スーパーコンピュータで磁気再結合によるプラズマ加熱を再現

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 地上実験と協力して宇宙プラズマの普遍的現象の解明に挑む 

2020-03-04    核融合科学研究所

 プラズマ中では、互いに向きの異なる磁力線がつなぎ変わる「磁気再結合」と呼ばれる現象が起こることがあります。磁気再結合は、太陽フレアやオーロラを引き起こしているとともに、宇宙の至る所で起きる普遍的な現象だと注目されていますが、その詳細な物理機構は解明されていません。今回は、この機構解明を目指して進められている、計算機シミュレーションと地上のプラズマ実験との共同研究を紹介します。

 地球の周辺から遥か彼方の宇宙まで、宇宙空間は希薄なプラズマで満たされていて、そこでは様々なプラズマ現象が起きています。例えば「太陽フレア」は太陽表面で高いエネルギーのプラズマが生成され、それが放出される現象です。このようなプラズマが地球付近にやってくると、人工衛星に影響を及ぼして通信障害を引き起こしたり、地球周辺のプラズマに作用して北極や南極の空に「オーロラ」を発生させたりします。太陽フレアやオーロラの発生に深く関わっているのが磁力線です。地球は大きな磁石で、北極と南極をつなぐような磁力線で取り囲まれています。この磁力線には、ゴム紐のように伸びたり縮んだりする性質があります。そして、引き伸ばされた磁力線が、向きの異なる別の磁力線とつなぎ変わる「磁気再結合」が起こると、プラズマが加熱されて高いエネルギーになることが観測されています。この磁気再結合が、太陽フレアやオーロラを引き起こしていると考えられています。さらに、遠くの星々やブラックホールの周辺にも磁力線とプラズマがあるため、磁気再結合は宇宙の至る所で起きる普遍的な現象だと注目されています。ところが、磁気再結合とそれによるプラズマ加熱の詳しい機構は分かっておらず、人工衛星を用いた観測による研究が世界中で進められています。

 一方、地上では、プラズマ実験による磁気再結合の研究が、東京大学のプラズマ実験装置TS-6(球状トカマク方式の装置、以下「TS-6」)等で行われています。TS-6では、球状トカマク方式による将来の小型の核融合炉の実現を目指し、プラズマの加熱方法の一つとして、磁気再結合を研究しています。また、磁気再結合の詳細な機構を解明すべく、プラズマや磁場の状態を様々に変えて実験を行い、それらを直接計測することで磁気再結合の特徴を調べています。このような研究は人工衛星を用いた宇宙プラズマの研究だけでは不可能であり、地上でのプラズマ実験によって、宇宙のプラズマ現象の解明につながる知見が得られると期待されています。

 磁気再結合の研究では、計算機シミュレーションも重要な役割を担っています。プラズマは電気を帯びた粒子(電子やイオン)が多数集まったものであり、個々の粒子は電気や磁気の力による影響(つまり、電場や磁場)を受けて運動しています。磁気再結合におけるプラズマの加熱機構を明らかにするためには、プラズマのエネルギー変化を粒子レベルから調べることが必要ですが、これは実験では極めて困難です。そこで、核融合科学研究所では東京大学との共同研究により、「プラズマシミュレータ」(スーパーコンピュータ)を用いて、約1億個のプラズマ粒子の運動と電場や磁場の変化を計算することで、TS-6における磁気再結合実験を模擬しました。そして、シミュレーションで得られた電場と磁場のデータと個々の粒子のデータを詳しく解析した結果、磁力線のつなぎ変えが起こると電場が新たに発生すること、プラズマのイオン粒子はその電場からエネルギーを獲得することで、プラズマが加熱されることを明らかにしました。

 このように地上のプラズマ実験と計算機シミュレーションが協力することで、磁気再結合におけるプラズマの加熱機構を解明しました。今後は、実験とシミュレーションの比較研究を更に発展させて、磁気再結合とそれによるプラズマ加熱についての理解を深めることで、宇宙プラズマ研究と核融合研究の双方に貢献していきます。

*球状トカマク:ドーナツの形をしたプラズマを磁場で閉じ込める方式には、トカマク型とヘリカル型があります。トカマク型のうち、ドーナツの直径とプラズマの太さの比が1に近い場合、装置概観が球状に見えることから球状トカマクと名付けられています。

以上

図 磁気再結合の模式図。(左)異なる向きの磁力線があり、そこにプラズマが上下から流入する場合を考えます。(中)プラズマの流れの影響で磁力線が伸び、最も近づいたところ(黄色の領域)で、磁力線がつなぎ変わります。(右)つなぎ変えが起こると、プラズマが加熱されて高いエネルギーになるとともに、右向きと左向きのプラズマの流れが新たに発生しますが、その詳しい機構は解明されていません。今回の研究によって、磁力線がつなぎ変わると、オレンジ色で示した領域に強い電場が発生し、イオン粒子はその電場からエネルギーを得て、プラズマが加熱されることが分かりました。

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2001原子炉システムの設計及び建設2003核燃料サイクルの技術
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