新型コロナウイルス報告数は流行を反映しない可能性を示唆

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検査陽性報告数のみを用いた流行解析には注意が必要

2020-05-01 京都大学

水本憲治 白眉センター特定助教、大森亮介 北海道大学准教授らの研究グループは、流行初期における日本の新型コロナウイルス感染症の報告数の時間変化が、一般的に感染症流行下で観察される曲線にあてはまらず、直線的な変動をしている事を発見しました。

2019年12月に中国で確認された新型コロナウイルス感染症はパンデミックとなり世界的な流行となっています。流行状況の把握のために、確定患者、つまり、PCR検査で陽性となった方の検査陽性報告数(報告数)の時系列が多くの国で公開されており、このデータから流行状況を解析する研究が多く見られます。

しかし、本研究成果は、この期間における報告数の増減は、流行の進行による感染者の増減によるものではない可能性があり、この期間の報告数の時間変化だけでは流行状況を判断することが難しいことを示唆しています。

また、ある時点から、直線的な変動から曲線的な変動に切り替わっている事も発見しました。その時点から、報告数の時間変化によって流行状況を判断することが可能になったと考えられます。報告数データが流行状況を捉えられない原因のひとつとして検査数の不足が挙げられます。実際、パターンが変化した時点付近で1日当たりの検査数が大幅に増加しており、検査数の改善により、報告数データで流行状況を捉える事が可能になったと考えられます。

本研究成果は、2020年4月19日に、国際学術誌「International Journal of Infectious Diseases」のオンライン版に掲載されました。

新型コロナウイルス報告数は流行を反映しない可能性を示唆

図:新型コロナウイルス感染症の累積報告数と検査数

詳しい研究内容について
新型コロナウイルス報告数は流⾏を反映しない可能性を⽰唆
〜検査陽性報告数のみを⽤いた流⾏解析には注意が必要〜 ポイント
・ ⽇本の新型コロナウイルス報告数は,流⾏初期に流⾏を反映していなかった可能性がある。
・ ⽇本での検査数の増加により,報告数による流⾏状況の把握を可能にした。
・ 流⾏初期の解析には報告数だけではなく発症⽇等の情報も併せて利⽤すべき。概要
北海道⼤学⼈獣共通感染症リサーチセンターの⼤森亮介准教授,京都⼤学⼤学院総合⽣存学館/⽩眉センターの⽔本憲治特定助教らの研究グループは,流⾏初期における⽇本の新型コロナウイルス感染症の報告数の時間変化が,⼀般的に感染症流⾏下で観察される曲線にあてはまらず,直線的な変動をしている事を発⾒しました。
2019 年 12 ⽉に中国で確認された新型コロナウイルス感染症はパンデミックとなり世界的な流⾏となっています。流⾏状況の把握のために,確定患者,つまり,PCR 検査で陽性となった⽅の検査陽性報告数(報告数)の時系列が多くの国で公開されており,このデータから流⾏状況を解析する研究が多く⾒られます。
しかし,本研究成果によると,この期間における報告数の増減は,流⾏の進⾏による感染者の増減によるものではない可能性があり,この期間の報告数の時間変化だけでは流⾏状況を判断することが難しいことを⽰唆しています。
また,ある時点から,直線的な変動から曲線的な変動に切り替わっている事も発⾒しました。その時点から,報告数の時間変化によって流⾏状況を判断することが可能になったと考えられます。報告数データが流⾏状況を捉えられない原因の⼀つとして検査数の不⾜が挙げられます。事実,パターンが変化した時点付近で⼀⽇当たりの検査数が⼤幅に増加しており,検査数の改善により,報告数データで流⾏状況を捉える事が可能になったと考えられます。
なお,本研究成果は,2020 年 4 ⽉ 19 ⽇(⽇)公開の International Journal of Infectious Diseases 誌にオンライン掲載されました。【背景
2019 年 12 ⽉に中国で報告された新型コロナウイルス感染症はパンデミックとなり,世界的な流⾏となっています。感染症流⾏を制御するためには,病原体の伝播を抑える必要があります。そのためには,病原体の伝搬がどの程度起きるかを計測することが第⼀歩となります。病原体の伝搬の計測は,感染者数の時系列から推定する⼿法が⼀般的であり,再⽣産数*1で計測されます。新型コロナウイルス感染症の場合,PCR 検査で陽性となった⽅の報告数の時系列が多くの国で公開されており,このデータから再⽣産数を推定する研究が多く⾒られます。

研究⼿法
流⾏初期において,報告数の時間変化は曲線(指数関数)で近似されます。例えば,⼀⼈の感染者が⼀⼈より多い,ある定数の⼆次感染を引き起こしたとした場合,指数的に感染者は増加していく事になり,この指数増加が感染症の流⾏初期で良く観察されています。しかし,もし報告数の時間変化がこの曲線ではなく,例えば直線的な変化が観察された場合,⼀⼈の感染者が⼀⼈にしか伝搬できない状況であるか,もしくは報告数が流⾏を反映していない可能性があります。新型コロナウイルスの報告数のデータでは,この指数関数と直線のどちらのモデルがよりデータを捉えているかを,ジョン・ホプキンス⼤学が公開している⽇本,イタリアの新型コロナウイルス感染症の報告数の⽇報データを⽤い,⽐較しました。

研究成果
イタリアの報告数データは全期間において指数関数の⽅があてはまりが良く,報告数データが流⾏状況を反映している可能性が⾼い結果になりました。対して⽇本では,ある時点まで直線の⽅があてはまりが良いという結果になりました。この結果は,時間とともに⼀定の新規陽性者が報告されている事を意味します。これは,“⼀⼈の感染者が⼀⼈にしか伝搬できない流⾏状況である”という解釈以外に,検査数が限られていたため,⼀⽇当たりの新規陽性者数が⼀定になってしまい,流⾏状況を捉えられていなかったという解釈も出来ます。実際に,検査数が⼤幅に増加した⽇を境に,⽇本の報告数データでも指数関数モデルの⽅があてはまりが良くなり,報告数データは感染症流⾏を反映し始めたと考えられます。直線で説明される報告数の時期と曲線で説明できる時期の境は,⼀⽇当たりの検査数が⼤幅に増加した⽇に近く,検査数の増加が報告数データによる流⾏状況の把握を可能にしたと考えられます。

今後への期待
流⾏状況の把握は,流⾏制御の第⼀歩であり,流⾏初期における急務です。幅広い国や地域で公開されているデータは限られており,報告数の時系列データはその数少ない選択肢の⼀つです。しかしながら,検査の⽅針や計画によるバイアスが考えられるため,報告数の時系列データからの流⾏状況の解析には注意が必要となります。また,このバイアスを解消するために,発症⽇ベースの報告数の時間変化のデータ*2,⼊院者数,重傷者数,死亡者数の時間変化のデータ等,複数のデータを⽤い流
⾏を解析する必要があると考えられます。

論⽂情報
論⽂名: Changes in testing rates could mask the novel coronavirus disease (COVID-19) growth rate(検査率の変動が新型コロナウイルス感染症流⾏の成⻑率を覆い隠す可能性がある)
著者名: ⼤森亮介 1,⽔本憲治 2,Gerardo Chowell3(1北海道⼤学⼈獣共通感染症リサーチセンター,2京都⼤学⼤学院総合⽣存学館/⽩眉センター,3ジョージア州⽴⼤学公衆衛⽣学院)
雑誌名:International Journal of Infectious Diseases(感染症学の専⾨誌)
DOI:10.1016/j.ijid.2020.04.021
公表⽇:2020 年 4 ⽉ 19 ⽇(⽇)(オンライン公開)

参考図

図.新型コロナウイルス感染症の累積報告数と検査数
A. イタリアにおける累積報告数 B.⽇本における累積報告数 C. ⽇本における累積検査数。A と B において,グレーは指数関数の⽅が直線より当てはまりが良いことから報告数データが流⾏状況を反映していると判断された期間,⽩は直線の⽅が当てはまりが良いことから報告数データが流⾏状況を反映していない可能性があると判断された期間を⽰す。B と C における点線は,検査数が⼤幅に変動した⽇の前後の境界を⽰す。

⽤語解説
*1 再⽣産数 … 感染者⼀⼈当たりが引き起こす⼆次感染者数。1 を上回れば感染者数の増加,1 を下回れば感染者数が減少することを⽰す。流⾏の進⾏による免疫保持者の増加が再⽣産数を減少させると考えられるため,ほぼ全員が免疫を持っていないと仮定した基本再⽣産数や,時間とともに変化していく再⽣産数を捉えた実効再⽣産数がある。

*2 発症⽇ベースの報告数の時間変化のデータ … 陽性となった⼈が発症した⽇を調べ,発症⽇毎に発症した⼈の数をカウントしたデータ。

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