骨粗鬆症の新たな遺伝子座位を発見

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骨粗鬆症の遺伝的要因の解明に貢献

2019-03-05 理化学研究所

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダー、呂幸芳研修生(臺北醫學大學藥學院博士課程、RIKEN IPA)らの国際研究チームは、台湾人、日本人、韓国人について骨粗鬆症に関するゲノムワイド関連解析(GWAS)[1]を行い、新しい遺伝子座位(原因遺伝子の存在する領域)を3ヵ所発見しました。本研究成果により、画期的な治療法の開発に向けた骨粗鬆症の遺伝的要因の解明が進むと期待できます。

骨粗鬆症は、骨量と骨質の低下により骨の脆弱性が増加し、骨折を起こしやすくなる疾患です。その有病率は中年以降年齢とともに増加し、特に閉経後の女性では約30%以上の人が骨粗鬆症にかかるという統計もあり、高齢化社会の大きな課題の一つとなっています。

今回、国際共同研究チームは台湾、日本、韓国の共同研究により、骨粗鬆症の良い指標である踵骨(かかとの骨)の剛性指数(SI)[2]に関するGWASのメタ解析[3]を行いました。その結果、台湾人と韓国人に共通して、遺伝統計学的に有意な相関を示す七つの一塩基多型(SNP)[4]を発見しました。これらのSNPは、7番、11番、17番染色体内の7q31.31、11q14.2、17p13.3の3カ所に存在しました。これらの3遺伝子座位の相関は、英国人のGWASデータでも再現されました。さらに、インフォマティクス解析[5]から、これらの遺伝子座位内に14の骨粗鬆症の候補遺伝子を同定しました。

本研究は、米国骨代謝学会(American Society of Bone and Mineral Research)の機関誌『Journal of Bone and Mineral Research』の掲載に先立ち、オンライン版(2月19日付け)に掲載されました。

※国際共同研究チーム

理化学研究所 生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム
研修生 呂 幸芳 (ル・シンファン)
(臺北醫學大學・藥學院博士課程、RIKEN IPA)
チームリーダー 池川 志郎 (いけがわ しろう)

臺北醫學大學 藥學院
特聘教授/副院長 張 偉嶠(チャン・ウェイチャオ)

※研究支援

本研究は、RIKEN-MOST(臺灣科技部-日本理化學研究所雙邊合作研究計畫)による支援を受けて行われました。

背景

骨粗鬆症は、骨量と骨質の低下により骨の脆弱性が増加し、骨折を起こしやすくなる疾患です。骨折による骨格の変形、歩行障害、慢性疼痛などにより、日常生活動作や生活の質が低下し、介護の必要性を増大させる原因となっています。骨粗鬆症の有病率は中年以降年齢とともに増加し、特に閉経後の女性では約30%以上の人が骨粗鬆症にかかるという統計もあり注1)、高齢化社会の大きな課題の一つとなっています。医学・医療だけでなく、社会・経済的にも深刻な問題で、その原因、病態の解明、新たな予防・治療法の確立が待ち望まれています。

骨粗鬆症は、遺伝的因子と環境因子の相互作用により発症する多因子遺伝病、生活習慣病です。理研生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームは、予防・治療に向けて、骨粗鬆症の遺伝的因子を同定し、その働きを解明しようと研究を続けています。

骨粗鬆症の遺伝因子の同定には、さまざまな評価法があります。双子や家族の研究で、踵骨(かかとの骨)の骨密度(BMD)[6]には高い遺伝率[7](82%)があることが示されています注2)。過去のゲノムワイド関連解析(GWAS)のメタ解析の結果、踵骨BMDに関連するいくつかの遺伝子座位が明らかにされています。しかし、これまでの研究は主にヨーロッパ人が対象で、東アジア人における調査はまだありません。そこで、国際共同研究チームは、台湾人、日本人、韓国人において、踵骨BMDに関するGWASのメタ解析を行うことにしました。

注1)Reginster JY, Burlet N (2006) Osteoporosis: a still increasing prevalence. Bone 38: S4-9.
注2)Howard GM, Nguyen TV, Harris M, Kelly PJ, Eisman JA. Genetic and environmental contributions to the association between quantitative ultrasound and bone mineral density measurements: A twin study. J Bone Miner Res. 1998;13(8):1318-27

研究手法と成果

超音波測定法によって得られ得る踵骨の剛性指数(SI)は、骨密度の定量的な良い指標です。国際共同研究チームは、台湾のバイオバンクからの7,742人の遺伝子情報を用いて、踵骨SIについてのGWASを実施し、SIに関連する七つの代表的な一塩基多型(SNP)を同定しました。これらは、7番(7q31.31)、11番(11q14.2)、17番(17p13.3)染色体に存在しました(図1)。続いて、Korean Genome Epidemiology Studyの韓国人(2,955人)の踵骨SIのGWASで、台湾人で得られたデータの再現性を確認しました。しかし、日本人(バイオバンクジャパン[8])の骨粗鬆症のGWASでは、これらのSNPの相関は再現されませんでした。

七つの代表的なSNPについてコンディショナル解析[9]を行うと、そのうち三つのSNP(rs2536195、rs1231207、rs4944661)がこれらの遺伝子座内の最も重要なシグナルであることが分かりました。これら三つのSNPの相関は、英国のバイオバンクのBMDのGWASでも確認され、韓国人集団とのメタ解析でも再現されました。

次に、台湾人のGWASで得られた候補遺伝子を、エピジェネティックアノテーション[10]、遺伝子オントロジー(GO)[11]、タンパク質相互作用、GWASカタログ、および発現量的形質遺伝子座(eQTL)解析[12]によって評価しました。これらの結果を統合したインフォマティクス解析により、相関遺伝子座内のSNPと遺伝子に対する14のSI関連遺伝子の候補を発見しました(表1)。

今後の期待

今後、国際共同研究を拡大して検体数を増やし、相関解析の解析力を向上させ、さまざまなインフォマティクス解析を追加することで、さらなる遺伝子の発見が期待できます。また、今回発見した候補関連遺伝子の機能解析により、骨粗鬆症の理解、病態解明がより進展することが期待できます。

原論文情報

Hsing-Fang Lu, Kuo-Sheng Hung, Hou-Wei Chu, Henry Sung-Ching Wong, Jihye Kim, Bo Youl Choi, Mi Kyung Kim, Yu-Ting Tai, Shiro Ikegawa, Er-Chieh Cho, Wei-Chiao Chang, “A meta-analysis of genome-wide association studies identifies three loci associated with stiffness index of the calcaneus”, Journal of Bone and Mineral Research, 10.1002/jbmr.3703

発表者

理化学研究所
生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム
研修生 呂 幸芳(ル・シンファン)
(臺北醫學大學・藥學院博士課程/ RIKEN IPA)
チームリーダー 池川 志郎(いけがわ しろう)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

補足説明
  1. ゲノムワイド関連解析(GWAS)
    疾患の感受性遺伝子を見つける方法の一つ。ヒトのゲノム全体を網羅する遺伝子多型を用いて、疾患を持つ群と疾患を持たない群とで遺伝子多型の頻度に差があるかどうかを統計学的に検定する方法。検定の結果得られたP値(偶然にそのようなことが起こる確率)が低いほど、相関が高いと判定できる。GWASは、Genome-Wide Association Studyの略。
  2. 剛性指数(SI)
    骨の超音波検査によって得られる二つの測定値、the speed of sound(SOS)と the broadband ultrasound attenuation(BUA)によって計算される骨密度の定量的な指標。
    SI=(0.67×BUA)+(0.28×SOS)–420
    SIはStiffness Indexの略。
  3. メタ解析
    二つ以上の統計解析結果を合わせる際に、それぞれの解析結果のばらつきを補正し、偏りのない合算をする統計学的手法。
  4. 一塩基多型(SNP)
    ヒトゲノムは30億塩基対のDNAからなるが、個々人を比較するとそのうちの0.1%の塩基配列の違いがある。これを遺伝子多型という。遺伝子多型のうち一つの塩基が、ほかの塩基に変わるものを一塩基多型と呼ぶ。SNPはSingle Nucleotide Polymorphismの略。
  5. インフォマティクス解析
    情報科学を用いたコンピュータ上での解析。ゲノム研究では、データベース上の情報を統計的手報で、検索するものが多い。
  6. 骨密度(BMD)
    骨の強度を表す指標の一つ。一定容積の骨に含まれるミネラル成分(主にカルシウム)の量。BMDはBone Mineral Densityの略。
  7. 遺伝率
    環境要因と遺伝要因の割合。遺伝率は0から1の値をとり、大きいほど遺伝要因から受ける影響が大きいことを示す。
  8. バイオバンクジャパン
    オーダーメイド医療実現化プロジェクトの基盤となるDNAサンプルや血清サンプルを47疾患(約20万人)から収集し、臨床情報とともに保管している世界でも有数の資源バンク。
  9. コンディショナル解析
    相関解析の手法の一つ。あるSNPの相関は、常にそのSNPと連鎖不平衡にあるSNPの影響を受ける。この他のSNPからの影響を排除した相関を調べる方法。
  10. エピジェネティックアノテーション
    DNAのメチル化、ヒストンのアセチル化などのエピゲノムデータについての注釈。
  11. 遺伝子オントロジー(GO)
    統一された用語(GO term)による遺伝子の生物学的概念の記述。これを用いて、遺伝子の機能情報など遺伝子関連情報を記述することで、さまざまなデータベースの遺伝子関連情報を統合して、包括的に活用できる。GOはGene Ontologyの略。
  12. 発現量的形質遺伝子座(eQTL)解析
    QTLとはQuantitative trait locus(量的形質遺伝子座)の略で、量的形質がどのように生物に表現されるかに影響を与える染色体上のDNA領域のこと。eQTL解析は遺伝子発現プロファイリングとQTL解析を組み合わせた手法であり、疾病など形質に関連する遺伝子そのもののほか、その発現に影響する調節因子(遺伝子近傍にある調節配列などのシス因子、および遺伝子に結合する転写因子の遺伝子などのトランス因子)を明らかにすることが可能である。

 

骨粗鬆症の新たな遺伝子座位を発見

図1 台湾人集団の踵骨の剛性指数(SI)のゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果

台湾人7,742人の踵骨SIについてのGWASの結果。縦軸はP値の対数値で示した相関の強さ。統計学的な有意水準を表す赤線(P=5.0×10-8)を超える強い相関を示すSNPが、7番、11番、17番染色体の3つの領域に同定された。

統合インフォマティクス解析により同定された剛性指数の候補遺伝子の図

表1 統合インフォマティクス解析により同定された剛性指数の候補遺伝子

各Marker SNPとそれが代表する遺伝子について、六つのデータベースの情報を評価し、足し算でScore(priority score)をつけた。表に示されたpriority scoreが3以上の14遺伝子が有望な候補遺伝子と考えた。

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