2019-08-21 新エネルギー・産業技術総合開発機構,物質・材料研究機構,アイシン精機株式会社,茨城大学
NEDO、物質・材料研究機構、アイシン精機(株)、茨城大学は、環境調和性に優れる鉄-アルミニウム-シリコン系熱電材料を高性能化させ、低温熱源を用いてのIoT機器の駆動やBLE通信が可能となる発電量を得る事に成功し、この熱電材料を使った熱電発電モジュールを世界で初めて開発しました。
容易に入手できる汎用元素のみで熱電材料を構成するため、従来のビスマス‐テルル系化合物による熱電発電モジュールに比べて熱電材料費を1/5以下と大幅に削減できる可能性があり、モジュール全体の製造コストの低減と量産化が見込まれます。また、熱的安定性や耐久性にも優れることから、各種IoT機器と組み合わせた自立電源一体型システムの開発へと大きく前進することが期待されます。
本成果を通じて、将来の爆発的な増加が予想されるIoT機器への電力供給を目指し、室温から200℃までの低温度域での微小温度差を用いた自立電源の本格的な普及と社会実装を推進します。
図1 開発に成功した鉄-アルミニウム-シリコン系熱電発電モジュール(1cm角サイズ)
図2 IoT機器の試作機(温度・湿度センサー・BLE通信機器を内蔵した温度差駆動の自立電源システム)と、データ受信状況
1.概要
近年、さまざまなデータを活用する超スマート社会の実現に向けIoT機器※1の爆発的増加が予想されており、多数のIoT機器に電力を供給する小型自立電源の開発が求められています。中でも、温度差を利用する熱電発電※2はその一翼を担う発電技術として期待されています。しかし、これまでの熱電材料は希少元素や毒性元素が含まれており、環境中のわずかな温度差を利用した自立電源として大規模な普及を目指すためには、環境調和性・耐酸化性・機械特性を併せ持ち、室温から200℃までの低温度域で高い出力を得られる高性能な熱電発電モジュールの開発が望まれていました。熱電発電モジュールの開発には、希少元素や毒性元素を含まない熱電材料の高性能化と、信頼性を持つ接合技術、量産化が可能なモジュール化技術を確立する必要があります。
これらを踏まえ、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、国立研究開発法人物質・材料研究機構、アイシン精機株式会社、国立大学法人茨城大学は、2018年度から鉄-アルミニウム-シリコン系熱電材料※3の高性能化とモジュール化の技術開発事業※4を進めてきました。
今回、4者は、鉄-アルミニウム-シリコン系熱電材料を高性能化させ、低温熱源を用いてのIoT機器の駆動やBLE通信※5が可能となる発電量を得る事に成功し、この熱電材料を使った小型熱電発電モジュールを世界で初めて開発しました。この熱電発電モジュールは容易に入手できる汎用元素のみで構成されるため、従来のビスマス-テルル系化合物による熱電発電モジュールに比べて熱電材料費を1/5以下と大幅に削減できる可能性があり、モジュール全体の製造コストの低減と量産化が見込まれます。また、熱的安定性や耐久性にも優れることから、各種IoT機器と組み合わせた自立電源一体型システムの開発へと大きく前進することが期待されます。
本成果を通じて、将来の増加が予想されるIoT機器への電力供給を目指し、室温から200℃までの低温度域での微小温度差を用いた自立電源の本格的な普及と社会実装を推進します。
なお、本研究成果は、2019年8月29日から30日まで、東京ビッグサイト(東京国際展示場)で開催される「イノベーション・ジャパン2019」で、IoT機器の試作機(図2)とともに展示します。
2.今回の成果
鉄-アルミニウム-シリコン系熱電材料は、[1]室温から200℃までの低温熱源を利用した発電が可能である、[2]大気中で650℃まで安定な優れた化学的・熱的安定性、耐酸化性を有する、[3]十分な機械特性・加工性を兼備している、という優れた特性を併せ持っています。一方で、IoT機器に取り付けて機器を安定的に駆動させるためには、さらなる高性能化と量産化可能な小型モジュール化技術の確立が、社会実装に向けた課題として残されていました。
今回、実験と人工知能(AI)を組み合わせた材料の混合割合の最適化により、鉄-アルミニウム-シリコン系熱電材料を高性能化させ、低温熱源を用いてのIoT機器の駆動やBLE通信が可能となる発電量を得る事に成功しました。また、開発した材料を使って、発電可能な異種材料間の接合や電極形成について開発を進める中で、アイシン精機(株)が保有する既存のビスマス-テルル系冷却用ペルチェモジュール※6の製造技術を応用することで、同材料の小型熱電発電モジュールを開発することに世界で初めて成功しました(図1)。この小型熱電発電モジュールは、1cm角のセラミックス基板に7対(計14個)の鉄-アルミニウム-シリコン系熱電材料で構成されています。
本成果により、センサー・自立電源一体型システムの構築に大きく前進し、超スマート社会を支える電源技術としての社会実装が期待されます。
3.今後の予定
熱電材料の合成プロセスの最適化や組成・組織制御を通して、さらなる高性能化を行います。また、モジュールの安定性や耐久性向上のため、接合技術を改善し、モジュール構成部材について、更なる小型化、低コスト材の採用検討を進めます。これらにより、将来、日本国内で1兆個ともいわれるIoT機器の駆動を支える自立電源としての普及と使途範囲の拡充に貢献します。
【注釈】
- ※1 IoT機器
- IoT機器とは温度などの物理的・化学的情報から人間の五感まで多岐に渡る情報を得るセンサーや通信機器などの総称です。
- ※2 熱電発電
- 熱エネルギー(温度差)を電気エネルギーに直接変換する発電技術です。これまで、宇宙利用の他、一部の民生利用に限られて使用されています。
- ※3 鉄-アルミニウム-シリコン系熱電材料
- 鉄(Fe)とアルミニウム(Al)とシリコン(Si)の3つの汎用元素からなる合金の総称です。
- ※4 技術開発事業
- NEDO先導研究プログラム エネルギー・環境新技術先導研究プログラム
テーマ名:IoT社会を支える分散型独立電源の技術開発
事業期間:2018年度~2020年度
- ※5 BLE通信
- BLE(Bluetooth Low Energy)は、各種センサーや体に身に付ける小型装置などでの利用が見込まれている低消費電力で動作する無線通信技術です。
- ※6 冷却用ペルチェモジュール
- 直流電流を流すことによって、局所的な冷却・加熱が可能なモジュールで、温度制御を精密に行うことができます。産業分野のみならず、小型冷蔵庫等の民生分野にも多岐にわたって使用されています。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 省エネルギー部 担当:近藤
NEDO イノベーション推進部 担当:井出
物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点 熱電材料グループ
担当:高際
物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室
担当:中道
アイシン精機(株) L&E商品本部 エネルギー技術部 ヒートポンプグループ ペルチェチーム
担当:小島
茨城大学 広報室 担当:山崎
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:中里、坂本、佐藤