圧縮アクセラレーターとして従来比1/30の超低消費電力を実現
2019-08-20 新エネルギー・産業技術総合開発機構,ストリームテクノロジ株式会社
NEDOとストリームテクノロジ(株)は、センサーやデバイスから流れ続けるデータ(ストリームデータ)を一切止めること無く連続的にロスレス圧縮できる技術「LCA-DLT」を、大規模集積回路(LSI)に実装することに成功し、IoT向け小型コンピューター用の圧縮アクセラレーターとして従来比1/30という超低消費電力を実現しました。
今後、ストリームテクノロジ(株)は、開発したLSIの事業化を進め、IoTデバイスとクラウド間の通信の低消費電力化、高速化を目指します。
また、同社は、LCA-DLTを実装済のFPGAを搭載した「ストリームデータ圧縮評価キット」を開発、本日から販売を開始しました。
なお、ストリームテクノロジ(株)は、東京ビッグサイトで開催される「イノベーション・ジャパン2019」内NEDOゾーンに出展し、本成果に関するデモを実施します。
図1 開発したLSIチップ(ST-CLS-DC30-01)の外観
図2 ストリームデータ圧縮評価キット
(LCA-DLTを実装したFPGAを搭載)
1.概要
ICT機器の間で交換される情報は、人の動きや経済情報、映像、音声といった流れ続けるデータ(ストリームデータ)であり、一度メモリやストレージに保存してから処理するのではなく、生み出された瞬間に処理しなければならないことが特徴です。今後、データ流量の大幅な削減は難しい一方で、大量に流れ続けるデータをICT機器の間で安定的に交換し続けるためには、より高速な情報の通信技術が必要になってきます。
2018年3月、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、経済産業省およびIoT推進ラボと共催した、第5回先進的IoTプロジェクト選考会議(IoT Lab Selection)※1において、ストリームテクノロジ株式会社がファイナリストに選定されました。その後、NEDOとストリームテクノロジ(株)は、2018年度からIoT機器向けのデータ圧縮用大規模集積回路(LSI)をテーマとする研究開発※2に取り組み、ストリームデータ圧縮LSIの実装・評価と評価キットの開発を進めてきました。
そして今般、NEDOとストリームテクノロジ(株)は、センサーやデバイスからのストリームデータを一切止めること無く連続的にロスレス圧縮※3できる技術「LCA-DLT(Lowest Common Ancestor-Dynamic Lookup Table)※4」を、LSIに実装することに成功しました。これによりRaspberry Pi※5やArduino※6といったIoT向け小型コンピューター用の圧縮アクセラレーター※7として利用した場合、小型コンピューター搭載のプロセッサでLCA-DLTのアルゴリズムを実行した場合と比べて1/30という超低消費電力を実現しました。今後、ストリームテクノロジ(株)は、開発したLSIの事業化を進め、IoTデバイスとクラウド間の通信の低消費電力化、高速化を目指します。本技術の社会実装が進むことにより、バッテリー駆動型高精細監視カメラの実現や、モバイル端末のバッテリー持ちの改善と通信コストの削減が期待されます。
また、ストリームテクノロジ(株)は、LCA-DLTを実装済みのFPGA(Field Programmable Gate Array)※8を搭載した「ストリームデータ圧縮評価キット※9」を開発し、本日から販売を開始しました。ユーザーは、この評価キットとセンサーやデバイスを組み合わせて、LCA-DLTの圧縮効果を簡易に試行・評価できるようになります。
なお、ストリームテクノロジ(株)は、2019年8月29、30日の両日、東京ビッグサイトで開催される「イノベーション・ジャパン2019」内NEDOゾーンに出展し、本成果に関するデモを実施します。
2.今回の成果
【1】ストリームデータ圧縮技術「LCA-DLT」をLSIに実装
従来はLCA-DLTを既存のFPGAに実装していましたが、FPGAでは使用しない回路も通電されてしまうため、圧縮・解凍時の消費電力の有効性が十分に発揮できませんでした。本事業では、LCA-DLTを必要最小限の回路で構成される専用ハードウェアとして設計することにより、低消費電力なハードウェアの圧縮システムとして、180nmプロセスでのLSI(開発モデルST-CLS-DC30-01)に実装することができました(図3)。
図3 LSI(ST-CLS-DC30-01)の配線(GDS)イメージ
(チップの大きさ:3mm角、64ピンQFPのパッケージに実装)
【2】IoT機器でのデータ圧縮処理にかかる消費電力を従来比1/30に低減
開発したLSIを用いて、4K画像の圧縮/解凍を行ったところ、一般的なIoT用小型コンピューターのプロセッサでLCA-DLTのアルゴリズムを使った場合に比べて、1/30の電力で圧縮、1/10の電力で解凍ができ、超低消費電力でストリームデータの縮小が可能であることを実証しました(図4)。
図4 4K画像の圧縮実験における消費電力比較
【注釈】
- ※1 第5回先進的IoTプロジェクト選考会議(IoT Lab Selection)
- 成長性・先導性、波及性、オープン性、社会性などの観点から優れたIoTプロジェクトを選定し、官民合同による資金支援や規制などに関する支援を行う会議です。
- ※2 研究開発
- 事 業 名:IoT社会の実現に向けたIoT推進部実施事業の周辺技術・関連課題における小規模研究開発/
IoT機器向け高性能データ圧縮LSIの開発
事業期間:2018年度
事業概要:「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/
高度なIoT社会を実現する横断的技術開発(旧:IoT推進のための横断技術開発プロジェクト)」
において、周辺技術課題に係る研究開発を行ったものです。 - ※3 ロスレス圧縮
- 圧縮・解凍しても圧縮前のデータに完全に復元できるデータ圧縮方式。1950年代に開発されたハフマン符号化や、1980年代 に開発されたZIPなどがありますが、流れ続けるストリームデータを一切止めることなく圧縮することは不可能でした。
- ※4 LCA-DLT(Lowest. Common Ancestor-Dynamic Lookup Table)
- ロスレス圧縮によってデータ量を削減することに着目した、筑波大学と九州工業大学の共同研究によって開発された、ストリームデータを止めることなく高速にロスレス圧縮する圧縮技術です。同技術のIPコアの社会実装を、筑波大学発ベンチャーのストリームテクノロジ(株)が推進しています。
- ※5 Raspberry Pi
- Raspberry Pi財団の登録商標です。
- ※6 Arduino
- Arduino, LLCの登録商標です。
- ※7 アクセラレーター
- プロセッサ(CPU)とは別に、専用の処理を行うハードウェアのことです。プロセッサと協調して動作することで、処理時間 が短縮されます。
- ※8 FPGA(Field Programmable Gate Array)
- 内部の論理回路の構造を何度も繰り返し再構成できる半導体チップ(PLD:Programmable Logic Device)のうち、回路規模が数万ゲート以上に及ぶ大規模で複雑なものです。
- ※9 ストリームデータ圧縮評価キット
- 技術仕様等の詳細については下記をご参照ください。
ストリームデータ圧縮評価キット
3.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO IoT推進部 担当:藤田、大宮
ストリームテクノロジ(株) 総務部 担当:村田
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、中里、佐藤