Imaging System-Vehicle) の略

4) 密閉型の試験用小型放射線源:

放射性物質が漏れないように安全に設計された容器(プラスチック、金属、セラミック等)に密封された試験用の放射線源のこと。放射線測定器の動作試験等で、広く利用されています。

5) コンター(等高線)図:

図面上で、ある量の値が同じであるような点を結んだ線のこと。一定値ごとに等値線を描いた図面を等値線図(とうちせんず)とよび、属性・分布状況が感覚的にわかるようになっています。等値線図を見やすくするため、各等値線の間の帯ごとに段階的に色彩を施す場合もあります(カラーコンター図)。