世界初、印刷エレクトロニクスに最適な半導体型CNTの高純度製造技術を確立

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2018年度から名城ナノカーボンがサンプル販売開始

2018年2月8日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
日本電気株式会社
国立研究開発法人産業技術総合研究所
株式会社名城ナノカーボン

NEDOプロジェクトの成果をもとに、日本電気(株)、産業技術総合研究所、(株)名城ナノカーボンは、非イオン性分散剤を使い99%以上の高純度で半導体型の単層カーボンナノチューブ(単層CNT)を分離できる製造技術の確立に世界で初めて成功しました。2018年度から(株)名城ナノカーボンはサンプル販売を開始します。

この製造技術は、エレクトロニクス用途に悪影響を与えるイオン性分散剤を使わずに、半導体型CNTの分離が可能です。この半導体型CNTを印刷エレクトロニクスによるデバイス製造の材料として用いることで、大面積、超薄型・フレキシブル、安価かつ高速動作が可能で高性能なトランジスタを製造することができます。今後、コンビニ、スーパーなどのマーケティング用途や医療用途など、IoT利活用に必要なセンサーデバイスへの応用が期待できます。

(株)名城ナノカーボンが半導体型CNTサンプルを国内外の企業、大学、研究機関などに販売するとともに、3者は共同で用途開拓を進めることで、今後3年間で100の企業・団体への提供を目指します。

1.概要

単層カーボンナノチューブ(単層CNT)※1は、直径約1nm、長さ数µmの炭素による円筒構造体で、炭素の並び方の違い(巻き方)により半導体型と金属型といった異なる物性を示すことが知られています。特に半導体型CNTは、印刷技術を利用して電子回路などのエレクトロニクス製品を生産する印刷エレクトロニクス※2の材料(高機能性インク)として注目されています。印刷エレクトロニクスは、高い電子移動度※3と化学的安定性を持つ半導体型CNTをトランジスタのチャネル※4材料として利用することで、大面積、超薄型・フレキシブル、安価かつ高速動作可能で高性能なIoT利活用に不可欠なセンサーデバイスを製造することができます。

しかし、単層CNTは半導体型と金属型が混在して生成されるので、高性能なトランジスタのための高機能性インク材料として用いるには、半導体型CNTだけを高純度かつ効率的に分離する技術が不可欠となります。従来、密度勾配超遠心分離法※5やゲルカラムクロマトグラフィー法※6などのさまざまな分離技術が提案されてきましたが、いずれもイオン性界面活性剤などを使用するため、エレクトロニクス用途の場合、デバイスの動作を不安定にしてしまうなどの課題がありました。

そこで、日本電気株式会社(以下、NEC)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)は、イオン性界面活性剤を用いない単層CNT分離技術「電界誘起層形成法(ELF法)」を開発し、NEDOプロジェクト※7において99%以上の高純度で半導体型CNTを分離することに成功しました。そして今回、NEC、産総研、株式会社名城ナノカーボンの3者は、世界で初めてELF法による半導体型CNTの製造技術を確立しました(図1)。これにより、デバイス動作に悪影響を与える分散剤を使わずに、高機能性インク材料の製造が可能となり、印刷エレクトロニクスによる高性能なトランジスタの実現が期待できます。

なお、NEDOと(株)名城ナノカーボン、NECは、2018年2月14日から16日まで東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2018 第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」で本成果を紹介します。

電界誘起層形成法(ELF法)により99%以上の高純度で分離した半導体型・金属型CNTの分散液の図

図1 電界誘起層形成法(ELF法)により99%以上の高純度で分離した半導体型・金属型CNTの分散液
(半導体型CNTは青色、金属型CNTは赤色)

2.今回の成果

今回開発したELF法は、単層CNTを非イオン性界面活性剤※8により分散し、その分散液を分離装置に入れ、上下に配置された電極に電圧印加分離する技術です(図2(a))。本技術は、単層CNTの半導体型・金属型で異なる表面電位の差を利用し、無担体電気泳動※9により陰極・陽極にそれぞれ移動させ、分離槽内の分散液に密度の勾配を形成することで、半導体型と金属型の単層CNTの安定的な分離を実現します(図2(b))。

(a)ELF法による単層CNT分離装置 (b)光吸収スペクトルの図

図2 (a)ELF法による単層CNT分離装置 (b)光吸収スペクトル

本技術による半導体型CNTの高機能性インクを使って作製した電界効果トランジスタ(FET)を評価したところ、on状態とoff状態※10が完全に分かれた良好な均一性を持つデバイス性能が得られました(図3)。

ELF法を用いることで、99%以上の高純度な半導体型CNTを製造できるほか、塗布・印刷特性にも優れ、高性能で安定的に動作するデバイスが作製可能です。また、製造設備は安価・簡便、大型化も容易であり大量製造にも適しています。

半導体型CNTの高機能性インクで作製したFETのデバイス特性の図

図3 半導体型CNTの高機能性インクで作製したFETのデバイス特性
(16×16個のFETを並べたフレキシブル基板上で確認)

3.今後の予定

(株)名城ナノカーボンは、2018年度からELF法で製造した半導体型CNTサンプルの販売を開始します。半導体型CNTを国内外の企業、大学、研究機関などに販売するとともに、共同で用途開拓を進めることで、今後3年間で100の企業・団体への提供を目指します。これにより、印刷エレクトロニクスによる大面積、超薄型・フレキシブル、安価かつ高速動作が可能で高性能なトランジスタ用の高機能性インク材料として、半導体型CNTの利用拡大を進めていきます。

今後、コンビニ、スーパーなどのマーケティング用途や医療用途など、幅広い分野でIoT利活用に必要なセンサーデバイスへの応用が期待できます。

【用語解説】

※1 単層カーボンナノチューブ(単層CNT)
NECの飯島澄男特別主席研究員によって発見された炭素材料。黒鉛と同じく六角形の炭素ネットワークによってできている直径1ナノメートル(10億分の1メートル)の円筒状の構造体。六角形の並び方の違いで、半導体的性質を示したり、金属的性質を示したりする。生成時には、半導体型と金属型が2:1で含まれる。
※2 印刷エレクトロニクス
印刷技術を利用して電子回路などのエレクトロニクス製品を生産する製造技術。印刷技術の特性を活かして、回路の基板としてさまざまな素材が利用できること、従来の生産方式よりもプロセスが簡便なことから、次世代の技術として期待されている。プリンテッドエレクトロニクスともいう。
※3 電子移動度
キャリア(電子および正孔)の移動のしやすさ。
※4 トランジスタのチャネル
電界効果トランジスタのドレイン電極とソース電極の間に流れる電流が通過する半導体の領域。
※5 密度勾配超遠心分離法
イオン性の界面活性剤を使用する。分散したCNTの吸着量の違いにより、密度差を形成し、それを利用して分離する手法。
※6 ゲルカラムクロマトグラフィー法
イオン性の界面活性剤を使用する。分散したCNTの吸着量の違いにより、ゲルとの吸着率が変化することを利用して分離する手法。
※7 NEDOプロジェクト
今回の成果は下記の2テーマによるもの。

事業名:
低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト
テーマ名:
イオンを用いない金属型・半導体型CNT分離の実用化技術開発
事業期間:
2014年度~2016年度
実施者:
NEC、産総研
事業名:
低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト
テーマ名:
ナノ炭素材料大量生産技術の開発
事業期間:
2015年度~2016年度
実施者:
(株)名城ナノカーボン、産総研
※8 界面活性剤
洗剤に主成分として含まれる化合物であり、分子内に親水基と疎水基を持つ。界面活性剤を単層CNTに吸着させることで、水溶液中で単層CNTを分散させることができる。界面活性剤のうちスルホン酸などのイオン性官能基を含むものをイオン性界面活性剤、含まないものを非イオン性界面活性剤という。
※9 無担体電気泳動
電気泳動とは、電荷をもつ物質を電界中におくと反対の符号を持つ電極の方へと移動する現象。その際、ゲル等の担体を用いず水溶液のみで行うものをいう。
※10 on状態とoff状態
電流が流れている状態と電流が流れていない状態。ゲート電極呼ばれる電極に電圧を加えることで2つの状態を切り替える。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:尾上、多井
NEC 研究企画本部 研究プロモーショングループ

NEC コーポレートコミュニケーション部 中村、増田
株式会社名城ナノカーボン
国立研究開発法人産業技術総合研究所 ナノ材料研究部門 斎藤
国立研究開発法人産業技術総合研究所 企画本部 報道室

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:藤本、髙津佐、坂本

 

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