1億年前に形成した海底下深部の溶岩から生命生存可能性を示す鉱物を発見

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地球の海洋地殻上部は火星生命の生存可能性を類推するための手がかりに

2019-08-05  東京大学

山下 誠也(地球惑星科学専攻 修士課程2年生)

鈴木 庸平(地球惑星科学専攻 准教授)

発表のポイント

  • 海洋地殻上部は中央海嶺で噴出した溶岩が冷え固まった岩石で構成されているが、その内部で、生命活動に必要なエネルギーとなる岩石と水の反応が起きているかは不明であった。
  • 海洋地殻上部において、生命活動を下支えする岩石と水の反応が1億年に渡り継続していることが、科学掘削で得られた岩石コアの微小鉱物分析により明らかとなった。
  • 今回の調査で形成が明らかとなった鉱物が、水の存在が判明した火星の地下で普遍的な鉱物と同じため、地球の海洋地殻上部から火星の生命生存の可能性が類推されることを示した。

発表概要

地球の70%の面積を占める海洋地殻の上部を構成する岩石は、中央海嶺で噴出する溶岩が冷え固まった玄武岩(注1)であることが知られている。広大な領域を占めるため、岩石の中でも生存可能な種類の微生物が、地球上で最大の微生物生態系を形成している可能性がある。
他方で火星の地殻上部も同様に広大であるが、こちらも37億年前の大規模な火山活動で噴出した玄武岩からなり、最新の観測で火星にも生命活動に必要な液体の水が存在することが明らかになったことから、火星の地底に地球外生命が存在する可能性が指摘されている。
火星の地殻上部と類似する地球の海洋地殻上部の分析が進むことで、火星における地球外生命の存在可能性を類推するための手がかりとなることが期待されるが、海洋地殻上部の玄武岩は堆積物で覆われており(図1)、試料採取の困難さから生命生存が可能な状態かは不明であった。

図1. IODP第329次研究航海「南太平洋環流域生命探査」の掘削サイト(U1365)の水深と玄武岩コアが得られた海洋地殻上部の概要図

東京大学大学院理学系研究科の鈴木庸平准教授らの研究グループは、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)との共同研究による統合国際深海掘削計画(IODP :注2)第329次研究航海「南太平洋環流域生命探査」にて、南太平洋環流域の海底を米科学掘削船「ジョイデス・レゾリューション号(注3)」で掘削し、海洋地殻上部の玄武岩コア試料の取得に成功した(図2)。

図2. 掘削船ジョイデス・レゾリューション号(左上)、IODP第329次研究航海で得られた玄武岩コア(上中央)、岩石の亀裂に沿って粘土(層状ケイ酸塩鉱物)が形成する反応場の概要図(上左)、および走査透過型電子顕微鏡により得られた層状ケイ酸塩鉱物の元素マッピング像(下)。層状ケイ酸塩鉱物はSi、Mg、Fe、Oが主要な層構造の間にKと水分子を保持する構造をしている。

最先端の固体分析手法を駆使して玄武岩コア中の微小鉱物を調べた結果、玄武岩の亀裂に沿って海水が浸入・反応することで、層状ケイ酸塩鉱物(注4)が形成されていることを明らかにした。この層状ケイ酸塩鉱物の特徴から、岩石内部で生命活動に必要な鉄と酸素の反応(注5)が進行していることも判明した。この鉱物が発見されたのは、水深5697 mの海底から1億年前の海洋地殻を121.8 m掘削して得られたコア試料である。つまり、地殻中の深部玄武岩は1億年に渡り生命が生存可能であることを世界で初めて明らかにした。

今回の成果は、広大な海洋地殻上部には、地球上で最大の微生物生態系が存在する可能性と、層状ケイ酸塩鉱物の形成を介して海洋から元素を取り込む巨大な吸収源である可能性を支持する。また、火星地下深部の形成年代が古い玄武岩からも同じ層状ケイ酸塩鉱物が見つかっているため、火星の地底にも生命が存在する可能性を類推する上でも重要である。現在、世界各国で火星探査が計画・実施されているが、本研究により海洋地殻上部で見つかった層状ケイ酸塩鉱物に微生物が生息しているかを今後明らかにすることで、将来の火星の生命探査(注6)において現存の生命や過去の生命活動の痕跡を発見するために有益な情報になると期待される。

発表内容

海洋地殻上部は、中央海嶺で噴出した玄武岩から成る溶岩が、500から1000メートルの厚さで、海洋底の大部分を覆っている。形成年代が1000万年程度までは海洋地殻上部は熱いため、海水が内部を循環することで岩石と水の反応が促進され、生命の生存に必要なエネルギーが供給されていることが知られている。しかし、形成年代が1000万年より古い海洋地殻上部は、冷却されて熱源による水の循環が弱まるため、内部の亀裂が鉱物の形成により充填されて、海水と水の反応が起きているか、生命の生存が可能かどうか、について不明であった。形成年代が1000万年より古く、冷たい海洋地殻は、海洋底全体の90%を占めており、地球上の生態系や元素循環を理解する上で重要であるが、水深が深く、堆積物で覆われているため、実態解明のための調査が進んでいなかった。

IODP第329次研究航海では、地球上で最も表層海水の基礎生産量が小さく、最も透明度の高い海域として知られる南太平洋環流域において、1000万年、3000万年、1億年前に形成した海洋地上部を3箇所で掘削し、堆積物下の玄武岩からコア試料の採取に成功した。先行研究により、玄武岩を覆う堆積物は光合成由来の有機物に欠乏し、海水中の酸素が玄武岩の直上付近まで浸透していることが明らかになっている。本研究グループは、玄武岩の鉱物に充填された亀裂を、走査透過型電子顕微鏡を用いてナノスケールでの詳細な分析を行った結果、熱による水の循環が弱まった3000万年と1億年前に形成した試料から、1000万年前の試料には見つからない層状ケイ酸塩鉱物を発見した。また、層状ケイ酸塩鉱物が形成する玄武岩と亀裂充填鉱物の境界は、この層状ケイ酸塩鉱物で詰まり切っていないため、岩石と水の反応が1億年間に渡り継続していることが明らかとなった。この層状ケイ酸塩鉱物は、玄武岩からとけ出す鉄と、海水から浸透してくる酸素との反応により形成するため、その反応によりエネルギーを得る生物が生存可能であることも判明した。

火星は30億年前に光合成が可能な地表から水がなくなり、氷の層より下の液体状の水が存在する地下深部で、現在も生命が生存する可能性が指摘されている。そのような地下深部で仮に生命が活動するならば、光合成由来の有機物ではなく、岩石と水の反応で放出されるエネルギーに依存すると想定される。火星の地殻上部は、37億年前までの火成活動により噴出した玄武岩質溶岩で厚く覆われており、これまでの観測や探査で、今回の調査で存在が明らかになった層状ケイ酸塩鉱物と同じ鉱物が、火星の30億年前まで水と反応していた地下深部で普遍的に見つかっている。層状ケイ酸塩鉱物は形成時の水質の違いを反映して化学組成や結晶構造が変化するため、同じ層状ケイ酸塩鉱物が形成する地球の古い海洋地殻上部と火星の地下深部は、岩石内部の水環境が類似していることを示唆する。従って、地球の海洋地殻上部は火星の地下深部で生命が生存可能かどうかを類推する上で有用な情報を提供することから、海洋地殻上部の層状ケイ酸塩鉱物に微生物が生息するかを今後調査することで、火星生命が地下深部で生存する可能性を知る上での手がかりになると期待される。

発表雑誌

雑誌名
Scientific Reports

論文タイトル
Iron-rich Smectite Formation in Subseafloor Basaltic Lava in Aged Oceanic Crust

著者

Seiya Yamashita, Hiroki Mukai, Naotaka Tomioka, Hiroyuki Kagi, Yohey Suzuki

DOI番号
10.1038/s41598-019-47887-x

論文URL

用語解説

注1  玄武岩

マグマが地上や海底から噴出して冷え固まった色が黒く、鉄とマグネシウムに富む火成岩で、兵庫県城崎温泉の近くにある玄武洞の岩石としても知られる。

注2  IODP

日・米が主導国となり、2003年~2013年までの10年間行われた多国間国際協力プロジェクト。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、海底下生命圏等の解明を目的とした研究航海を実施した。2013年10月からは、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)という新たな枠組みの多国間国際協力プロジェクトに移行している。

注3 ジョイデス・レゾリューション号

米国がIODPに提供するノンライザー型掘削船。JAMSTECが提供するライザー型の地球深部探査船「ちきゅう」と比べて浅部の掘削を多数行う役割を担う。

注4 層状ケイ酸塩鉱物

粘土の主要成分で、マグマが冷却して形成した火成岩が、地表付近や海底下で水と反応することで形成する。

注5 生命活動に必要な鉄と酸素の反応

生命の中には、鉄をエネルギー源に酸素呼吸で増殖できる種類が知られており、光合成由来の有機物が存在しない火星や地球深部の環境で生命活動を行う上で重要視されている。

注6 将来の火星の地球外生命探査

NASAがMars2020ローバーを来年度に打ち上げ予定で、生命検出を目的としたシャーロックと呼ばれる分析装置を搭載している。また、火星を地表から掘削する装置も掲載されており、2026年にサンプルをリターンする計画が、米国とヨーロッパが主導で計画が進められている。発表者の鈴木庸平は、2026年のサンプルリターンの安全を惑星保護の観点で検討する国際委員会に、欧米以外では唯一の委員として参画している。

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―

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