平成30年7月豪雨における積算雨量の特徴について(西日本)

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2018/07/19 防災科学技術研究所

概要

平成30年7月豪雨では広範囲に長時間降水が持続したため,西日本を中心に土砂災害や浸水被害が多発した.防災科研では気象庁解析雨量国土交通省XRAINのデータを用いて様々な積算雨量を解析し,この豪雨(2018年6月28日から7月8日)の雨の降り方について調べた.その結果,以下のことが分かった.

  • 降雨帯の位置は南北に数百キロメートルの幅で変動しており,降雨帯の中の強雨域は一様ではなく局所的に分布していた(図1).
  • 半減期72時間実効雨量が大きな地域で土砂災害が多く発生していた(図2).
  • 同じ場所で長時間継続した線状の積乱雲群(線状降水帯)と,南からの暖湿気流が山地に遮られたことにより発生した降雨が総降水量の増加に寄与していた(図4, 5).
  • 降雨帯が南下するときに強雨が発生していた(図6).
  • 総降水量の分布と災害の発生地域は必ずしも一致しなかった(図7).
  • 24時間積算雨量が大きかった高知周辺(300 mm, 図5)では,その積算雨量の再現期間が3~4年程度であったことに対し,倉敷周辺の24時間積算雨量(200 mm, 図5)の再現期間は100年程度であり,非常に希な降雨であった.

6時間積算雨量の時間変化

図1は平成30年7月豪雨の中でも特に多くの降雨が観測された7月5日から8日における6時間積算雨量を6時間毎に示している.この期間,梅雨前線は日本付近に停滞し,それに伴い東西に伸びる降雨帯が形成されていた.天気図上の梅雨前線の位置はほぼ一定であるが,降雨帯の位置は南北に数百キロメートルの幅で変動しており,降雨帯の中の強雨域は一様ではなく局所的に分布していた.この強雨域の通過時に大雨特別警報が発表され,災害が発生していた.

6時間積算雨量の時間変化
図1: 気象庁解析雨量から計算した6時間積算雨量の時間変化.期間は2018年7月5日00時から7月9日00時(日本標準時).黄色の丸は「平成30年7月豪雨による主な河川の被災状況(7月3日~)(国土交通省)」に示される被災地点を示す.また,気象庁の大雨特別警報が発表されていた都道府県を黒太線で示す.

半減期72時間実効雨量の最大値

実効雨量は積算雨量の一種だが,N時間前の雨量に対して半減期T時間の重み 0.5^(N/T)を付けて積算した雨量で,流出や蒸発散によって地表面や土壌から水が失われる影響を考慮した積算雨量である.T=72時間の実効雨量は土砂災害の発生可能性を評価する指標として広く用いられている.図2は今回の豪雨(2018年6月28日から7月8日)期間中における半減期72時間実効雨量の最大値を示している.この解析期間中にも半減期72時間実効雨量の最大値が300 mmを越える地域が広い範囲で出現しており,これらの地域で土砂災害が発生していた.

半減期72時間実効雨量最大値
図2: 国土交通省XRAINデータから計算した2018年6月28日から7月8日(日本標準時)にかけての半減期72時間実効雨量最大値の分布.

1時間,6時間,24時間積算雨量の最大値

平成30年7月豪雨の降雨特性を明らかにするために,30分毎に更新される気象庁解析雨量を用いて1時間,6時間,24時間積算雨量を30分毎に計算し,その最大値の出現分布を調べた.

 1時間積算雨量最大値

図3は1時間積算雨量の最大値の分布を示している.一般的に,個々の積乱雲の寿命は1時間以内であることから,1時間積算雨量最大値は非常に発達した積乱雲による降雨を反映しているものと考えられる,この図には様々な走向を持つ線状のパターンが多く見られる.これらのパターンは「線状に組織化し,その線と同じ方向に移動する積乱雲群(線状降水帯)」により形成されたと考えられ,解析期間中には西日本のいたる所で線状降水帯が発生していたことが分かる.都市域では1時間あたりの降雨量が50 mmを超え始めると下水道による排水が間に合わなくなり,浸水被害(内水氾濫)が発生しやすくなることから,濃い色で示された地域では局所的な浸水が発生していた可能性がある.

1時間積算雨量最大値
図3: 気象庁解析雨量から計算した2018年6月28日から7月8日(日本標準時)にかけての1時間積算雨量最大値の分布.カラースケールの閾値(30 mm, 44 mm, 53 mm, 72 mm)は,表示領域内の70, 90, 95, 99パーセンタイル値に相当する.

 6時間積算雨量最大値

図4は6時間積算雨量の最大値の分布を示している.図3と同様に線状のパターンが見られるが,その数は減少している.線状のパターンを持つ大きな値は福岡県,広島県,愛媛県,高知県,岐阜県周辺などで見られる.これは図3に示した線状降水帯のうち,これらの地域で発生した線状降水帯が6時間程度同じ場所で持続していたことを意味する.これらの地域と平成30年7月豪雨で大きな被害が発生した地域がよく一致することから,長時間維持された線状降水帯が災害の発生に大きく寄与したと考えられる.

6時間積算雨量最大値
図4: 気象庁解析雨量から計算した2018年6月28日から7月8日(日本標準時)にかけての6時間積算雨量最大値の分布.カラースケールの閾値(87 mm, 127 mm, 149 mm, 200 mm)は,表示領域内の70, 90, 95, 99パーセンタイル値に相当する.

 24時間積算雨量最大値

図5は24時間積算雨量の最大値の分布を示している.図4と比べて線状のパターンは不明瞭になる一方,中国山地や四国山地といった大規模な山地の南側で大きな値が出現する傾向が見られた.これは大気下層の暖かく湿った南寄りの気流が大規模な山地に遮られ,そこで生じた上昇流により降雨が形成されたものと考えられる.

図6は図5の24時間積算雨量の最大値が出現した時刻(24時間の終わりの時刻)を示したものである.中部地方では6日の午前中から午後にかけて,中国・四国・九州地方周辺では6日の午前中から8日の午後にかけて出現しており,いずれの地域においても,最大値の出現場所は時間とともに北西から南東方向に移動する傾向が見られる.図1の時間変化から分かるとおり,梅雨前線に伴う強雨域は7月5日から8日の間で南北に振動しているが,この解析から積算雨量の最大値は降雨帯の南下時に出現していることが分かった.

24時間積算雨量最大値
図5: 気象庁解析雨量から計算した2018年6月28日から7月8日(日本標準時)にかけての24時間積算雨量最大値の分布.カラースケールの閾値(165 mm, 237 mm, 277 mm, 360 mm)は,表示領域内の70, 90, 95, 99パーセンタイル値に相当する.

24時間積算雨量最大日時
図6: 図5 の24時間積算雨量最大値が出現した日時の分布.

災害の発生場所と積算雨量との関係

図7は2018年6月28日から7月8日(日本標準時)の11日間の積算雨量(総降水量)を示している.今回の豪雨で大きな被害が発生した地域のうち,広島県,岡山県の総降水量は他の被災地域に比べて小さな値となっており,この総降水量の分布と災害の発生場所は必ずしも一致しない.

今回の豪雨で総降水量の多かった高知周辺と,高知周辺に比べて総降水量は少なかったが甚大な被害が発生した倉敷周辺での降雨を比較する.図5から高知周辺の24時間積算雨量の最大値は300 mm程度であり,倉敷周辺は200 mm程度である.1989年から2015年までの気象庁解析雨量から過去の降雨の統計解析を行った結果,高知周辺での24時間積算雨量300 mmの再現期間はほぼ3~4年程度であるが,倉敷周辺での24時間積算雨量200 mmの再現期間はほぼ100年であり,倉敷周辺の降雨は過去の履歴と比べると非常に希な降雨であることが分かった.

総降水量
図7: 気象庁解析雨量から計算した2018年6月28日から7月8日(日本標準時)の11日間積算雨量.カラースケールの閾値(389 mm, 519 mm, 608 mm, 952 mm)は,表示領域内の70, 90, 95, 99パーセンタイル値に相当する.

用語の説明

気象庁解析雨量
レーダ観測や雨量計の観測を組み合わせて,前1時間の降雨量をおよそ1 kmの水平解像度で解析したもの.参考:解析雨量(気象庁)
国土交通省XRAIN
XバンドおよびCバンドのマルチパラメータ(MP)レーダで構成される気象レーダネットワーク.水平格子解像度約250 mの降雨強度情報が1分毎に作成されている.参考:XRAIN 全国概況画面(国土交通省)
パーセンタイル値
データを小さな値から大きな値に並び替え(昇順),ある値が小さな方から数えて全体の何パーセント目にあたるかを示す値.
再現期間
ある現象が平均的に何年に1回発生するかを示す期間を,過去の履歴に確率分布関数を当てはめて推定したもの.参考:確率降水量の推定方法(気象庁)
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