レアアース系酸化物超伝導線の超伝導はんだによる接合に成功

ad

永久電流運転が可能な強磁場電磁石の開発加速に期待

2018-05-23 物質・材料研究機構(NIMS) 科学技術振興機構(JST)

物質・材料研究機構は、優れた磁場中超伝導特性を持つレアアース系酸化物超伝導線材注1)を、超伝導はんだで接合し超伝導状態を保ったまま通電することに初めて成功しました。新薬開発に欠かせないNMR(核磁気共鳴)装置の永久電流運転が可能になるなど、超伝導線を使った強磁場磁石の開発が加速すると期待されます。

超伝導線を使った電磁石は、電気抵抗ゼロで大きな電流を流すことができ、強力な磁場を発生することができるため、新薬開発に欠かせないNMR装置などに応用されています。もし超伝導線同士を、“超伝導接合”できれば、電流をほぼ永久に流し続けることができるため、エネルギー消費の低減や電源によるノイズの排除が可能になります。超伝導接合技術の中でも、“超伝導はんだ注2)”と呼ばれる低融点金属を用いた接合技術は、他の超伝導接合技術に比べて簡便で、広く利用されています。しかし、強磁場特性が抜群に優れたレアアース系酸化物超伝導線は、これまで、実用見込みのある超伝導線の中で唯一、超伝導はんだで接合することができず、その実用化が阻まれていました。

本研究では、超伝導はんだ接合を行う際に、超伝導層が大気にさらされないように保護層をスズ系合金で置換する初期の工程を詳しく調べ、スズ系合金はレアアース系酸化物超伝導層を侵食しやすく、超伝導状態を壊してしまうことを明らかにしました。一方、置換する時間が短すぎても良好な電気的結合が得られないため、スズ系合金による置換プロセスの時間を最適化し、さらに接合面同士を合わせた状態で加圧熱処理し、薄い銅箔で接合部分を固定することで、初めてレアアース系酸化物高温超伝導線材の超伝導はんだ接合に成功しました(図1)。

レアアース系酸化物超伝導線材での超伝導はんだ接合が可能になると、汎用のニオブ系超伝導線材注3)との超伝導接合が可能となり、すべての実用見込みのある超伝導線材の接合が可能となります。これにより、強磁場永久電流運転電磁石の開発加速が期待できます。今後、レアアース系酸化物超伝導線材の優れた通電特性を永久電流運転で利用できれば、汎用NMR装置のコンパクト化も期待され、NMR市場の活性化にもつながります。

本研究は、物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点の伴野 信哉 主幹研究員らの研究チームによって行われました。

本研究成果は、2018年春季低温工学・超電導学会(2018年5月28日~30日開催)、2018年国際応用超電導会議(Applied Superconductivity Conference, Oct. 28 – Nov. 2, 2018, Seattle)にて発表されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業(大規模プロジェクト型)「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」(プログラムマネージャー:前田 秀明 理化学研究所 放射光科学総合研究センター 客員主管研究員)の支援を受けて実施されました。

<研究の背景>

超伝導とは文字通り、銅などの既存の良導電体の枠を超えて、電気抵抗ゼロ(抵抗減衰なし)の状態で電流を流すことのできる状態です。もし超伝導線同士を一般的なはんだ接続ではなく“超伝導接合”できれば、それによって構成された電磁石は永久に磁場を出し続けることができるようになります。熱力学的要因で、実際には完全に永久とはなりませんが、実用上の時間スケールでは半永久的といわれます。電源を使わずに磁場を出し続けることができるということは、エネルギー消費が抑えられるだけでなく、電源由来のノイズを完全に排除できるようになるため、精密磁場を用いた計測装置、例えばNMR(核磁気共鳴)装置や医療用MRI(核磁気共鳴画像法)において、極めて大きな価値をもたらします。

レアアース系酸化物超伝導線は、強磁場特性が抜群に優れ、強磁場永久電流運転電磁石の線材として有望です。超伝導接合技術にはいくつか手法がありますが、その中に、いわゆる“超伝導はんだ”と呼ばれる低融点金属を用いた接合技術があります。この超伝導はんだ接合技術は、レアアース系酸化物超伝導線同士を簡便に超伝導接合する有望な方法として期待されています。また、サイズ・コストの制約から、大型の強磁場永久電流運転電磁石はレアアース系酸化物超伝導線材からなるコイルだけでなく、外層を従来のNb(ニオブ)系超伝導線材からなるコイルで構成することが望ましく、実用強磁場永久電流運転電磁石の実用化にはレアアース系酸化物超伝導線と汎用のNb系超伝導線との超伝導接合が切望されています。超伝導はんだ接合技術は、このレアアース系酸化物超伝導線とNb系の汎用超伝導線との超伝導接合を可能とします。しかしながらこれまで、レアアース系酸化物超伝導線だけが、実用見込みのある超伝導線の中で唯一、超伝導はんだ接合できていませんでした。

<研究内容と成果>

エピタキシャル成長させたレアアース系酸化物超伝導層表面は極めて平滑で、超伝導はんだとの濡れ性(くっつきやすさ)も著しく悪く、超伝導層を露出した後で超伝導はんだを接合することは極めて困難でした。また、従来からNb系超伝導線材に適用されてきた溶融低融点金属による金属マトリクス置換方法をそのままレアアース系酸化物超伝導線に適用しても、超伝導接合が形成されないことも本研究を通じてわかりました。機能性材料研究拠点の伴野主幹研究員らは、その原因を調査する中で、最初の保護層金属置換プロセスにおいて、溶融Sn(スズ)系合金が、レアアース系酸化物超伝導層を容易に侵食していくことを世界で初めて明らかにしました。

従来からNb系超伝導線に適用されてきた溶融反応による超伝導はんだ接合技術は、次の3つの基本ステップにより構成されます。①溶融Sn系合金による非超伝導金属置換、②溶融Pb-Bi(鉛-ビスマス)系超伝導はんだによるSn系合金置換、③Pb-Bi系超伝導はんだの溶融凝固による接合処理です。Nb系超伝導線は、非常に細い超伝導フィラメントが多数本、Cu(銅)母材の中に埋め込まれた構造をしています。このようなプロセスを経ることによって、超伝導フィラメントが大気にさらされることがなく連続的にSn系合金・超伝導はんだでコーティングされるため、超伝導はんだとの良好な電気的結合性が得られます。

レアアース系酸化物超伝導線は、ごく簡単に言えば、基板上に成膜されたレアアース系超伝導層の上にAg(銀)保護膜があり、さらにその周りにCuが付与された構造をしており、実は材料の構成上は、Nb系超伝導線と似た構成となっています。従って、当初は同じように従来の溶融反応による超伝導はんだ接合技術が適用できるのではないかと考えました。しかし、ステップ①や②の溶融条件を色々と変えて処理をしても、はっきりした超伝導接合状態を確認することはできませんでした。

そこで、溶融Sn系合金による非超伝導金属置換プロセスに着目し、界面反応を詳細に調査しました。具体的には、まず、レアアース系酸化物超伝導線の一番外側のCu層のみを化学腐食により除去してAg保護膜のみが超伝導層に付与された状態にします。それを温度200℃以下で一定にした溶融Sn系合金に浸し、時間を細かく区切って溶融Sn系合金による置換処理を行い、反応界面を観察しました。すると、わずか十数分ほどの短い時間で、図2のようにレアアース系超伝導層(本試験で使用した線材の場合にはGdBCO層)がSn系合金に侵食され始めることがわかりました。加えて、Ag保護膜が完全に溶けた後の溶融Sn系合金による処理において、浸す時間が短すぎても、超伝導層と超伝導はんだ間の良好な電気的結合性が得られないことも新たにわかりました。

以上のような実験結果を踏まえて、各ステップの処理条件の最適化を図ることにより、図3に示すように超伝導層上に、Pb-Bi超伝導はんだ層をきれいにコーティングすることに成功しました。接合構造としては、平坦な超伝導層面でのはんだ接合が容易に剥がれることがないよう、接合面同士を合わせた状態で加圧熱処理し、薄いCu箔でそのまま接合部分を固定する方法を提案しました。図4および図5に、レアアース系酸化物超伝導線同士およびレアアース系超伝導線材とNbTi(ニオブチタン)超伝導線との超伝導接合試験結果を示します。接合部は5~10mmと短かったにもかかわらず、両試料とも4.2K(ケルビン)、外部磁場なしで170A以上の超伝導臨界電流特性(0.1μV/cm電圧基準)を得ることに成功しました。

<今後の展開>

レアアース系酸化物超伝導線材で超伝導はんだ接合が可能になると、Nb系超伝導線材との超伝導接合も可能となり、すべての実用見込みのある超伝導線材間の接合が可能となります。これにより、強磁場永久電流運転電磁石の開発加速が期待できます。特に強磁場永久電流運転電磁石の用途として期待されるのが、NMR装置です。新薬開発などで活躍するNMR装置では、高磁場ほど分解能が上がるため、強磁場特性に優れたレアアース系酸化物超伝導線材を用いた永久電流運転による1GHz(ギガヘルツ)超級強磁場NMR電磁石の開発が世界的に期待されています。

今後、レアアース系酸化物超伝導線材の優れた通電特性を永久電流運転で利用できれば、汎用NMR装置のコンパクト化も期待され、NMR市場の活性化にもつながります。高度なNMR分析技術が、新薬開発のみならず、高付加価値のゴム製品の開発、バイオ、食品、先端材料の分析など種々の分野に普及し役立つようになります。

<参考図>

レアアース系酸化物超伝導線の超伝導はんだによる接合に成功

図1 超伝導はんだ接続されたレアアース系超伝導線

図2 Sn系合金による超伝導層侵食の様子

図2 Sn系合金による超伝導層侵食の様子

図3 接合部EDX(エネルギー分散型X線分析)マップ

図3 接合部EDX(エネルギー分散型X線分析)マップ

GdBCO層がきれいに残る。

図4 GdBCO-GdBCO超伝導接合試験結果

図4 GdBCO-GdBCO 超伝導接合試験結果

図5 GdBCO-NbTi超伝導接合試験結果

図5 GdBCO-NbTi 超伝導接合試験結果
<用語解説>
注1)レアアース系酸化物超伝導線
テープ基板上にRE(レアアース)系酸化物超伝導層(例えば、YBaCu(YBCO)、GdBaCu(GdBaCuO))をエピタキシャル成長させ、その上にAgからなる保護膜を配置し、さらにその周りをCuなどの良導電金属で被覆して線材化した超伝導線。超伝導臨界温度が液体窒素温度(77K)を超える、いわゆる高温超伝導線材と呼ばれる。レアアース系酸化物超伝導線材は、超伝導臨界温度および臨界磁場が高く、強磁場核磁気共鳴(NMR)装置、核磁気共鳴画像法(MRI)、超伝導電力貯蔵装置(SMES)、送電ケーブルなどさまざまな用途が期待されている。
注2)超伝導はんだ
特に厳密な定義があるわけではなく通称であるが、一般には融点がはんだと同等で、はんだのような使い方が可能である低融点金属の中で、低温に冷やした際に電気抵抗ゼロの超伝導状態を示す合金材料。Pb-Bi、Sn-Bi-In、Sn-Pb-Bi、Sn-In、Sn-Bi合金などがある。
注3)ニオブ(Nb)系超伝導線
代表的なNb系超伝導線はNbTi合金が超伝導フィラメントとして使用されたNbTi超伝導線。臨界温度は9K(ケルビン)程度であり、いわゆる低温超伝導線材と呼ばれているが、その取り扱いのしやすさから、MRI、超伝導リニア新幹線などの10T(テスラ)以下の中磁場領域の実用機器に最も普及している。その他、NbとSnの化合物体からなるNbSn超伝導線があり、臨界温度は約18Kと高温超伝導線材より低いものの、臨界磁場が25T以上であり、製造性、線材形状の自由度、超伝導接合技術の確立などにより、強磁場NMRや核融合炉用電磁石などの強磁場用超伝導線材として最も利用されている。
<国内・国際会議発表>

タイトル:「RE系超電導テープ線材への超電導半田接合」

発表者:伴野 信哉、浅野 稔久、小森 和範、北口 仁

会議名:2018年春季低温工学・超電導学会(船堀)

開催日:2018年5月28日~5月30日

タイトル:“Superconducting solder joint on REBCO tape”

発表者:N. Banno, T. Asano, K. Komori, M. Tachiki, S. Arisawa, H. Kitaguchi

会議名:Applied Superconductivity Conference 2018, Seattle

開催日:2018年10月28日~11月2日

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

伴野 信哉(バンノ ノブヤ)
物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 低温超伝導線材グループ(併任:技術開発・共用部門 強磁場ステーション) 主幹研究員

<JST事業に関すること>

林部 尚(ハヤシベ ヒサシ)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部

<報道担当>

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室

科学技術振興機構 広報課

0402電気応用
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました