すばる望遠鏡×異常検知 AI が捉えたへんてこな銀河たち

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2021-11-23 国立天文台

国立天文台と東京大学を中心とした研究チームは、産業的利用から医療診断まで幅広い分野で実用化が進む「異常検知 AI」を用いて、すばる望遠鏡で得た大量の銀河画像の中から特異な性質を持った希少銀河を検出することに成功しました。本手法の活用により、銀河形成・進化の謎を解き明かす鍵となる、より希少な天体や未知の種類の天体を、膨大な観測データの中から検出できるようになると期待されます。本研究は未来の天文学者を育成することを目的に国立天文台・総合研究大学院大学が例年開催している「サマーステューデントプログラム」に参加した、東京大学3年生の田中匠氏が筆頭となって行いました。

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すばる望遠鏡×異常検知 AI が捉えたへんてこな銀河たち 図

図1:本研究のイメージ図。大量の銀河画像から、異常検知 AI を用いて、極端な色や形状を示す特異銀河を検出することに成功しました。(クレジット:田中匠/東京大学)


すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC;ハイパー・シュプリーム・カム) を用いた大規模探査 (すばる戦略枠プログラム) の進行により、高感度で撮影された銀河の画像をこれまでになく大量に入手できるようになりました。この探査プログラムで検出された5億を超える天体の中には、発見数が少ないために統計的解析が難しかった希少銀河や、未知の種類の天体が紛れている可能性があります。しかし銀河の数が膨大であるために、そのような天体を探しだす作業は、人の手ではもちろん、コンピューターを用いた既存の解析手法でも時間がかかりすぎてしまいます。
この問題に対し、機械学習を用いて大量のデータを効率的に処理する手法が近年検討されています。その中で、東京大学理学部3年生の田中匠氏と国立天文台の嶋川里澄特任助教が率いる研究チームは、「異常検知」と呼ばれる手法を用いてすばる望遠鏡で得られたデータから希少天体や未知天体を探査する SWIMMY (Subaru WIde-field Machine-learning anoMalY) という探査プロジェクトを立ち上げました。異常検知は教師なし機械学習の一種で、「ブラインド」に、つまりラベル付けされた大量の教師データを必要とせずに、入力されたデータ内から珍しい特徴を持つデータの抽出を行います。

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すばる望遠鏡×異常検知 AI が捉えたへんてこな銀河たち 図2

図2:異常検知を用いた手法のイメージ図。入力画像を再構成する手法を学習する深層学習モデルを、一般的な銀河を用いて訓練します (左側上段)。このモデルに希少天体 (例としてクエーサー) の画像を入力すると、珍しい特徴 (明るい中心核) を再現することができず残差が大きくなるため、希少天体として検出されます。右端の画像は、上から順に、g、r、iバンドでの残差を示しています。(クレジット:田中匠/東京大学)


SWIMMY プロジェクトの第一段階として、本研究では HSC で撮影された大量の銀河画像の中から異常検知手法を用いた希少天体の探査を行いました。用意した約5万枚の銀河画像をコンピューターに学習させ、中心部分に珍しい色特徴や明るさを持つ銀河 (全サンプルの約 12 パーセント) を検出しました。
既存の銀河カタログと照合した結果、検出した候補天体の中には、クェーサー (注1) や、爆発的に星形成をしている銀河など、珍しい特徴を持つ既知の銀河を6割程度の割合で選択できていることがわかりました。またスローン・デジタル・スカイ・サーベイ (SDSS) で取得された分光データを確認したところ、多くの候補天体が一般的な銀河に比べ非常に強い輝線を示す天体であることがわかりました。このことから既存の銀河カタログに含まれておらず、本手法によって初めて検出された候補天体の中には、これまで見落とされてきたクェーサーや極度に強い輝線銀河が多く含まれていることが期待されます。
本研究の主著者である田中匠氏は「サマーステューデントプログラムに参加する前までは機械学習に触れたことすらなかったため、このような研究を進めて約1年後に論文を書き上げているとは全く予想していませんでした。本来のプログラムの期間を大幅に超えて指導してくださった嶋川さんに深く感謝しています。現在は検出した候補天体について、詳細な解析を行うために追観測を行うことを考えています。また、よりたくさんのデータへ適用したりモデルを改良したりすることで、本手法を発展させることができます。特定の種類の天体を検出するモデルの開発などにも応用可能であると考えており、本研究は様々な発展性を秘めた研究であるといえます」と語っています。
共著者で研究を指導した嶋川里澄特任助教 (国立天文台 ハワイ観測所) は「AI を用いたブラインドな探査手法は世界的にもまだ発展途上で、今後も引き続きモデルの開発と実証実験を重ねていきたいと考えています。2020年代は、ヴェラ・C・ルービン天文台やナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡等による次世代大型探査が開始され、かつてないビッグデータが構築される見込みです。その中から我々天文学者の想像を超える未知の天体を発見する手段として、異常検知 AI が強く期待されています。今回期待の新星である田中匠さんの素晴らしい働きによって、この究極の目標に向けて大きな一歩を踏み出すことができました」と語っています。
本研究成果は、2021年11月24日付の『日本天文学会欧文研究報告 (PASJ)』に掲載されました (Takumi S. Tanaka et al. “Where’s Swimmy?: Mining unique color features buried in galaxies by deep anomaly detection using Subaru Hyper Suprime-Cam data“)。
(注1) クェーサーとは、銀河の中心に存在すると考えられている巨大ブラックホールが周囲のガスを大量に飲み込む過程で非常に明るく輝いている希少な天体です。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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