プラズマの振動によるイオン加熱を証明

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新ハイブリッド・シミュレーションでプラズマの自己加熱の研究が加速

2019-09-03   核融合科学研究所

 核融合発電は1億度以上の超高温プラズマ中のイオン(原子核)同士の核融合反応を利用します。プラズマの超高温状態を保持して核融合反応を持続させるためには、核融合反応によって発生する高速の粒子がプラズマを加熱するという「プラズマの自己加熱」が必要です。ところが、高速粒子は主に電子を加熱するため、核融合反応の燃料であるイオンへの加熱が弱いという問題があります。この問題解決の鍵として注目されているのが「プラズマの振動」です。プラズマは多数のイオンと電子の集まりであり、多数の分子の集まりである水や空気と似た性質を持ちます。例えば、風が吹くと水面が波打って振動するように、プラズマの中を高速粒子が動くと振動が起こります。このようなプラズマ振動と高速粒子の動きが共鳴すると、高速粒子のエネルギーが振動に移って、振動が大きくなることがあります。この際、その振動のエネルギーをイオンに与えることができれば、イオンを加熱することができます。しかし、このようなプラズマ振動によるイオンの加熱機構は、長年にわたって確証が得られていませんでした。今回、核融合科学研究所は、世界で初めて、この加熱機構を計算機シミュレーションで証明しました。

 これまで研究所では、高速粒子が引き起こすプラズマ振動を調べるための計算プログラムを開発してきました。このプログラムは、高速粒子とプラズマ振動の2種類の計算を連結しながら同時に進めることで、高速粒子とプラズマ振動の相互作用を再現します。異なる2種類の連結計算を行うことから、ハイブリッド・シミュレーションと呼んでいます。このような連結計算は、技術的に非常に困難だとされており、それを実現したこのプログラムは、革新的かつ信頼性の高いものとして、世界から評価されています。現在、このプログラムを用いて、大型ヘリカル装置(LHD)を始めとする国内外の多くの実験装置のプラズマに関するシミュレーション研究が、世界中で進められています(LHDのプラズマに関する成果は、バックナンバー282321をご参照ください)。

 今回は、このプログラムを発展させて、「新ハイブリッド・シミュレーションプログラム」を開発しました。高速粒子が引き起こすプラズマ振動によるイオンの加熱機構を調べるためには、イオンがプラズマ振動によってどのような影響を受けるのかを計算するとともに、高速粒子とイオンとプラズマ振動の3つの相互作用を計算しなければなりません。これは、これまでの2種類の連結計算よりも更に困難です。研究グループはこれに挑戦し、プラズマ中のイオンの動きを精密に計算するとともに、イオンとプラズマ振動と高速粒子の3種類の計算を連結させて、新ハイブリッド・シミュレーションプログラムを完成させました。

 この新プログラムを用いて、LHDのプラズマの大規模シミュレーションを、研究所のスーパーコンピュータであるプラズマシミュレータで実行しました。プラズマ振動と高速粒子とイオンのエネルギーの時間変化を詳しく解析した結果、高速粒子が大きなプラズマ振動を引き起こし、その振動のエネルギーがイオンに吸収されていることを示すことができました。これにより、これまで確証が得られていなかった、高速粒子が引き起こすプラズマ振動によるイオン加熱を、世界で初めて証明しました。

 新ハイブリッド・シミュレーションプログラムの開発とスーパーコンピュータの活用によって得られた本成果は、プラズマ振動を利用すれば、高速粒子によるイオンの加熱を強めることができることを、はっきりと示しています。今後、本研究が基盤となって、プラズマの自己加熱についての実験及び理論・シミュレーション研究が大きく加速すると期待されます。

以上

図1

図1 シミュレーションによって得られたLHDプラズマ中で高速粒子が引き起こす振動の様子。ドーナツの断面での、プラズマ振動による圧力変化を表しています。振動によってプラズマが圧縮されて圧力が増大した部分と、膨張して圧力が減少した部分があります。時間変化を見ると、圧力が大きくなったり小さくなったりと、振動しています。

図2

図2 プラズマの振動の時間発展(上)と高速粒子(赤)、イオン(青)、電子(ピンク)のエネルギーの時間発展。縦軸の単位は、上図はキロメートル/秒、下図はジュールです。大きなプラズマ振動が起こっている時間は、高速粒子のエネルギーが減少して、イオンのエネルギーが増加しています。これは、高速粒子が引き起こす振動によって、イオンを加熱できることを証明しています。

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2003核燃料サイクルの技術
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