汎用的な装置で地下の岩石の割れ目をずらすことに世界で初めて成功

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様々な地下利用に向けて大きく進展

2020-09-15 日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 高レベル放射性廃棄物の地層処分では、地殻変動などに伴って地下の割れ目がずれることにより割れ目の透水性が上昇し、地層の閉じ込め性能に影響を及ぼす可能性を検討する必要がある。この検討のためには実際に地下の割れ目を人工的にずらす試験が有効だが、既存の試験方法では、試験中の割れ目のずれを観測するために必要な専用装置の手配に多額の費用と多くの時間がかかることや、同専用装置で観測できる割れ目のずれ幅が限定的(数mm)であることなど、実用面で課題があった。
  • 日本原子力研究開発機構は新たな方法として、従来から別の試験で用いていた汎用試験装置を活用して割れ目をずらす実用的な試験方法を考案した。実証試験では、専用装置で観測できるよりも大きなずれ(数cm)を観測できた。
  • 同試験では、このような大きなずれが生じても、透水性に有意な変化が生じないことを確認できた。
  • 本方法は、地層処分だけでなく、CO2地中貯留に活用されるほか、鉱山開発、斜面防災など、様々な地下利用に係る分野の課題解決に貢献することが期待される。

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)核燃料・バックエンド研究開発部門 幌延深地層研究センターの石井英一研究主幹は、特別な専用装置なしで地下の割れ目をずらし、割れ目のずれによる透水性の変化を調べる試験に成功しました。

高レベル放射性廃棄物の地層処分やCO2地中貯留では、地殻変動などに伴って地下の割れ目がずれる1)ことにより割れ目の透水性が上昇し、地層の閉じ込め性能に影響を及ぼす可能性を検討する必要があります。この検討のためには実際に地下の割れ目を人工的にずらす試験が有効であり、そのためには試験中の割れ目のずれを観測する方法が必要となります。近年、海外で開発された方法では、まず、特別な専用装置をボーリング孔内の割れ目部に設置します。次に、注水により割れ目内の水圧を上昇させることで割れ目を人工的にずらします2)。そして、特別な専用装置によりそのずれを観測し、割れ目のずれが透水性に与える影響を調べます(前頁図左)。

しかし、このような試験を国内で行うためには、その都度、海外の専門業者に依頼する必要があり、多額の費用と時間がかかります。また、現在用いられている試験装置では、観測できる割れ目のずれ幅の上限が数㎜と限定的であるなど、技術的な課題もありました。

今般、原子力機構は新たな方法として、地層の透水性を測定するために従来用いていた汎用的な試験装置を活用して注水中の割れ目のずれを観測する方法を考案しました(前頁図右)。実際に本方法で、堆積岩中の割れ目を対象に実証試験を行い、その実用性を確認しました。

今回行った実証試験では、割れ目のずれ幅が数mmに達した直後に、数cmにおよぶ、破壊を伴うずれが観測されました。観測したずれの大きさは、特別な専用装置で観測できるずれよりも大きなものでした。そして、このような大きなずれが生じても、透水性に有意な変化が生じないことを注入後の割れ目の透水性から確認しました。

今回の成果により、今後、国内でも割れ目を人工的にずらし、割れ目のずれが透水性に与える影響を容易に調べられるようになりました。この方法は、地下深部へ流体・ガス注入を行った際に発生し得る割れ目沿いの地震性すべり3)の抑制対策(注入方法の検討)や地下の割れ目の力学的安定性の評価にも活用できます。したがって、高レベル放射性廃棄物の地層処分やCO2地中貯留のほか、地熱・石油・天然ガス開発、鉱山開発、斜面防災といった様々な地下利用に係る分野の課題解決に広く貢献することが期待されます。

本研究成果は、令和2年8月26日に国際学術誌「Engineering Geology」に掲載されました。

【研究開発の背景と目的】

近年、海外で開発された特別な専用装置(変位計内蔵;写真1)を用いて、割れ目を人工的にずらし、その際の水理・力学的な挙動を観測する試験ができるようになりました。このような試験は、割れ目がずれることにより透水性が上昇するかを実際に調べるために利用できることから、地層処分やCO2地中貯留における地層の閉じ込め性能の評価に貢献することが期待されます。また、CO2地中貯留や地熱・石油・天然ガス開発において課題となっている、地下深部への流体・ガス注入により発生し得る割れ目沿いの地震性すべりの抑制対策や、鉱山開発や斜面防災で課題となっている地下の割れ目の力学的安定性の評価にも貢献することが期待されます。しかしながら、専用装置の詳細な設計や装置自体が一般公開されていないため、試験を実施するためには、その都度、海外の専門業者に依頼しなければならず、多額の費用と時間がかかります。また、同試験装置は、割れ目のずれを精度よく観測できる一方で、観測できる割れ目のずれ幅の上限が数㎜と限定的であるなど、技術的な課題もありました。

そこで原子力機構は、国内でも同様な試験を容易にできるよう、従来、地層の透水性を計測するために用いていた汎用的な試験装置を活用して試験ができないか検討しました。これが実現できれば、透水試験4)と合わせて割れ目をずらす試験を行うことが可能となります。

写真1 特別な専用装置(全長は約7m)

【研究の手法】

着目したのは、従来の透水試験装置のうち、スライド式パッカー(写真2)と呼ばれるゴム製の器具を二つ用いた試験装置です。このパッカーは水を注入すると、パッカーの下部加締め部が上位にスライドすることにより、パッカーがゴム風船のように膨らむ仕組みとなっています(写真2下)。このようなパッカーをボーリング孔の割れ目部の上盤側と下盤側の二か所で膨らませて固定しておくと、割れ目部に注水することにより割れ目がずれた場合、両パッカーの間隔が変化します。この時、このパッカー間隔の変化に応じて、両パッカー内の圧力(パッカー圧)も変化します。図1はパッカー間隔が縮まる場合に想定されるパッカー圧の変化例を示しています。

原子力機構は図1に想定されるようなパッカー間隔とパッカー圧の関係性を確かめるために、実際のボーリング孔壁を模擬した人工パイプ(硬めの岩盤を模擬したアルミパイプと軟らかめの岩盤を模擬したアクリルパイプ)を用いて室内実験を行いました。そのうえで、原位置での実証試験として、実際に地下施設のボーリング孔に出現した破砕物を伴う割れ目の上盤側と下盤側にパッカーを設置し、高圧注水により誘発される割れ目のずれをパッカー圧の変化から算出するとともに、割れ目のずれが透水性に与える影響を調べました。

写真2 スライド式パッカー
図1 割れ目のずれ(パッカー間隔の変化)に追随するパッカー圧の変化の想定例

(割れ目がずれて、パッカーの間隔が縮まる場合は、上盤側のパッカーの上部加締め部が同パッカーを上に引っ張り、その結果パッカー内の容積が増えることでパッカー内の圧力が低下します。下盤側のパッカーは上部加締め部がパッカー内に食い込み、パッカー内の容積が減ることでパッカー内の圧力が増加します。)

【得られた成果】

室内実験の結果、図2に示すようなパッカーの上部加締め部の変位とパッカー圧の変化の関係を把握することができ、これによりパッカー圧の変化からパッカー間隔の変化量を算出する経験式を構築することができました。さらに、原位置試験の結果、注水中に有意なパッカー圧の変化を観測することができ、このパッカー圧の変化と上記の経験式から図3に示すようなパッカー間隔の短縮を推定することができました。すなわち、注水中、パッカー間隔の短縮量が数mmに達した直後に、割れ目内に破壊が起き、パッカー間隔の短縮量は一気に数cmに達しました(図3)。この時の割れ目のずれ幅は、割れ目の傾斜角度も考慮すると、パッカー間隔の短縮量と同等(すわなち数cm)かそれ以上と計算されます。今回観測された数cmにおよぶ、破壊を伴うずれは専用装置では捉えることができなかった現象です。さらに、このようなずれが生じても、有意な透水性の変化が生じないことを注入後の割れ目の透水性から確認することができました。

本方法により、特別な専用装置がなくても注水中の割れ目のずれを観測できるとともに、専用装置の上限を大きく上回る割れ目のずれも観測できることが明らかとなりました。これにより、今後、透水試験と合わせて割れ目をずらす試験が可能となり、割れ目のずれが透水性に与える影響や、地下深部への流体・ガス注入により発生し得る割れ目沿いの地震性すべりの抑制対策(注入方法の検討)、地下の割れ目の力学的安定性の検討など、地層処分、CO2地中貯留、地熱・石油・天然ガス開発、鉱山開発、斜面防災といった様々な地下利用に係る分野の課題解決に本成果が広く貢献することが期待されます。

図2 上部加締め部を上に引っ張った時のその変位量とパッカー圧の関係の例
図3 注入中に観測されたパッカー圧の変化から推定したパッカー間隔の短縮量の例

【論文掲載情報】

雑誌名:Engineering Geology, 275, 1057478 (2020)

論文タイトル:A conventional straddle-sliding-packer system as a borehole extensometer: Monitoring shear displacement of a fault during an injection test

著者:石井英一

【用語解説】

1)割れ目がずれる

地下の割れ目面には常に割れ目をずらそうとする力がかかっていますが、これに抵抗する摩擦力も割れ目面には働いているため、割れ目は通常、ずれません。しかし、何らかの原因で割れ目をずらそうとする力が摩擦力を上回ると、割れ目はずれ始めます。この原因としては、地震・断層活動に伴う地圧や水圧の変化、地層の隆起侵食に伴う地圧の変化など、様々な原因が考えられ、地層処分特有の原因としては、廃棄体の熱の影響による地圧や水圧の変化が想定されています。

2)割れ目を人工的にずらす

今回の試験では、割れ目内へ高圧注水し、割れ目面をわずかに浮かすことで、摩擦力を弱め、割れ目を人工的にずらす試みを行っています。

3)地震性すべり

(微小)地震を伴う瞬間的なすべり。

4)透水試験

注水などによって地下水の水圧に変化を与え、その過程もしくはその後に得られる流量や水圧の継時変化から地層や割れ目の透水性を評価する試験。

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