シリコンフォトニクス技術による光渦多重器を開発

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光渦多重通信の実用化へ大きく前進

2019-03-05  東京工業大学,科学技術振興機構

ポイント
  • 光通信帯域に対応した光渦多重器の開発に成功。
  • 波長無依存性な光渦合分波を実現。
  • 次世代の大容量データ伝送のコアデバイスとして期待される。

東京工業大学 科学技術創成研究院の雨宮 智宏 助教らは、産業技術総合研究所と共同で、光通信帯域に対応した光渦(ひかりうず)注1)多重器を開発した。シリコンフォトニクス技術注2)を用いることで、波長無依存性な光渦合分波注3)に成功し、世界で唯一のモジュール実装されたデバイスを実現した。

開発したデバイスは5つの光渦をクロストーク(混信)25dB(デシベル)程度で合分波でき、波長分割多重や偏波多重などの従来の多重方式も併用可能なことから、次世代の大容量データ伝送のコアデバイスとして期待される。

100ギガビット超光リンクの低コスト化と低消費電力が進められ、従来の多重方式に留まらず、光の自由度をより積極的に利用した次世代の方式が検討されている。中でも、光渦を利用した多重化方式は波面のらせん周期に情報を乗せることで、理論上無限チャネル多重化が可能である。大容量通信のキーコンポーネントであるマルチコアファイバー注4)との整合性にも優れていることから次世代の方式として注目されている。

研究成果は2019年3月3日~7日に米国サンディエゴで開催される光通信関連の世界最大の国際会議・展示会「OFC 2019」(The Optical Networking and Communication Conference & Exhibition 2019)で発表される。

本研究成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。

  • 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST) 研究領域「新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術」(研究総括:北山 研一)における研究課題「磁性-金属-半導体異種材料集積による待機電力ゼロ型フォトニックルータの開発」(研究代表者:水本 哲弥 東京工業大学 理事・副学長(採択当時 教授))
  • 文部科学省 科学技術人材育成費補助事業「科学技術人材育成のコンソーシアム構築事業」における「ナノテクキャリアアップアライアンス」(代表機関:産業技術総合研究所、共同実施機関:東京工業大学ほか)
  • 総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE) 「ICT研究者育成型研究開発」における研究課題「Si系光渦合分波器を用いた光通信帯における光渦多重伝送技術の構築」(研究代表者:雨宮 智宏 東京工業大学 助教)
<研究の背景>

100ギガビット光ネットワークの本格的な導入に伴い、コヒーレント光通信技術注5)が実用レベルに達している。そのような中、通信容量のさらなる増大に向けて、従来の波長多重方式注6)に加えて、光の2つの自由度(偏波と光渦)を積極的に利用した伝送方式が注目されている。特に光の軌道角運動量にあたる光渦の工学的応用には未開拓の領域が多く、今後の研究において重要視される分野となりつつある。

光渦は図1に示すように、等位相面が1波長で2πの整数倍(2π×l)になるように分布する(lは光渦モードのチャージ数と呼ばれる)。チャージ数の異なるモードは互いに直交性があるため、理論上はそれらを無限に多重化できることになる。

光渦は大容量通信のキーコンポーネントであるマルチコアファイバーとの整合性にも優れていることから、次世代の多重化技術の最有力候補となっている。近年、南カリフォルニア大学やカリフォルニア大学デービス校などのグループを中心に、光渦多重と波長多重を組み合わせることで100Tbit/s(毎秒100テラビット)級の伝送が実現されている。

<研究成果>

開発した光渦多重器は、「スターカプラ」および「光渦ジェネレーター」の2領域から構成されている(図2)。まず、入力光はスターカプラにおいて特定の位相差を持った複数の出力光に分波される。その後、それらの位相差を維持したまま、光渦ジェネレーターから光を取り出すことで、光渦を生成する。

ここで、光渦ジェネレーターは、図3に示すように3次元に湾曲したシリコン導波路の出射端が同心円上に並んだ構造となっており、導波路を伝搬した光は自動的に空間位相が同心円上に分布した光に変換される(入射時も同じ原理で、光渦多重化された信号を光渦ジェネレーターに入力することで、スターカプラの各ポートから分波された信号を得ることができる)。本開発品の最大の特徴はイオン注入技術注7)による3次元湾曲シリコン導波路を用いている点であり、これによって低損失で波長に依存しない光渦ジェネレーターを実現できる。

図4がモジュール実装された光渦多重器となる。光ファイバーの各ポートが、光渦モードのチャージ数に対応しており、それぞれのファイバーから信号光を入射すると、多重器本体のポートから光渦多重化された平行光が得られる。

図5は空間位相変調器注8)を用いて各チャージ数を有する光渦信号光を生成し、それを本モジュールに導入したときの各ファイバーポートからの光出力強度を示した結果である(チャージ数が0と+2の光渦に対する結果のみ掲載)。入射光のチャージ数に対応したファイバーポートから光が観測され、5ポート全ての測定結果から、ポート間のクロストークとして23dB超が得られた。

<開発品の特徴>

光渦多重方式の市場導入へ向けて必須となる光渦合多重器だが、光ファイバー通信システムへの適応のためには、以下の3点が強く求められており、本開発品はこれらの条件を全て満たすものとなっている。

①集積チップ化

現在の光渦多重は、その大部分が自由空間データリンクとして研究されている。そのため、光渦の合分波のために比較的大きな光学系(>1m)を組む必要があり、光ファイバー通信システムに用いる系としては実用的ではない。それを受けて、小型化・低コスト化の面からチップ化が求められる。

②既存の多重化技術との併用性

既存の多重化技術と併用できることが必須となる。特に波長多重と併用するためには、Cバンド注9)全域において、光渦合多重器の波長依存性が小さいことが望まれる。

③各種ファイバーシステムに合わせた汎用性

光ファイバー通信システムにおける多重方式として光渦多重を採用する場合、マルチコアファイバーによる通信が有望とされている。このとき、光渦合多重器に求められるのは、各種ファイバーシステムに合わせた効率的な結合を実現することである。つまり、結合先のファイバー構造が予め分かっていた場合、それに合わせる形で、セルフアラインにチップを作製することが重要となる。

<今後の展開>

本開発品を用いた光渦多重方式は、波面のらせん周期に情報を乗せることで理論上無限チャネル多重化が可能であることから、次世代の大容量伝送のコア技術として期待される。今後、波長分割多重や偏波多重などの既存の多重方式を併用することで、2023年までの実用化を目指す。

また、光渦による多重化技術が国際標準となった場合、本開発品と同系統のデバイスが広く利用される可能性があり、シリコンフォトニクスの市場規模が大きく拡大すると期待される。

<参考図>

図1 5つの光渦の等位相面

図1 5つの光渦の等位相面

チャージ数の異なる光渦は互いに直交性があるため、これらは多重化できることになる。

図2 開発した光渦多重器(5光渦多重)の光学顕微鏡画像

図2 開発した光渦多重器(5光渦多重)の光学顕微鏡画像

5×8スターカプラおよび光渦ジェネレーターの2領域から構成されている。スターカプラにて入射光を特定の位相差を持った複数の出力光に分波し、光渦ジェネレーターにて光をらせん状にねじる。

図3 光渦ジェネレーターの概要図と走査電子顕微鏡画像

図3 光渦ジェネレーターの概要図と走査電子顕微鏡画像

3次元湾曲した導波路の出射端が同心円上に並んだ構造となっている。

図4 開発したモジュール

図4 開発したモジュール

光ファイバーの各ポートが、光渦モードのチャージ数に対応。

図5 空間位相変調器によって生成された光渦を本開発品に入力したときの、各ファイバーポートの出力特性

図5 空間位相変調器によって生成された光渦を本開発品に入力したときの、各ファイバーポートの出力特性

チャージ数が0と+2の光渦に対する結果のみ掲載。5本の線はそれぞれ各ファイバーポートに対応している。

<用語解説>
注1)光渦(ひかりうず)
伝搬軸のまわりにらせん状に波面がねじれた光。ねじれ度合いの異なる光は互いに交わらないため、それらを重ね合わせて通信容量を増やすことができる。
注2)シリコンフォトニクス技術
半導体のシリコンに微細な光導波路構造をつくり、さまざまな機能を小型チップに集積する技術。高速光デバイスの超小型化・低消費電力化が可能になり、光通信システムの革新がもたらされる。
注3)光渦合分波
互いに交わらない光渦同士を重ね合わせたり、分離したりすること。
注4)マルチコアファイバー
光の通り道であるコアが、1本のファイバー内に複数本ある光ファイバー。コアごとに別々の情報を送信できるので、1本のファイバーで送信できる情報量を増やせる。このような多重方式を空間分割多重方式と呼ぶ。
注5)コヒーレント光通信技術
光の波としての性質を利用した通信方式。コヒーレント(coherent)とは干渉性があるという意味で、通信では周波数あるいは位相変調が利用できることをいう。光を強度変調する方式に比べて受信感度がよく、毎秒テラビットの大容量情報伝送が可能な波長多重通信の基本となる技術でもある。
注6)波長多重方式
1本の光ファイバーケーブルに複数の異なる波長の光信号を同時に乗せることによって、高速かつ大容量の情報通信を実現する方式。
注7)イオン注入技術
シリコンLSI製造のための重要技術の1つで、イオンを1kV~100kV程度で加速してシリコンウェハーに注入する。本研究では、注入されたイオンが原子と衝突して生じるひずみを曲げ加工に利用した。
注8)空間位相変調器
空間的・時間的に振幅変調、位相変調、または偏光を変調するために使用される液晶マイクロディスプレイ型のデバイス。
注9)Cバンド(Conventional-band)
光通信を行う際使用される波長帯域の中で、1530~1565nmにおける範囲のこと。
<会議情報>

会議名:The Optical Networking and Communication Conference & Exhibition 2019(OFC 2019)

講演タイトル:“Orbital Angular Momentum Mux/Demux Module Using Vertically Curved Si Waveguides”

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

雨宮 智宏(アメミヤ トモヒロ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 助教

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<科学技術人材育成費補助事業に関すること>

文部科学省 科学技術・学術政策局 人材政策課 人材政策推進室

<報道担当>

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

科学技術振興機構 広報課

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