2019/4/29 アメリカ合衆国・マサチューセッツ工科大学(MIT)
新しいポリマーフィルムは熱を貯めずに放散 (New polymer films conduct heat instead of trapping it)
・ MIT が、セラミックや金属を超える伝熱性を備えたポリマーフィルムを開発。
・ 軽量、フレキシブル、耐腐食性で、金属による従来の熱導体の代替として、ラップトップコンピューターの放熱材や、車輌・冷蔵庫の冷却素子等のアプリケーションが期待できる。長期的には新アプリケーションや新産業の創出、さらに金属の熱交換機の代替を見込む。
・ 同大学は 2010 年に標準的なポリエチレンの 300 倍という、ほとんどの金属に匹敵する伝熱性を有する細径ファイバーの製造を報告。熱交換機やコアプロセッサ製造業者を含む多様な産業が関心を示したが、これらのアプリケーションには扱いが容易なフィルムへのスケールアップが必須であると認識。
・ これには、熱伝導ポリマーシートの製造方法の開発に加え、その熱伝導性を試験する機器の構築、さらに同材料の微細構造画像を分析するコードの開発を要した。
・ ポリエチレンを始めとするポリマーの微細構造では、分子鎖が茹でた麺のようにからまった状態のため熱伝導が遮断される。この状態をほどいて熱が容易に移動できる平行鎖を形成するため、からまった分子鎖を解きほぐす溶液に市販のポリエチレンパウダーを溶解。カスタムメードのフローシステムでさらに分子鎖をほどき、液体窒素冷却したプレートに流し込んで厚いフィルムを形成。その後ロール・ツー・ロールでフィルムを加熱・延伸し、薄いプラスチックのラップを作製した。
・ カスタムメードした機器により同フィルムの熱伝導性を試験した結果、ほとんどのポリマーでは熱伝導率が 0.1~0.5W/m K のところ、同フィルムでは 60W/m K であることを確認(熱伝導性に最も優れたダイヤモンドで約 2,000W/m K、セラミックで 30W/m K、鋼鉄で約 15W/m K)。・ 米エネルギー省(DOE)の放射光施設の Advanced Photon Source(APS)にて X 線小角散乱により、同フィルムを構成する個々のファイバーのナノスケール構造を調査し、このような優れた熱伝導性の理由を解明した。
・ ただし、同フィルムで観られるのはフィルムを構成するファイバーの長さに沿った熱伝導であり、熱が移動するのは一定の方向のみ。ラップトップや電子デバイス内で特定の方向に熱を逃がすには有効であるが、多方向へのより効率的な熱伝導が望ましい。優れた熱伝導性を備えた等方性ポリマーが実現できれば、多くの熱伝導材料を代替できると考える。
・ 今後は製造プロセスの調整と多種類のポリマーの使用により、さらに優れた熱伝導ポリマーの開発を進める。
・ 本研究は、DOE の EERE Manufacturing Program、MIT Desphande Center、および DOE の Basic Energy Science programs が一部支援した。
URL: http://news.mit.edu/2019/metal-like-polymer-films-conduct-heat-0430
(関連情報) Nature Communications 掲載論文(フルテキスト)
Nanostructured polymer films with metal-like thermal conductivity
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-019-09697-7
<NEDO海外技術情報より>