2020-03-23 国立天文台
「星形成プロジェクト」による3つの領域(オリオンA領域、わし座領域(Aquila Rift)、 M17領域)の一酸化炭素輝線強度の電波地図。背景に、実際の観測時に撮影した星空の写真を重ねています。(クレジット:国立天文台) オリジナルサイズ(1.6MB)
国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡を用いた観測研究で、星が誕生する領域の詳細な電波地図が得られました。これは、世界最高の解像度で描いた広域の電波地図です。
宇宙空間は真空ではなく、平均で1立方センチメートルあたりに気体分子が1個程度という希薄なガスが存在しています。そしてそのガスの中のところどころには、濃い「星間ガス雲」が漂っています。太陽のような恒星は星間ガス雲から生まれますが、その誕生の過程は可視光線などでは見ることができません。しかし、電波の波長域では強い放射をするため、電波望遠鏡の格好の観測対象となります。
国立天文台をはじめ、東京大学、東京学芸大学、茨城大学、大妻女子大学、新潟大学、名古屋市立大学など多くの大学の研究者で構成される研究チームは、野辺山宇宙電波観測所45メートル電波望遠鏡による観測データから、オリオンA領域、わし座領域(Aquila Rift)、 M17領域という3つの星形成領域の星間ガス雲について、詳細な電波地図を作成しました。特にオリオンA領域については、米国を中心とする国際チームと連携して、米国のCARMA電波干渉計で取得した高解像度の観測データとの合成を試みました。その結果、今までにない精細なオリオンA領域の電波地図を作り上げることに成功しました。この地図では、約3200天文単位という太陽系の60倍のサイズに相当する細かい構造まで、ガス雲を分解できています。
アルマ望遠鏡は世界最高の解像度を誇りますが、視野が狭いために広い領域の観測には長い時間が必要です。そのような長い観測時間を確保するのは実際には無理なので、アルマ望遠鏡を使って今回のような規模での広域の電波地図を作ることはできません。今回作成した電波地図は、オリオンA領域の星間ガス雲を世界最高の解像度で描いた広域電波地図と言えるでしょう。
国立天文台は、45メートル電波望遠鏡で得た観測データを次世代の研究の土台として残すことを目的とした「レガシープロジェクト」を、2014年から2017年にかけて進めてきました。今回の成果はその一つで、太陽系近傍の星形成領域について詳細な電波地図作りを進める「星形成プロジェクト」によるものです。
この研究成果は、『日本天文学会欧文研究報告(Publication of the Astronomical Society of Japan)』の特集号「野辺山45m電波望遠鏡:レガシープロジェクトとFOREST受信機」に、2019年12月に掲載されました。